京都守護大学オカルト研究会 : キャンパスでの冥婚のおまじないは禁止ですっ!

木村 真理

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「ごめんね、瑠奈」

 青ざめた顔の瑠奈に、知花は申し訳なくなった。
自分と関わらなければ、瑠奈は怖い想いをすることもなかったのだ。

「知花が謝ることじゃないでしょ。……それでいうなら、なんの役にも立たなくてごめんって私も謝らなくちゃって気分になるよ」

「瑠奈が悪いわけないじゃない!」

「でしょ? なら、知花も同じじゃない? 悪いのは……、この封筒でしょ? まぁ、封筒が悪いっていうのも、なんかヘンな感じだけど」

 知花の謝罪を、瑠奈はきっぱりと切り捨てた。
そして見えない封筒を睨むように、知花のトレーをじっと見つめる。

「ハルたちにも、その赤い封筒って見えるんだよね?」

「うん。ポストカードが入っているくらいのサイズの、フツーの赤いやつ」

 ハルが答えると、伊月も無言でうなずいた。

「中は、なにが入っているの?」

 瑠奈はハルのほうを向いて尋ねたが、ハルはつい先ほど見たのを合わせても、今で二回目の遭遇だ。
いくらハルたちが怪異に詳しいとはいえ、ここは何度も封筒を見ている自分が答えるべきだろう。

「……わからないの」

 知花は、瑠奈の質問にそっと頭をふった。

「俺も。これ、軽率に触らないほうがいいかと思って」

 一拍遅れて、ハルもうなずいた。

「んー。確かに、思った以上にやっかいな匂いがするねぇ」

「わからないものは、軽率に触らないのが正解」

 梶がにやりと笑って言うと、伊月も小さくうなずいて同意した。

「っても、このままってわけにはいかねーんじゃないんすか?」

 ハルと目を合わせてうなずく伊月に、夏山が首をかしげた。

「それは、そう」

「……っつーか、夏山! その封筒、結界で囲ってくれ!」

 伊月が眉間に皺を寄せてうなずくと同時に、ハルが立ち上がって叫ぶ。

「は?」

 どうにもハルにはあたりが強い夏山は、ハルをにらんで低い声ですごむ。
しかしその指は動き、ハルの言葉に応えていた。

九字くじ……?)

 小学生のころから「寺社仏閣奇譚」にハマっていた知花は、歴史雑学もそれなりに詳しい。
夏山の指の動きは、「臨・兵・闘・者・皆・陳・列・在・前」という九字をつぶやきながらそれに相応する印を結び、刀印と縦横に直線を描く呪法を思わせた。
道教や密教、修験道にかかわりがあるものらしいが、知花にとってはそれよりも小説やアニメでよく見るもの、というイメージだった。

 それを生真面目な顔の夏山が、にぎやかな学食の一角で唐突に切り始めたので、違和感に目を見張る。

(でも、ハルくんたちはオカルト研究会なんだっけ。不思議義な力がある人が集まるサークルで対策を話し合っているのなら、九字を切るのも、ふつうなのかな……)

 はっきりと聞いたわけではないが、夏山も赤い封筒が見えていた。
きっとオカルト研究会の一員なのだろう。

 そう知花が推測している間に、知花のトレーの上にある赤い封筒は青く光る正方形の「なにか」に囲われていた。

(これが、結界……)

 誰に教えられずとも、知花にははっきりとわかった。
なにも見えない瑠奈は無反応だが、彼女も見えていれば、きっとすぐに理解しただろう。

(だって、これ。むかしやっていたアニメ版の「寺社仏閣奇譚」で密教系のお寺の擬人化キャラがよく使っていた技だもん……!)

 いっしゅん恐怖も忘れて、知花は青白い光を見つめた。

「相変わらず完璧な上に速いな」

 ハルが感嘆したように言うと、夏山は「ふふん」と胸をはる。

「だろ?」

「あぁ。悔しいけど、やっぱ夏山は、すげーな。この封筒、消えそうになっていたのに、きっちり結界に捕らえられてる」

「あ……!」

 ハルが結界と封筒をまじまじと見つめながら言うのを聞いて、知花も気づいた。
いつもなら、そろそろ封筒は消える頃合いだ。

「伊月。これ、開けてだいじょうぶか?」

 ハルが尋ねると、伊月はじっと封筒を凝視した。

「だいじょうぶ、だと思うんだけど……」

 困惑したように、伊月が言いよどむ。
すると梶は伊月とつないだ手を離さないまま立ち上がり、伊月の背後にまわって、ぺったりと背後から伊月を抱きすくめた。

 奥まった窓際の席なので人目につきにくいとはいえ、周囲の学生たちが驚いたようにちらりと目を向ける。
知花と瑠奈も驚いたが、真剣な表情で封筒を見つめる伊月と、伊月を気遣うような梶の表情を見て、なにか大切なことが行われているのだと察した。

 周囲の視線を気にもせず、伊月はじっと封筒を見つめる。
数分後、伊月は小さく息をはき、こくりとうなずいた。

「これ自体は、そんなに力はないみたい。開けても問題ないはず。ただ……」

 梶に差し出されたお茶をひとくち飲んで、伊月は知花へ視線をうつした。

「これを目印に、久保さんに悪意を持っている霊がくるかもしれない。あと、まだなにか、見えないなにかがあるような気もする……。心当たり、あるかな」

 吊り上がり気味の伊月の目は、感情の起伏は乏しいまま、なにかを探っているかのように知花をじっと見ている。

(まるで黒い猫みたい……)

 居心地の悪さに身じろぎながら、知花は口を開いた。

「えっと……、封筒が表れて消えたころ、いやな感じの視線は感じました。見えるものじゃないし、感覚的にとしか言いようがないんだけど……」

「あぁ、そういうのってあるよね」

 誰にも見えないのに見えてしまう赤い封筒には悩まされたが、ハルたちに見えるとなれば説明は簡単だった。
けれど知花にとっても見えない視線の話は、あいまいに語らざるを得ない。
ほんとうにそんなものがあるのか知花にも自信はもてず、もごもごと小声で言った。

 伊月はそんな知花の目を見て、当たり前のようにうなずいた。
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