京都守護大学オカルト研究会 : キャンパスでの冥婚のおまじないは禁止ですっ!

木村 真理

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 当然のように自分の言葉を受け入れてもらえて、知花はほっと息を吐いた。

「他にも、心当たりってある?」

 伊月は、知花を見つめたまま、たんたんと聴いてきた。

「他……。あえていうなら、ときどき、すごく寒く感じます。封筒が現れる前後に」

「ふうん……。面白いね」

 伊月は小さくうなずいて、あらためて知花を見た。

「ほんとうに、面白い……」

 言いながら、伊月はふらっと体勢を崩し、背後の梶にもたれかかるように倒れた。

「伊月……、ちょっと深追いしすぎだ」

 梶は大きな体を縮めて、伊月を抱きとめる。
ハルは席を立ち、自分の椅子をずらして、伊月の椅子にぴったりと並べた。

「梶先輩、こっち座ってください」

「おー、わりぃな。ハル」

 梶はハルの椅子に座ると、伊月の頭を抱え込んだ。

「アキ、はなして。だいじょうぶだから」

「黙れ、伊月。自分の限界超えたことして倒れ掛かってる人の話はききませーん」

 梶の腕を外そうと首をふる伊月の頭を、梶はますます力を込めて抱きかかえた。
そして梶が座っていた席にうつったハルと知花に片手をあげた。

「ごめんな、伊月はちょっと休憩とらせるわ」

「もちろんです! ……でも伊月がそんなになるなんて、これ、わりとヤバい感じなんですね」

「べつに、その封筒はそんなヤバくないよ」

 梶の腕の中から、伊月が疲れた声で言った。

「伊月。お前はしばらくおとなしくしてろ」

「話すくらいだいじょうぶだって……。アキは過保護すぎ」

「すぐ倒れそうになるお前が悪い」

「これくらい、もう平気だし」

 ふてくされたように言う伊月を、梶は力任せに抱きしめた。
「ぐえっ」という小さな声が聞こえて、ハルはおろおろと二人を見ている。

「そんな青い顔色して、平気なわけないでしょ」

「アキが締め付けてくるからでしょ……。ていうか、あとちょっとでいろいろわかりそうなのに。邪魔しないでよ」

「その前にお前が倒れたらどうするんだよ。邪魔するに決まってるでしょーが」

 伊月が赤い封筒を集中して視ようとするたび、梶は伊月を締め付けたり、つついたりしてその集中を妨げる。

「もー! 邪魔するなって!」

「お前、自分の顔色見てから言えよ。それに、その封筒自体はそう悪いものじゃなさそうって言っても、それを目印に悪い霊がくるかもしれないんだろ。そのうえ、他にもまだなんかあるっぽいって……。お前がそんな集中して視てもわからないなら大物って可能性もあるんだぞ」

「だーかーら。そういうんじゃないんだってば。大物とかじゃなくて、わかりにくいだけ! 手がかかりが少ないから、わかりにくいってだけなんだって」

 伊月と梶が、もめ始めた。
べったりとくっついたまま言い争うふたりは、伊月はただただうっとうしそうで、梶は伊月を過剰に心配しているように見えた。
喧嘩のような怒りはどちらにも見えないので、怖くはない。

 とはいえ、知り合ったばかりの男子の言い合いに割って入るのは難しく、そもそもどちらの言い分が正しいのかも知花にはわからない。
 赤い封筒が危険を招くというのなら、それがどんなものなのか気にならないわけはない。
身勝手は承知だけれど、伊月にそれを探ってほしいという気持ちもあった。
 だがそれも、伊月が危険だというのなら、お願いするのも躊躇する。

 膠着した場を動かしたのは、夏山だった。

「じゃぁ、この封筒、俺が開けましょうか」

 夏山は、山盛りに盛られていたどんぶりのごはんも、ヤンニョムチキンも食べきっていた。
満足げな笑みを浮かべ、上機嫌で梶を見た。

「夏山が……?」

 梶が思案気にいうと、梶の腕の中から伊月が口をはさんだ。

「夏山はダメ。ハルが開けて」

「俺が……?」

 ハルは不思議そうに首をかしげたが、「まぁ伊月がそういうなら」と知花のトレーに視線を移した。

「じゃ、開けるな」

 悔しそうな表情の夏山の前で、ハルは結界の中の封筒へ手を伸ばす。
青白い光に囲われたところにハルの手が入っていくのを見て、知花は叫びそうになったが、ハルのすらりとした手はなんの抵抗もなく結界の中に入り、赤い封筒をつかんだ。

「なにも危険はないと思うけど、いちおうその結界の中で開けてね」

「おう!」

 伊月の指示に短くうなずいて、ハルは封筒に手をかけた。
封筒は封もされていなかったらしく、折り返されている蓋の部分はなんの抵抗もなく開いた。

「うひー。伊月、これって中身だしたほうがいいよな?」

「うん、お願い」

「わー。なんか緊張する……」

 ハルはおびえたような表情で言うが、手の動きはよどみない。
一瞬の間をおいて、封筒の中から一片の紙をとりだした。

 突如あらわれる、赤い封筒。
ポストカードサイズのそれに入っていたのは、同じく深い赤色のポストカードのような紙だった。

「じゃぁ、開けるなー」

 半分に折りたたまれたカードを持って、ハルは伊月の顔を見る。
伊月はまだ少し青ざめた顔色で、梶にもたれかかったままうなずいた。

 そっとハルがカードを開いた。

「……っ」

 その瞬間、知花の口から声にならない声が漏れた。

 赤い封筒に入っていた、赤いポストカード。
そこには、黒々とした墨蹟で「相川友也」「久保知花」。
見知らぬ男の名前と、知花の名前だけが書かれていた。


 
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