【作業中】召喚された勇者が望むのは、婚約破棄された騎士令嬢(異世界の婚約破棄から始まる短編小説つめあわせ)

木村 真理

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私の婚約者(王子)がお馬鹿すぎる。……でも好き、っていうこの羞恥に満ちた状況について

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 「婚約破棄する」と言った王子の声は、小さくなかった。

 学院の創立記念行事のラストを飾る今日のパーティは、無礼講がたてまえだ。
パーティがもう少し進んでいたなら大音量の音楽がかけられ、参加者がダンスを楽しむプログラムだったから、他の方にはこの声は聴かれなかったかもしれない。

 だけど、パーティはまだはじまったばかり。
人々は談笑していたけれど、盛り上がるほどではなかった。
宣言と言ってもいいほど明瞭な王子の言葉は、パーティ会場の隅々にまで響くようだった。

 とたんにパーティ会場は小さなざわめきが起きる。
周囲にいた人々は「まさか」と言いながら、困惑した表情でホールの中央に立つ王子と私、それにカインズ男爵令嬢に目を向ける。

 人々の視線を感じて、私は目を伏せた。

 学校主催のダンスパーティだから、出席者は私と同じ年代の子どもばかりで、大人はいない。
とはいえ、同年代の貴族の子弟はほとんど今日のパーティに出席している。
好奇の視線は、気が強くない私の身には堪えた。

 なにしろ彼らは、私のことも王子のことも、よく知っている。
そして、これからも彼らとの付き合いは続くというのに、こんな事態。
とんだ恥さらしもいいところだ。

「顔をあげろ」

 そんな私の気持ちなど忖度するつもりもない王子は、厳しい声で言う。

 昔から、彼はいつもこんなだった。
いつもいつもひとりよがりで、私の意見なんて聞かないで、私の心をかってに決めつけて。
挙句に、私を傷つけるような馬鹿なことをしでかす。

 ほんと、うんざりだ。
震えそうになる体を必死で抑えて、顔をあげて、王子と視線を合わせる。

 王子は、今日もいい男って感じだった。
銀の髪にアイスブルーの目が印象的なあまく整った容貌と、対照的にがっしりと鍛えられた武人の体。
王子として知性と社交性を叩き込まれ、武人として他者の追随を許さない実力を誇る彼の所作は、優雅にして野性的。

 まぁ性格は思い込みが激しくて脳が筋肉でできていて、自分勝手なお馬鹿さんなんだけど。
被害者がほぼ私だけなせいか、周囲の人の彼をみる目は優しかったりする。
 武人としての彼は超人的なので、ちょっとアレなところも親しみがあっていいそうです。
私は迷惑かけられっぱなしだから、そんな暖かな気持ちにはなれないけどね!
現在進行形で、今も泣きそうな気分ですし。

「エリザベス。いやブラッドリ侯爵令嬢。君との婚約期間は長い。……なにか、言いたいことはないか?」

 婚約破棄、ねぇ。

 それが王子の本心なら、言いたいことは山ほどある。
物心ついたころからこの王子の傍で育ち、この王子の妻となるよう育てられたのだ。
言いたいことのひとつやふたつや百や千、ないほうが不思議でしょう?

 なにしろこの俺様王子ときたら、暇があれば私を王宮によびつけやがるのである。
王子が勉強している際も傍でひかえさせられていたんだけど、その時王子は喉がかわいたの、菓子が食べたいのとぶつくさいいやがる。
愚痴をいうだけならいいのだけど、面倒だからと放っておくと、今度は勉強をさぼりだす。
王子の教師の方々やメイドの懇願を受けて、私は王子が愚痴を言いだすと、彼の口にお菓子を運んであげたり、メイドが用意したお茶を王子に手渡したりさせられた。
そうすると、ようやく王子は勉強に戻るというのがルーティンだった。

 ……まだ幼い侯爵令嬢の私が、ですよ?
普通なら、ありえない。

 他にも、パーティの時には、彼の服に似た衣装のドレスを強要されたりもする。
今日のドレスも、銀糸の刺繍をたっぷりあしらった薄いブルーのドレスだ。
同色のチュールを何枚もまとったドレスは繊細できれいだけど、黒髪黒目の私にはあまり似合わない。
当然だ、銀の髪とアイスブルーの瞳を持つエドワード王子に合わせた色彩のドレスなんだもの。
私だって、自分を引き立たせるドレスが着たいのにね。

 だけど「言いたいこと」なんて、言う必要ない。
王子が私にむける視線が、なにより雄弁に彼の気持ちを語っている。

 ……あぁ、本当にばかばかしい。

 こんな茶番に、泣きそうになるなんて。
こみあげてくる怒りを押し殺し、私はスカートをつまんで腰をおり、王子へと礼をとった。

「ございません、王子。わたくしたちの婚約は、王に定められたもの。ですが、王はわたくしたちがこの学院を卒業するまでの間に、お互いの心が通わない場合、婚約を解消するようにとおっしゃっていました。王子がそれをお望みになるのなら、わたくしはお心に従いましょう」

「なんだと!?」

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