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召喚された勇者が望むのは、婚約破棄された騎士令嬢
17: side シスレイ5
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でも、実際のシスレイの死は、お粗末な限りだった。
死を身近に感じながらシスレイは、あの時の王妃の予言のように華々しく人に憎まれて殺されたかったと思った。
それとも「ろくな死に方はしない」という王妃の予言は、ある意味であたったのだろうか。
こんなところで、ひとり、だれにも気づかれず、獣に食われて死ぬことになるなんて。
やっぱり、あの勇者に関わるべきじゃなかったんだわ、とシスレイは笑った。
本能では、あの勇者に関わるべきじゃないとわかっていた。
シスレイが狙った男をすべて手中に収めることができるのは、無理そうな男には手を出さないからだ。
シスレイは、男を見た瞬間、自分がおとせるか否か、瞬時に見分けることができた。
相手を見た瞬間、ぞくぞくする喜びを感じたら、それが「おとせる」という合図だ。
そうやってシスレイは、いわば安全な釣りを行っていたのだ。
たとえば、シスレイが今回ひっかけた愛妻家の王だって、10年ほど前ならひっかけられなかっただろう。
あの王がシスレイになびいたのは、自分の体力や男としての自信に不安を抱いていたからだ。
年齢と共に失われた男としての魅力を自覚して残念に感じていた時に、シスレイという若く美しい女が言い寄ってきたので、つい誘惑に乗ってしまったのだろう。
そのせいで長年育んできた妻との愛情や信頼を失い、臣下にも密かに軽蔑されるようになったが、まぁ自業自得というものだ。
シスレイとしては、あの王を見た瞬間、「いける」という予感、ぞくぞくする快楽を感じていたので、王をおとせることに自信はあった。
けれど今回、勇者を誘惑するときには、この予感はまったく動かなかった。
むしろシスレイの本能は、やめておけと囁いていた。
シスレイは、気づいていた。
いつもの「いける」という予感がないのは、勇者がカミーユを心から愛しているからだと。
そこにシスレイが入る余地などないのだと。
そして最強の勇者を怒らせれば、自分の命も危ういと。
けれど、シスレイの欲望は止められなかった。
シスレイは勇者本人には何の興味もなかったが、みんなの頂点にたつことを力でしめした男を、自分の意のままに動かしたいという欲望はあった。
そしてシスレイが楽しんでいたおもちゃであるカミーユとの仲を引き裂き、ふたたびカミーユを絶望につきとばしたいという欲望も。
本能は繰り返しシスレイに「無理だ」と伝えてきていた。
それでも、シスレイは止まらなかった。
勇者を褥であまく蹂躪し、それをカミーユに見せつけるという計画に取りつかれてしまったからだ。
シスレイは勇者を誘惑しようと、夜会で話しかけた。
豊かな胸を、さりげなく勇者の腕に押し付ける。
と同時にほそくたおやかな指先で、勇者の腕をくすぐりながら、その耳元で勇者の名を囁いた。
死を身近に感じながらシスレイは、あの時の王妃の予言のように華々しく人に憎まれて殺されたかったと思った。
それとも「ろくな死に方はしない」という王妃の予言は、ある意味であたったのだろうか。
こんなところで、ひとり、だれにも気づかれず、獣に食われて死ぬことになるなんて。
やっぱり、あの勇者に関わるべきじゃなかったんだわ、とシスレイは笑った。
本能では、あの勇者に関わるべきじゃないとわかっていた。
シスレイが狙った男をすべて手中に収めることができるのは、無理そうな男には手を出さないからだ。
シスレイは、男を見た瞬間、自分がおとせるか否か、瞬時に見分けることができた。
相手を見た瞬間、ぞくぞくする喜びを感じたら、それが「おとせる」という合図だ。
そうやってシスレイは、いわば安全な釣りを行っていたのだ。
たとえば、シスレイが今回ひっかけた愛妻家の王だって、10年ほど前ならひっかけられなかっただろう。
あの王がシスレイになびいたのは、自分の体力や男としての自信に不安を抱いていたからだ。
年齢と共に失われた男としての魅力を自覚して残念に感じていた時に、シスレイという若く美しい女が言い寄ってきたので、つい誘惑に乗ってしまったのだろう。
そのせいで長年育んできた妻との愛情や信頼を失い、臣下にも密かに軽蔑されるようになったが、まぁ自業自得というものだ。
シスレイとしては、あの王を見た瞬間、「いける」という予感、ぞくぞくする快楽を感じていたので、王をおとせることに自信はあった。
けれど今回、勇者を誘惑するときには、この予感はまったく動かなかった。
むしろシスレイの本能は、やめておけと囁いていた。
シスレイは、気づいていた。
いつもの「いける」という予感がないのは、勇者がカミーユを心から愛しているからだと。
そこにシスレイが入る余地などないのだと。
そして最強の勇者を怒らせれば、自分の命も危ういと。
けれど、シスレイの欲望は止められなかった。
シスレイは勇者本人には何の興味もなかったが、みんなの頂点にたつことを力でしめした男を、自分の意のままに動かしたいという欲望はあった。
そしてシスレイが楽しんでいたおもちゃであるカミーユとの仲を引き裂き、ふたたびカミーユを絶望につきとばしたいという欲望も。
本能は繰り返しシスレイに「無理だ」と伝えてきていた。
それでも、シスレイは止まらなかった。
勇者を褥であまく蹂躪し、それをカミーユに見せつけるという計画に取りつかれてしまったからだ。
シスレイは勇者を誘惑しようと、夜会で話しかけた。
豊かな胸を、さりげなく勇者の腕に押し付ける。
と同時にほそくたおやかな指先で、勇者の腕をくすぐりながら、その耳元で勇者の名を囁いた。
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