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召喚された勇者が望むのは、婚約破棄された騎士令嬢
30: Side サイラス 12
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騎士に復帰したサイラスは、順調に元の生活になじんだ。
治癒師のおかげで切断された右足は戻ってきたものの、元の足ではない。
治療中、訓練にも参加できていなかった。
サイラスの脚は思うように動かず、そんな自分に苛立ち、日夜訓練にあけくれていた。
そんなサイラスを見て、一度は彼を外道と見なしていた騎士たちも、評価を変えた。
彼の努力は評価できる。
母や妹たちを売ったのも、やむを得なかったのだろう、と。
もとより、そういった噂に詳しいのは、色ごとにだらしのない騎士が多かった。
彼らは、女性を色ごとの対象としてしか見ていない。
彼らにとって、サイラスの母や妹たちは、自分たちの周囲にいる花街の女性や娼婦と変わりなかった。
その程度のことで死を選んだ妹たちに、不快感を覚えてさえいた。
また実の母を売ってまで、騎士という職に執着したサイラスのことを、気概があると評価する者もいた。
彼らの所感でいえば、サイラスは悪くない。
悪いのは、身持ちの悪い、あるいは些細な事で大騒ぎを起こしたサイラスの母や妹たちだ、という論理だ。
そのため、サイラスの脚がよくなり、他の騎士の訓練についていけるようになるころには、サイラスはむしろ以前よりも一部の騎士に評価されるようになっていた。
そのため、サイラスは、新たに親しくなった騎士の仲間と飲みに行くことが増えた。
その酒席は楽しかったが、騎士仲間たちは、サイラスがカミーユの婚約者であることを知っている。
カミーユは女性であるが、騎士の仲間でもある。
そして騎士たちは、サイラスの脚を治すために、カミーユの実家が膨大な金を費やしたことも知っていた。
そのため、騎士たちはサイラスが美しい酌婦と親しくなると、さりげなく「お前には大切にしなくてはいけない婚約者がいるだろう」と口を出すことがあった。
それはほんの数回のことであったが、常々カミーユの外見を心の中でくさしているサイラスには、苛立たしくてならなかった。
騎士としての生活が順調にいけばいくほど、サイラスはカミーユの存在がうっとうしくなった。
カミーユの実家から、そろそろカミーユと結婚してはどうかとたびたび催促されるのも、腹立たしい。
サイラスがのらりくらりと結婚を延期しようとすると、しだいにカミーユの実家は苛立ち、サイラスの治療や妹たちの葬儀に莫大な金を提供したことをほのめかすようになった。
そのことも、サイラスをいらだたせた。
まるで、自分はカミーユに金で買われるかのようだ、と。
自分ほど実力がある騎士が、なぜあんな醜女を嫁にしなければならないのか、と。
そんな時、サイラスの前に現れたのが、アンリエール姫の侍女のシスレイだ。
彼女は、サイラスに囁いた。
「サイラス様は、なんておかわいそうなのかしら。こんなに素敵な方なのに、カミーユなんかと結婚しなくてはならないなんて」
蠱惑的な、真っ赤な唇がサイラスを誘うように笑みの形をつくる。
その唇から、サイラスは目を離せなくなった。
治癒師のおかげで切断された右足は戻ってきたものの、元の足ではない。
治療中、訓練にも参加できていなかった。
サイラスの脚は思うように動かず、そんな自分に苛立ち、日夜訓練にあけくれていた。
そんなサイラスを見て、一度は彼を外道と見なしていた騎士たちも、評価を変えた。
彼の努力は評価できる。
母や妹たちを売ったのも、やむを得なかったのだろう、と。
もとより、そういった噂に詳しいのは、色ごとにだらしのない騎士が多かった。
彼らは、女性を色ごとの対象としてしか見ていない。
彼らにとって、サイラスの母や妹たちは、自分たちの周囲にいる花街の女性や娼婦と変わりなかった。
その程度のことで死を選んだ妹たちに、不快感を覚えてさえいた。
また実の母を売ってまで、騎士という職に執着したサイラスのことを、気概があると評価する者もいた。
彼らの所感でいえば、サイラスは悪くない。
悪いのは、身持ちの悪い、あるいは些細な事で大騒ぎを起こしたサイラスの母や妹たちだ、という論理だ。
そのため、サイラスの脚がよくなり、他の騎士の訓練についていけるようになるころには、サイラスはむしろ以前よりも一部の騎士に評価されるようになっていた。
そのため、サイラスは、新たに親しくなった騎士の仲間と飲みに行くことが増えた。
その酒席は楽しかったが、騎士仲間たちは、サイラスがカミーユの婚約者であることを知っている。
カミーユは女性であるが、騎士の仲間でもある。
そして騎士たちは、サイラスの脚を治すために、カミーユの実家が膨大な金を費やしたことも知っていた。
そのため、騎士たちはサイラスが美しい酌婦と親しくなると、さりげなく「お前には大切にしなくてはいけない婚約者がいるだろう」と口を出すことがあった。
それはほんの数回のことであったが、常々カミーユの外見を心の中でくさしているサイラスには、苛立たしくてならなかった。
騎士としての生活が順調にいけばいくほど、サイラスはカミーユの存在がうっとうしくなった。
カミーユの実家から、そろそろカミーユと結婚してはどうかとたびたび催促されるのも、腹立たしい。
サイラスがのらりくらりと結婚を延期しようとすると、しだいにカミーユの実家は苛立ち、サイラスの治療や妹たちの葬儀に莫大な金を提供したことをほのめかすようになった。
そのことも、サイラスをいらだたせた。
まるで、自分はカミーユに金で買われるかのようだ、と。
自分ほど実力がある騎士が、なぜあんな醜女を嫁にしなければならないのか、と。
そんな時、サイラスの前に現れたのが、アンリエール姫の侍女のシスレイだ。
彼女は、サイラスに囁いた。
「サイラス様は、なんておかわいそうなのかしら。こんなに素敵な方なのに、カミーユなんかと結婚しなくてはならないなんて」
蠱惑的な、真っ赤な唇がサイラスを誘うように笑みの形をつくる。
その唇から、サイラスは目を離せなくなった。
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ご感想ありがとうございます。
研修の場になった国は、王子たちともども消えたと思います。
国民は、わりとしぶとく生きていると思います。