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義兄のことは慕わしく思っていますが、敵にまわすと厄介です -3
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母はロゼッタとならんでソファに腰かけ、ロゼッタの手に手を重ねた。
「ねぇ、ロゼッタ。あなたを王子妃にとのお話をいただいたとき、わたくしは嬉しかったわ。ロゼッタは、素晴らしい娘ですもの。王子に求められるのもとうぜんだと思ったの。そして、あなたもまた、王子との婚約を喜ぶだろうと思ってしまったのよ」
「それは……、とうぜんのことだと思いますわ。王子に妃にと望まれるのは、貴族の娘にとってはとても栄誉なことですもの。まして王子はお優しく真面目で、わたくしと年齢もつり合いますし、嫌がる理由などありませんもの」
ロゼッタは、ほがらかな笑みをうかべて言う。
けれど、その心中は穏やかではなかった。
なぜ母はきゅうに、こんな話を持ち出したのか。
クレイン王子との婚約が調ってから、まだそう時間は経っていない。
ロゼッタはいつもは学院の寮で暮らしているので、母と顔を合わせる時間も多くはない。
けれど、王子との婚約が調うまでは、ときどき家に帰って母とともにドレスなどの準備も整えていたし、パーティでも何度も顔を合わせている。
その時の母は、ロゼッタが王子に嫁ぐことを内心では嫌がっていることに、まったく気づいていなかった。
娘が王子妃に選ばれたことを誇らしく、純粋に喜んでいるようにしか見えなかった。
母が、ロゼッタの気持ちをないがしろにしていたというわけではない。
ロゼッタも、王子から婚約の話をいただいた貴族の令嬢の「常識」として、この婚約を恐れ多くも喜ばしいものだと思っているようにふるまってきた。
それにクレイン王子は、同じ年ごとの女性たちの憧れの的である。
華やかな容姿と、それとは真逆の温厚で篤実な性格の彼は、王子という地位がなくとも女性たちの目をひく青年だ。
ロゼッタには、家族や親戚くらいしか親しい男性もおらず、心を寄せている異性がいるわけでもない。
ロゼッタが王子との結婚をいとわしく思っているなど、母にとっては完全に予想外だったはずだ。
それなのに、どうして母はとつぜん、ロゼッタが王子との婚約を嫌がっているのではないかと疑いを持つようになったのだろうか。
ロゼッタの脳裏に、セーゲルの顔がうかぶ。
やはり彼は、あのいっしゅんで、ロゼッタの言動に疑いを抱いて、母に探りをいれるよう告げ口したのだろうか。
今夜にも仮死状態になる薬を飲もうとしているのに、ロゼッタがクレイン王子との婚約を嫌がっていたことに気づかれるわけにはいかない。
まんがいちにも仮死毒を飲んだことが判明すれば、罰を受けるのはロゼッタだけではすまないのだから。
ロゼッタがきゅうに命を落としても、自死など誰も疑わないよう、ロゼッタは王子に選ばれて喜んでおり、憂いなどひとつもないように見せかけなければいけないのだ。
「クレイン王子との婚約をいやがる娘など、いないと思いますわ」
ロゼッタはすこし息を止めて頬を赤らめてから、はずかしげに笑って見せた。
母は驚いたように、目を見張る。
「……そうかしら?」
ロゼッタの気持ちを見逃さないようにか、母はロゼッタの顔をじっと見つめてくる。
「そうに決まっていますわ。なんでしたら、王子の素敵なところを百ほど挙げてみましょうか」
ロゼッタは、いたずらっぽく目をきらめかせて提案した。
もし本当に王子の素敵なところを百ほど挙げろと言われても、ロゼッタは挙げられる。
なにしろ先日リィリィが、王子の素敵なところを延々と語るのを聞かされたからだ。
いざとなれば、あれをあのまま流用すればいい。
「あら。あらあらあら」
自信満々に、婚約者の素敵なところを語ると言ったロゼッタに、母は安堵したらしい。
くすくすと笑いながら、胸をなでおろした。
「クレイン王子の素敵なところを百個語るあなたを見てみたいわ。けれど、今日はもう時間もないわね。また後日の楽しみにしておこうかしら」
「その時は、さらに百個増えているかもしれませんわよ」
からかうように言う母に、ロゼッタも同じ口調で答えた。
そしてロゼッタが楽し気に笑うと、母も笑い声をあげた。
「……よかったわ。あなたに望まぬ縁談を押し付けたのでなくて」
「わたくし、この縁談がいやなら、きっとお母様にこっそりそう言ったと思いますわ。お母様、わたくしはクレイン王子と結婚したくありません、なんとか破談にしてくださいませって」
「まぁ。そうしたら、わたくしは張り切って、王子との婚約を破談にしたと思うわ。実際、ロゼッタにはこの家にずっといてほしいから、セーゲルにお婿さんにきてもらう話もあったのよ。お父様は、王子との婚約をお断りすることも考えていたみたい」
「まぁ……。セーゲルと?」
なにげない口調で母が言ったのを聞いて、ロゼッタの胸がきゅっと痛くなった。
「そんなお話もありましたのね……」
「ねぇ、ロゼッタ。あなたを王子妃にとのお話をいただいたとき、わたくしは嬉しかったわ。ロゼッタは、素晴らしい娘ですもの。王子に求められるのもとうぜんだと思ったの。そして、あなたもまた、王子との婚約を喜ぶだろうと思ってしまったのよ」
「それは……、とうぜんのことだと思いますわ。王子に妃にと望まれるのは、貴族の娘にとってはとても栄誉なことですもの。まして王子はお優しく真面目で、わたくしと年齢もつり合いますし、嫌がる理由などありませんもの」
ロゼッタは、ほがらかな笑みをうかべて言う。
けれど、その心中は穏やかではなかった。
なぜ母はきゅうに、こんな話を持ち出したのか。
クレイン王子との婚約が調ってから、まだそう時間は経っていない。
ロゼッタはいつもは学院の寮で暮らしているので、母と顔を合わせる時間も多くはない。
けれど、王子との婚約が調うまでは、ときどき家に帰って母とともにドレスなどの準備も整えていたし、パーティでも何度も顔を合わせている。
その時の母は、ロゼッタが王子に嫁ぐことを内心では嫌がっていることに、まったく気づいていなかった。
娘が王子妃に選ばれたことを誇らしく、純粋に喜んでいるようにしか見えなかった。
母が、ロゼッタの気持ちをないがしろにしていたというわけではない。
ロゼッタも、王子から婚約の話をいただいた貴族の令嬢の「常識」として、この婚約を恐れ多くも喜ばしいものだと思っているようにふるまってきた。
それにクレイン王子は、同じ年ごとの女性たちの憧れの的である。
華やかな容姿と、それとは真逆の温厚で篤実な性格の彼は、王子という地位がなくとも女性たちの目をひく青年だ。
ロゼッタには、家族や親戚くらいしか親しい男性もおらず、心を寄せている異性がいるわけでもない。
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それなのに、どうして母はとつぜん、ロゼッタが王子との婚約を嫌がっているのではないかと疑いを持つようになったのだろうか。
ロゼッタの脳裏に、セーゲルの顔がうかぶ。
やはり彼は、あのいっしゅんで、ロゼッタの言動に疑いを抱いて、母に探りをいれるよう告げ口したのだろうか。
今夜にも仮死状態になる薬を飲もうとしているのに、ロゼッタがクレイン王子との婚約を嫌がっていたことに気づかれるわけにはいかない。
まんがいちにも仮死毒を飲んだことが判明すれば、罰を受けるのはロゼッタだけではすまないのだから。
ロゼッタがきゅうに命を落としても、自死など誰も疑わないよう、ロゼッタは王子に選ばれて喜んでおり、憂いなどひとつもないように見せかけなければいけないのだ。
「クレイン王子との婚約をいやがる娘など、いないと思いますわ」
ロゼッタはすこし息を止めて頬を赤らめてから、はずかしげに笑って見せた。
母は驚いたように、目を見張る。
「……そうかしら?」
ロゼッタの気持ちを見逃さないようにか、母はロゼッタの顔をじっと見つめてくる。
「そうに決まっていますわ。なんでしたら、王子の素敵なところを百ほど挙げてみましょうか」
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もし本当に王子の素敵なところを百ほど挙げろと言われても、ロゼッタは挙げられる。
なにしろ先日リィリィが、王子の素敵なところを延々と語るのを聞かされたからだ。
いざとなれば、あれをあのまま流用すればいい。
「あら。あらあらあら」
自信満々に、婚約者の素敵なところを語ると言ったロゼッタに、母は安堵したらしい。
くすくすと笑いながら、胸をなでおろした。
「クレイン王子の素敵なところを百個語るあなたを見てみたいわ。けれど、今日はもう時間もないわね。また後日の楽しみにしておこうかしら」
「その時は、さらに百個増えているかもしれませんわよ」
からかうように言う母に、ロゼッタも同じ口調で答えた。
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「……よかったわ。あなたに望まぬ縁談を押し付けたのでなくて」
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「まぁ。そうしたら、わたくしは張り切って、王子との婚約を破談にしたと思うわ。実際、ロゼッタにはこの家にずっといてほしいから、セーゲルにお婿さんにきてもらう話もあったのよ。お父様は、王子との婚約をお断りすることも考えていたみたい」
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