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15(ヒロキサイド)

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──『あの空き家、中に入れたりしないかなぁ』



ひとみがそんな事を言ってくるとは思わなくて、思わず大声を出してしまった。


やっぱり完全に記憶を失っているわけじゃあない。断片的に、まだ頭の隅に残っているんだ。




もうずっと、オレたち家族の一員として違和感なく過ごしているひとみ。


まな姉ちゃんの意識もずっと戻らない今、ひとみはもう記憶が戻らないままでいる事の方が幸せなんだと思う。



生まれてからの記憶が、全くない。
初めはそんなひとみが、ヒドくかわいそうな気がしていた。


早く思い出させてあげたい。
そう思っていた。


だけど、いざ思い出したところでどうなる?

両親は事故で亡くなってしまった。

たった1人の姉も、昏睡状態から目覚めない。



だったらずっとオレたち家族であった方が、ひとみは幸せなんだよ。

オレの、妹であり続けた方が……。






家に帰ってから急に姿を消したひとみに、オレはどうしようもないくらいの不安感に襲われた。


晩飯に部屋まで呼びに行ったけど、返事はない。

ドアを開けて中を覗いたが、ひとみはいなかった。



ひとみの部屋の窓から見えた外は、もう陽が沈みかかっていて薄暗い。

こんな時間にどこかに行くなんて事は…………

と思いつつも、今朝のひとみの言動から、1つだけ心当たりがあった。




──『…ねぇお兄ちゃん。
興味、ない?』



──『もぉ、お兄ちゃんったら。
だから隣の空き家の話でしょう!』



ひとみは、あの家に行ったんだ。

かつては自分が住んでいた、ひとみの家に─────…っ






庭に倒れていたひとみを見つけると、オレは全身がゾクリと震えた。


息を乱しカタカタと震えているひとみの顔からは、暑くもないのに汗をかいている。

それが普通の状態でない事は、オレじゃなくても一目瞭然だ!



「大丈夫かっ、ひとみ!
この家には近付くなって言ったのに…っ」



「…大 丈夫っ
だから、薬……」



「バカ!
病院だっ」



もういつもの薬じゃ間に合わない。
早く医者に診せないと、手遅れになっちまう!



オレはすぐにひとみを背中に負うと、グッと踏ん張って立ち上がった。



「しっかり掴まってろ!
ほら、行くぞっ」


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