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「いやぁぁあぁ!!」



モヤモヤと、まっ黒い不安がわたしの身体を覆う。

ズキン ズキンと、強い頭痛がわたしを襲う。



恐い!
苦しい!
痛い!


頭を抱えながら、わたしは横たえていた身体を起こしてうずくまった。


いつも見る、入学式のシーン。


何も思い出せない、あの頃以前の記憶。



わたしは…わたしは、とても大切な事を忘れてしまっているのに、それが思い出せない!!




「ひとみちゃん!」



「っ」



うずくまるわたしの身体を、佐伯先生はギュッと抱きしめた。


カタカタ小さく震える身体が、抱きしめる佐伯先生にも伝わっていってるのがわかる。



「…何を、見たんだい?
何を思い出した?」



そんなわたしの耳元で、佐伯先生はそっと訊いてきた。



「家族で…旅行に行くところだったんです。
でも、他にも女の人や男の人もいて、何故か一緒に行く事になって……」


入学式が終わって2人の人に名前を呼ばれる夢は、今までにもう何度も見た。

だけどそれが誰だかわからないし、いつもそのシーンばかり。


だからそれが、わたしが本当に高校の入学式に出た時の記憶なのか、ただの夢なのか、わからなくなってきたぐらいだった。



でもそれは、わたしにとって大切な記憶なの…?



「女の人や、男の人…?」



「…顔は、ぼやけててわからないんです。でもわたしの事は、知ってるみたいで……」



夢の中で男の人の方は、わたしに「初めまして」って言ってた。


あの男の人は、女の人の関係者って事…?




「…やはり、ひとみちゃんはまだ何も思い出していないんだね?」



わたしの身体を抱きしめながら、佐伯先生はゆっくりとそう言った。


こんなに長い間お世話になっているのに、いつまで経っても進歩のないわたし。

だから佐伯先生も、本当はウンザリしてるのかもしれない。



「ごめんなさい。どうしても思い出せないんです。
…もしかしたら、わたしはひとみじゃないのかもしれないし。それすらも、わからない……っ」



いい加減情けなくなって、ジワジワと涙も溢れてきた。

だって、自分の事にも自信持てないなんて変だもん。


自分が自分じゃないのなら、わたしは生きてる意味さえも見いだせない─────…




「こんな写真を持ってたんだ。やっと思い出したのかと思ったんだけどね。
…君がひとみじゃないのなら、まなの代わりになってくれるかい?」



「写真!? それは………………………ん ぁっ」











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