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31(恭一郎サイド)

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「!」



暗い夜道にチカッと、ライトの瞬きが僕の顔を横切った。



大型トラックだ。


道が空いているせいか、ずいぶんスピードを上げて走ってきているのがここからでもわかった。


やれやれ、危なっかしい。


初めは軽くそう思ったのだが、それがやがて不安や焦りさえも感じてきたのは、そのトラックの奇妙な動きだった。


いくらまわりに他の車がないと言っても、対向車線に大きくはみ出るほどの蛇行運転には思わず自販機の事など忘れ、目を見張っていた。



まさか、居眠り運転?
或いは飲酒……


ハッとした僕は、すぐに車道を挟んだ向かいの車に顔を向けた。


まなたちはもちろん、今はお義母さんも眠っている。

そしてお義父さんはルームランプをつけて、趣味の釣り雑誌を見ていた。



…もしや誰も、あのトラックに気付いていない!?




それから先は、まるで何もかもがコマ送りのように動いて見えた。



だんだんと荒運転で近付いてきた、トラック。


駆け出した僕の足。


アスファルトに落ちて跳ねた、ペットボトルと小銭の音。


乱れながら宙を切る、ヘッドライト。



まなの、寝顔…!




「危ないっ
早く車から、逃げるんだ!!」



僕の叫び声が届いたのか、こちらに視線を向けたお義父さんと目が合ったとほぼ同時だった。




「────────っ」



今まで聞いた事がない、大きな衝撃音。


まるでアクション映画でも見ているかのような、弾かれた車。



衝突した後、ずっと先でようやく止まったトラックから聞こえた長いクラクション音。



…何が起こったのか、これは夢なのか。


しばらく突っ立ったまま、僕は動けないでいた。




「──────はっ
そうだ、まな…!」



ようやく思考が戻ってきた僕は、すぐに車の方へ駆けつけた。



弾かれた衝撃で、進行方向とは逆向きに止まっている車。


フロントガラスは全体に亀裂が入り、目を覆いたくなるほど血で赤く染まっている。



「…………………っ」



一瞬ですくんだ足を一歩ずつ進めサイドにと回り込むと、助手席からまなの両親の姿が見えた。


ぐったりと首を垂れ、そのフロントガラスに付着した血の原因が2人の状態を見て理解した。



「うわぁあぁぁあぁっ!」



ガクガクと震える全身が、僕を現実から逃避させようと足を止める。


いや、駄目だ。
まなの安否を確認するまでは…っ




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