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出来上がった惣菜をプラスチックパックに入れると、早速夕飯のピークに備えて陳列をした。
いつもなら2列ずつ陳列するサラダが、今日は3列ずつになっちゃったよぉ。
でもこれくらいあれば、閉店1時間前にはまだ残ってくれそうだよね。
「あ」
たった今陳列したばかりのサラダを1つ取り、レジの方へと持ってきたお客さんの影が見えた。
まだ夕飯時には少し早い時間だけど、もちろんそんなお客さんだっていたりするもんだもんね。
「いらっしゃいませ、こんにち…」
「コレと、あとリンゴちょーだい。
一緒にまぜて、リンゴサラダにしたいから」
キュッと口角を上げ、ニコリと営業スマイルをしながらお客さんと向き合った途端、その上げた口角がひきつりそうになった。
「し…っ」
「ヒドいよ、ひなぁ。ケータイの電源切ってるだろ?
うちには来てくれないし、俺お腹空いてんだけど」
そう言ってサラダを置いたカウンターに肘を立てながら顎を乗せ、下から上目遣いに私を見上げて頬を膨らませているのは…
「慎吾くん!」
そっか、この時間に私がここにいる事を慎吾くんは知ってるんだったよぉ。
まだ客足の少ない、午後の16時過ぎ。
今のところ他にお客さんはいないようなのでよかったけれど、明らかにふてくされてる感じの慎吾くんに、どう対応しようかとハラハラした。
「てゆーか、どうして急に来てくれなくなったのさぁ。
逆に心配しちゃったよ?」
「………………っ」
どうしてなんて訊かれても、もとを辿れば慎吾くんが登校日だから家にいないって事を教えてくれなかったからだ。
だけど、結果それ自体は関係ない。
ただ私と慎吾くんはどの道、ただの店員とお客さんの関係に過ぎないのだ。
それ以上も、以下もない…。
「ねっ、明日は来てくれるよね?
そうだ、またランチにチーズトースト焼いてよ。
俺、ひなの作ったもん食べたい」
「………………っ」
『ひなの作ったもん食べたい』
そんな風に言われたら、作ってあげたくなっちゃう。
だけど、そんな事したって仕方ないのよ。
「…あのね、もうダメなんだよ」
「ダメって何が?」
「……………」
慎吾くんにとっては、ほんの軽い気持ちなのかもしれないけど。
でも私の年齢を聞いたら、わかってくれるかな?
私もいい加減、本当に結婚を考えなきゃならない年だもの。
遊び感覚でご飯のお世話をしたり、セフレみたいな真似事はするわけにいかないの。
久し振りに、恋をした。
私のした事にスゴく喜んでくれるのが嬉しくて、だからもっと尽くしてあげたいって思っちゃったの。
側にいて私を見てくれるだけでドキドキした。
その手で、その唇で触れられる度に熱くなった。
そんな関係が、ずっと続けばいいって思ってたの。
でもそれは、私がやり損ねた青春の恋愛。
もう私はそんな年じゃないし、今更青春してる場合じゃないのよ。
そろそろ本気で結婚を考えて、そして普通に同級生の彼女たちみたいに赤ちゃん生んで育てなきゃ。
でもそれに気付かせてくれたのも、結局は慎吾くんのおかげだったね。
一応、感謝はしてるよ。
「だから慎吾くん、もう私は……」
「わかった!
じゃあコレ、ひなに預けとく」
「…え?」
バン!とカウンターを叩くように手を置かれたので怒ったのかと思ってビクッとしたのだけど。
そこには、分厚く黒いお財布が1つ乗せられていたのだ。
「あの、これは…」
「それないと、俺もう何も買えなくなるから」
「いや、それはそうだろうけど…」
「明日は、それ返しにうちに来てくれるよね」
「────!?」
ようやく慎吾くんの言おうとしてる事がわかり、私は焦ってそのお財布を取って突き返そうとした。
「ダ、ダメよ!
私、もう慎吾くんの家には行くつもりないの!
大事なものでしょ、ちゃんと持って帰って!」
まさか、そんな事をしてくるとは思わなかった。
私なんて、遊び感覚の関係でしょ?
どうしてそんなに、私にこだわるの?
「ヤだよ。明日は絶対、それうちに届けに来てよね。俺待ってるから。
じゃね、ひな」
「あ……っ!」
まるで逃げるように、慎吾くんはカウンターに置いたサラダを取って立ち去って行った。
私はと言うと、カウンターが邪魔してすぐに追いかける事ができず、手を伸ばしてただ彼の背中を見送る事しか出来なかったという…。
「あっ、ひな!
このサラダのお金、財布から抜いといてねー」
クルリと一瞬振り返ったかと思ったら、それだけ言って走って行ってしまった。
「ちょ…っ!」
もぉ!
勝手なんだからーっ!!
いつもなら2列ずつ陳列するサラダが、今日は3列ずつになっちゃったよぉ。
でもこれくらいあれば、閉店1時間前にはまだ残ってくれそうだよね。
「あ」
たった今陳列したばかりのサラダを1つ取り、レジの方へと持ってきたお客さんの影が見えた。
まだ夕飯時には少し早い時間だけど、もちろんそんなお客さんだっていたりするもんだもんね。
「いらっしゃいませ、こんにち…」
「コレと、あとリンゴちょーだい。
一緒にまぜて、リンゴサラダにしたいから」
キュッと口角を上げ、ニコリと営業スマイルをしながらお客さんと向き合った途端、その上げた口角がひきつりそうになった。
「し…っ」
「ヒドいよ、ひなぁ。ケータイの電源切ってるだろ?
うちには来てくれないし、俺お腹空いてんだけど」
そう言ってサラダを置いたカウンターに肘を立てながら顎を乗せ、下から上目遣いに私を見上げて頬を膨らませているのは…
「慎吾くん!」
そっか、この時間に私がここにいる事を慎吾くんは知ってるんだったよぉ。
まだ客足の少ない、午後の16時過ぎ。
今のところ他にお客さんはいないようなのでよかったけれど、明らかにふてくされてる感じの慎吾くんに、どう対応しようかとハラハラした。
「てゆーか、どうして急に来てくれなくなったのさぁ。
逆に心配しちゃったよ?」
「………………っ」
どうしてなんて訊かれても、もとを辿れば慎吾くんが登校日だから家にいないって事を教えてくれなかったからだ。
だけど、結果それ自体は関係ない。
ただ私と慎吾くんはどの道、ただの店員とお客さんの関係に過ぎないのだ。
それ以上も、以下もない…。
「ねっ、明日は来てくれるよね?
そうだ、またランチにチーズトースト焼いてよ。
俺、ひなの作ったもん食べたい」
「………………っ」
『ひなの作ったもん食べたい』
そんな風に言われたら、作ってあげたくなっちゃう。
だけど、そんな事したって仕方ないのよ。
「…あのね、もうダメなんだよ」
「ダメって何が?」
「……………」
慎吾くんにとっては、ほんの軽い気持ちなのかもしれないけど。
でも私の年齢を聞いたら、わかってくれるかな?
私もいい加減、本当に結婚を考えなきゃならない年だもの。
遊び感覚でご飯のお世話をしたり、セフレみたいな真似事はするわけにいかないの。
久し振りに、恋をした。
私のした事にスゴく喜んでくれるのが嬉しくて、だからもっと尽くしてあげたいって思っちゃったの。
側にいて私を見てくれるだけでドキドキした。
その手で、その唇で触れられる度に熱くなった。
そんな関係が、ずっと続けばいいって思ってたの。
でもそれは、私がやり損ねた青春の恋愛。
もう私はそんな年じゃないし、今更青春してる場合じゃないのよ。
そろそろ本気で結婚を考えて、そして普通に同級生の彼女たちみたいに赤ちゃん生んで育てなきゃ。
でもそれに気付かせてくれたのも、結局は慎吾くんのおかげだったね。
一応、感謝はしてるよ。
「だから慎吾くん、もう私は……」
「わかった!
じゃあコレ、ひなに預けとく」
「…え?」
バン!とカウンターを叩くように手を置かれたので怒ったのかと思ってビクッとしたのだけど。
そこには、分厚く黒いお財布が1つ乗せられていたのだ。
「あの、これは…」
「それないと、俺もう何も買えなくなるから」
「いや、それはそうだろうけど…」
「明日は、それ返しにうちに来てくれるよね」
「────!?」
ようやく慎吾くんの言おうとしてる事がわかり、私は焦ってそのお財布を取って突き返そうとした。
「ダ、ダメよ!
私、もう慎吾くんの家には行くつもりないの!
大事なものでしょ、ちゃんと持って帰って!」
まさか、そんな事をしてくるとは思わなかった。
私なんて、遊び感覚の関係でしょ?
どうしてそんなに、私にこだわるの?
「ヤだよ。明日は絶対、それうちに届けに来てよね。俺待ってるから。
じゃね、ひな」
「あ……っ!」
まるで逃げるように、慎吾くんはカウンターに置いたサラダを取って立ち去って行った。
私はと言うと、カウンターが邪魔してすぐに追いかける事ができず、手を伸ばしてただ彼の背中を見送る事しか出来なかったという…。
「あっ、ひな!
このサラダのお金、財布から抜いといてねー」
クルリと一瞬振り返ったかと思ったら、それだけ言って走って行ってしまった。
「ちょ…っ!」
もぉ!
勝手なんだからーっ!!
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