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不本意とは言え、お財布みたいな貴重品を預かる羽目になってしまった。


お会計の際にメガネやら手袋を忘れて帰られて、仕方なくそのまま忘れ物として店で預かる事はあるんだけど。

でもさすがに、明らかに持ち主のわかっている貴重品を忘れ物扱いとして保管するわけにはいかないかも。



「…んもぉっ
こんな貴重品を気軽に他人に預けちゃうなんて、危機感ないんだからぁ」


とりあえず慎吾くんのお財布は私が預かるとして…


──『このサラダのお金、財布から抜いといてねー』



他人のお財布を私に開けさせるのーっ


余所様の冷蔵庫は勝手に開けるものじゃないって言うように、お財布だって勝手に開けていいものじゃないんだからねーっ!



「…とは言え」


一応商品であるサラダは持って行っちゃったわけだし、レジ処理はしなきゃいけないよねぇ。



「………………っ」


いくらか抵抗はあったものの、とりあえずこれで払ってくれって言われたわけだから…仕方なく、そう仕方なく私は慎吾くんのお財布をそっと開けてみる事にした。

し、仕方なくだからねっ



「って、わわっ」


黒い二つ折りのお財布。

それをとめてあるホックのようなものを外した途端、中に挟まれていたカードだとかレシートくずなんかがバラバラとこぼれ落ちてしまった。



「も、もぉーっ!
自分のお財布くらい、ちゃんと整理しなきゃダメじゃなーい!!」


今が忙しいピーク時じゃないからいいけれど、でも早くしないと次のお客さんが来ちゃうよぉ!


私は急いで下に落としてしまった中身をしゃがんで拾った。



「…それにしても。
殆どがうちやコンビニなんかのレシートだ。
あ、保険証まで入ってた!
もぉ、こんな大事なものを軽々しく…っ」


バラバラと散らばったレシートくずやカード類を広い、まとめようとした時だ。


「……………………」



たまたま手に取ってしまった慎吾くんの保険証を見て、ふと目が止まってしまった。


生年月日や氏名、それから被保険者の氏名まで書き記されている健康保険証。


昭和生まれの私と違って、平成生まれな事に改めて年の差を感じてしまったのもあるんだけど。

それよりも、慎吾くんの名前が書かれたその文字に私は目が釘付けになっていたのだ。


「ぼん…し…わら?
え、何て読むんだろう」



そもそも慎吾くんは私に名前で呼ばせたいからって、苗字は教えてくれなかった。

だから本名が書かれている保険証を見れば、いよいよ慎吾くんの事も馴れ馴れしく名前で呼ぶ事もないかなと思ったんだけど。



「珍しい名前なのかな。
読み方が、全然検討つかないや…」


記載されている慎吾くんの名前として、そこには

盆子原 慎吾


そしてその下の被保険者氏名の欄には

盆子原 慎二


そう書かれていたわけなんだけど。


この被保険者ってのが、きっと慎吾くんのお父さんの名前だろう。

だけど、どちらにしてもこの苗字の読み方だけはわからない。



「…これじゃあ、まだ苗字で呼ぶ事はできないなぁ」



なんて読むの?なんて訊いたら、私が保険証を見ちゃった事がバレちゃうじゃない!

別にそんなつもりで見ようと思ったわけじゃないのに、変な誤解されたくないんだからぁ。



とりあえず私は保険証などのカード類とレシートくずをお財布に戻すと、中のお金を失敬してサラダ代をレジに入れさせてもらった。


…ふぅ。
やれやれだよぉ…。

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