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「…やっぱり、来てくれてたんですね」
チラリ 慎吾くんが眠っているのを確認すると、盆子原さんはそっと病室に入ってドアを閉めた。
「え、やっぱり…って?」
「あそこの花、朝来た時に気付いたんですが、昨日ひな子さんが持ってきてくれたのかなって」
「あ…」
別に隠すつもりもなかったけど、出しゃばってると思われるのもアレなので特に言わなかったのだ。
「慎吾の心配をしてくれて、ありがとうございます」
「いえ…。
だけど盆子原さん、お仕事の方は?」
お休みの日なら当然私服を着るのが普通なのに、今の盆子原さんはちゃんとスーツを着ている。
だからそれは、この日が仕事である事を示しているものなんだと思うんだけど…?
「ええ、すぐに会社の方に戻ります。
実は朝ここに来た時に書類を忘れてしまったものだから、それを取りに来たんですよ」
そう言って慎吾くんのベッド側の棚の上にあった大きな茶封筒を取ると、盆子原さんは脇に抱えた。
来てすぐ慎吾くんの事しか見なかったから、そんな所にそんなものがあるなんて気付かなかったなぁ。
「それじゃあ、ひな子さん。
また夜に行きますので」
「…あ、あの…っ」
「………」
仕事の書類が入ってるらしい茶封筒を抱えたまま病室のドアを出ようとした盆子原さんは足を止め、言いにくそうに話す私に眉を下げた。
「……………何だか、ひな子さんは僕に言えてない事があるんじゃないでしょうか」
「────っ」
そんな言葉に、私はハッとして盆子原さんの顔を見た。
不安そうに私を見るその瞳は、まだ記憶をなくしていない頃の慎吾くんと最後に話した時のそれとよく似ていた。
「ひな子さんの悩みは、僕の悩みでもあります。
ひな子さんに不安があるのならば、その不安を一緒に解決していくのが夫婦なんだと思うんです」
私の不穏な態度は、上手く隠してるつもりでもみんな盆子原さんには気付かれていたんだ。
一緒に解決していくのが、夫婦。
なんてステキな言葉なんだろう。
だけどね…
「ひな子さんとは、いつか結婚したいと思っています。
僕の家内になっていただけるなら、その不安を一緒に解決させてもらえませんか?」
「…盆子原さん…っ!」
盆子原さんの私に対する気持ちは、初めから本気で誠実だった。
本当に私を愛してくれて、本当に私を守ろうと一生懸命だったのよ。
だけど私は盆子原さんの事をステキな男性だとは思ったし、結婚するならこんな人がいいんだろうなとは思ったけれど…。
でも、決して愛してるという感情は抱いていなかったの。
「…ごめん…なさい…」
初めての大人の恋愛にドキドキはしたけれど、それは愛しいとはまた違う気持ちだね。
嬉しかったけど、それだけだ。
「ごめんなさいっ
私は盆子原さんに…何もしてあげられませんでした…!」
とてもステキな人だった。
私なんかで幸せにしてあげられるなら、いっぱい幸せにしてあげたかった。
だけど、愛してあげる事だけはできなかったの。
だって私には、本当に好きな人が別にいたから──────…!
「だから、ごめんなさいっ
本当に……っ」
「そんな、謝らないで下さい。
単に…僕がひな子さんを愛しすぎてただけなんですよ。
だから…もう、謝らないで下さい」
「………………っ」
誰も傷付けないようになんて、都合が良すぎたんだよ。
生半可で、人の気持ちを受け取っちゃいけないんだ。
私は、バッグから入れっぱなしにしていた指輪の小箱を取り出すと、それを盆子原さんに向けた。
「…ずっと苦しませていた事に気付かなくて、申し訳なかったです。
ごめんね、ありがとう…」
フルフルと頭を振る私から小箱を受け取った盆子原さんは、そのまま何も言わず病室を静かに出て行った。
私もそのまましばらく何もできず、1人立ち尽くしたまま止まらない涙を流し続けた─────…。
チラリ 慎吾くんが眠っているのを確認すると、盆子原さんはそっと病室に入ってドアを閉めた。
「え、やっぱり…って?」
「あそこの花、朝来た時に気付いたんですが、昨日ひな子さんが持ってきてくれたのかなって」
「あ…」
別に隠すつもりもなかったけど、出しゃばってると思われるのもアレなので特に言わなかったのだ。
「慎吾の心配をしてくれて、ありがとうございます」
「いえ…。
だけど盆子原さん、お仕事の方は?」
お休みの日なら当然私服を着るのが普通なのに、今の盆子原さんはちゃんとスーツを着ている。
だからそれは、この日が仕事である事を示しているものなんだと思うんだけど…?
「ええ、すぐに会社の方に戻ります。
実は朝ここに来た時に書類を忘れてしまったものだから、それを取りに来たんですよ」
そう言って慎吾くんのベッド側の棚の上にあった大きな茶封筒を取ると、盆子原さんは脇に抱えた。
来てすぐ慎吾くんの事しか見なかったから、そんな所にそんなものがあるなんて気付かなかったなぁ。
「それじゃあ、ひな子さん。
また夜に行きますので」
「…あ、あの…っ」
「………」
仕事の書類が入ってるらしい茶封筒を抱えたまま病室のドアを出ようとした盆子原さんは足を止め、言いにくそうに話す私に眉を下げた。
「……………何だか、ひな子さんは僕に言えてない事があるんじゃないでしょうか」
「────っ」
そんな言葉に、私はハッとして盆子原さんの顔を見た。
不安そうに私を見るその瞳は、まだ記憶をなくしていない頃の慎吾くんと最後に話した時のそれとよく似ていた。
「ひな子さんの悩みは、僕の悩みでもあります。
ひな子さんに不安があるのならば、その不安を一緒に解決していくのが夫婦なんだと思うんです」
私の不穏な態度は、上手く隠してるつもりでもみんな盆子原さんには気付かれていたんだ。
一緒に解決していくのが、夫婦。
なんてステキな言葉なんだろう。
だけどね…
「ひな子さんとは、いつか結婚したいと思っています。
僕の家内になっていただけるなら、その不安を一緒に解決させてもらえませんか?」
「…盆子原さん…っ!」
盆子原さんの私に対する気持ちは、初めから本気で誠実だった。
本当に私を愛してくれて、本当に私を守ろうと一生懸命だったのよ。
だけど私は盆子原さんの事をステキな男性だとは思ったし、結婚するならこんな人がいいんだろうなとは思ったけれど…。
でも、決して愛してるという感情は抱いていなかったの。
「…ごめん…なさい…」
初めての大人の恋愛にドキドキはしたけれど、それは愛しいとはまた違う気持ちだね。
嬉しかったけど、それだけだ。
「ごめんなさいっ
私は盆子原さんに…何もしてあげられませんでした…!」
とてもステキな人だった。
私なんかで幸せにしてあげられるなら、いっぱい幸せにしてあげたかった。
だけど、愛してあげる事だけはできなかったの。
だって私には、本当に好きな人が別にいたから──────…!
「だから、ごめんなさいっ
本当に……っ」
「そんな、謝らないで下さい。
単に…僕がひな子さんを愛しすぎてただけなんですよ。
だから…もう、謝らないで下さい」
「………………っ」
誰も傷付けないようになんて、都合が良すぎたんだよ。
生半可で、人の気持ちを受け取っちゃいけないんだ。
私は、バッグから入れっぱなしにしていた指輪の小箱を取り出すと、それを盆子原さんに向けた。
「…ずっと苦しませていた事に気付かなくて、申し訳なかったです。
ごめんね、ありがとう…」
フルフルと頭を振る私から小箱を受け取った盆子原さんは、そのまま何も言わず病室を静かに出て行った。
私もそのまましばらく何もできず、1人立ち尽くしたまま止まらない涙を流し続けた─────…。
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