デートをしよう!

むらさ樹

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もう一度、デートをしよう!

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「…………………」

「…………………」


少し陽も傾いて空がオレンジがかってきた夕方。

西園寺先輩と別れて家に帰るまでの道。
微妙な空気の中を翼とふたりで歩く。

とりあえず西園寺先輩の家に翼を行かせずにすんだのはいいが、俺があんな変な事を言ってしまったばっかりに、さっきから気まずいったらない。

だけど、もしあのまま翼が西園寺先輩の家に行ってたら、今頃は……


「~~~~~っ」


何て言うか、この変な感覚にどうしていいか、自分でもまだわかんねぇっての!

て言うかまずは、翼に謝らないとな。



「翼っ!」

「…………」


歩く足を止めて、俺は翼に言ったんだ。



「あの……っ
……何か、いろいろ……ごめん」

「大地くん……?」


折角、学校一のイケメン先輩に誘われたってのに。
翼の意志じゃない、俺の勝手な言動で西園寺先輩の誘いをパァにしてしまったんだ。

しかも、何が「翼は俺の彼女なんです!」なんだか。
俺たちがそんな関係じゃない事ぐらい、翼だってわかってるのに……っ



「え?
何で大地くんが謝ってんの?」

「何でって……西園寺先輩との約束が……」

「………………」


何も答えない、翼。
やっぱり、怒ってんだろうな……。


「俺、今日たまたま西園寺先輩の噂聞いてさ。
それで、多分翼はそれ知らないと思ったからさ。
だから、早くそれ伝えなきゃって思って、それで……つい……」

「……私ね、西園寺先輩の噂、知ってるんだ」

「え……っ」


あまりにも意外な翼のセリフに、今度は俺の方が言葉を失った。


「あんなにかっこいい先輩だもん、女の子なら憧れちゃうんだよねっ」


ふふっと笑いながら、翼は続けた。


「悪い噂があるのも聞いた事あるけど、でもそんな人が私みたいなのに声かけてくれたんだもん。
やっぱり、それがちょっと……嬉しかったんだ」


だからこそ、失敗したくなくて俺にデートの練習までさせたんだよな。
それは俺だって、応援しようと思ってたからこそ本気でやったんだぞ。


「なのに、俺に邪魔されたんだ。
怒らないのか?」

「どうして?
だって大地くん、私を守ろうとしてくれたからでしょ?」

「……………っ」

「そうやって、私に何かあった時にいつも助けてくれるの、大地くんだけだよ」

「翼……」


いつも助けてるって言うか、いつも助けてって言ってんの、翼じゃんよ。
俺はただ……翼がそう言うならって……。


「私ね、今まで男の子と付き合った事とかなかったから……こんな私に声かけてもらえた事がスゴい嬉しかったの」


家は隣同士だし、ずっと小さい頃からの付き合いがあったから、翼にこれといった彼氏がいなかった事ぐらい知ってるよ。


「だから日曜日の時の大地くんとのデートも、スゴくスゴく楽しかった!
大地くんがホントの彼氏みたいで、ドキドキしちゃったもん」


俺だって翼とのデート、スゴい楽しかった。
彼女なんていない人生だったけど、まるで翼が彼女みたいに見えてきて……。

最後のキス、うっかりしそうになったのを翼は知らないだろうけどな。



「だから………」


翼が、カバンに付けているビーズのストラップをギュッと握った。



「だから、これもずっと付けていたかったんだよ」

「…………………っ」


別に、変な意味があったわけじゃない。
ただデートには、最後におみやげなんか買ってあげたら良いよなって思ったんだ。

それで、何にしたらいいのかわからなくて、どんなのを翼が喜ぶかなって思いながら選んで……

そしたら翼の奴、あんなストラップ1つで泣いたりしてさぁ。
そんなに喜んでもらえるなんて、全然思わなかったよ。



「だからさっき大地くんが西園寺先輩に、翼は俺の彼女って言ってくれたの、実はスゴい嬉しかった」

「………つば……」

「……ただの幼なじみ、なのにね……」

「…………………っ」



何なんだ、この感覚。

俺と翼は、ただの幼なじみ。
なんだけど……
でも、守ってやりたい気持ちは、なぜかあって……。


だんだんと顔を伏せていった翼が、クルリと俺に背を向けた。



「……あーあ。
せっかくの西園寺先輩とのデート、ダメになっちゃったぁ」

「……!」


わざとらしいくらいのデカい声で、翼が俺に背を向けたまま言った。


「やっと初めての彼氏が出来るのかもって期待しちゃったのに、残念。
デートとか、してみたかったなぁ」


西園寺先輩の噂は知ってたって言ってたのに。
西園寺先輩が自分の彼氏になってくれるなんて、本当は思ってもないのに。

デートだって、実際に誘われたのはデートってデートじゃないのにっ!



「………………翼……」

「……んー……?」


なんて返事はしたけれど、翼は背を向けたままで、俺の方は見なかった。


「俺さ、あの日は言えなかったんだけど、実はジェットコースターみたいな絶叫系とか苦手だったんだ」

「……そうなんだ……」

「全種類制覇! なんて言った手前どうしようかと思ったけど、あの金髪の兄ちゃんたちに追っかけられたお陰で乗らずにすんでさ。
だからあの最初に乗った空中ブランコも、結構俺的に頑張ったんだぞ!」

「…………………」


翼はまだ背を向けている。

陽も徐々に傾いていき、西の空の色と東の空の色が異なってきた。



「……だから今度はさ、本当に全種類制覇しようと思うんだ。
また、翼と一緒にさ」

「……大地くん……?」


敢えて苦手なものに挑戦ってのも悪くないだろ。
翼だって、苦手だったお化け屋敷に入ったんだ。
目も塞いで、ずっと俺に掴まってたけどさ。

だって、俺と翼のデートだもんな。



「あのお化け屋敷、ただ怖いだけのアトラクションじゃなかったな。
もうネタは知っちゃったけど、改めてまだ行ってない部屋の探索とかしてみようよ。
それで今度は俺たちの力だけでカルテを見つけてさ、またあの変な記念品もらおうぜ」


バカバカしすぎて使う気になれないってのもあるんだけど、あれはあれで俺のデートのおみやげだと思って大事に持っているんだ。

だけど次にまたもらえたら、今度は翼とお揃いだな。


「おみやげショップ、他にも翼の好きそうなかわいらしいものが、まだいっぱいあったよ。
次はどれがほしいか、一緒に見てみような」

「大地くん……っ!」


そのカップル カップルで、デートの仕方は様々だと思う。

どちらかの家に行ってのんびりするのもデートだし、公園を歩くだけでもデートになるだろうな。
そして俺たちの最初のデートは、遊園地だった。



「次の日曜日とか、予定空いてるか?
翼の都合さえ良かったら、またこの間と同じ時間に家の前で待ち合わせてさ」


最初はデートの仕方なんてわからなかった。
服だって、この俺があれこれ悩んで選んだんだぜ?
なのに翼はめっちゃオシャレしてきてさ。

なのに俺は何もかもわかってる振りして、本当にこれってデートか?って何度も疑問に思ったっけ。

だけど、翼と最後まで一緒に過ごして、ようやくわかったんだよ。

一緒に笑って、一緒に走って、一緒に恐怖して。
そうやって、同じ空間で同じ時間を共有して楽しむ。
それがデートなんだ!


「あ、翼は財布なんか持って来なくていいからな。
交通費も入園料も、男が面倒みるんだから」

「大地くんっ!」


その時
ずっと背中を向けていた翼が、ようやく俺の方を向いたんだ。



「わかってると思うけど、次は練習なんかじゃないからな。
練習なら一度したんだから、もう必要ないだろ?」


本番じゃあもっと楽しめよって思ったけど。
本当、もっと楽しんでやるさっ

恐怖の絶叫系だって翼となら笑えそうだし、お化け屋敷だって俺となら笑って入れるだろ?



「走って飛ばしちゃったアトラクションの中には、無重力になれるハウスとかもあるらしいぞ!
楽しみだなっ」

「うんっ!
私もスゴく楽しみだよ、大地くん!」



前の時は練習だったからしなかったけど、次は本番なんだから……締めは花火を見ながら初めてのキスとか、しちゃうかもな。
今はそんな事なんて言わないけど、覚悟しとけよ?



俺に寄り添った翼が、ギュッと手を握った。

あぁ、デートじゃなくても、別に手を繋いだっていいか。

家に着くまでもうそんなに距離もないんだけど、家も隣同士だし、一緒に帰ろう。



「日曜日まで後5日かぁ。
あーん、待ち遠しいなぁ」

「遊園地は行ったばかりなのにな。
やっぱり違う所の方がいいか?」

「ううん。
私、またあの遊園地がいい。
やり残した事、いっぱいあるもんねっ」



陽が沈んでいき、手を繋ぐ俺たちの影が長くなってきた。

ただの幼なじみだった俺たちが、たった一度のデートの練習でこんなにも距離を縮めたんだな。


それまでは、遊園地に行っても幼なじみが一緒に遊んだってだけだ。

でも、今日からは違う。


そうだよな、翼?





「デートをしよう!」
















*おしまい*
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