ナイショのお見合いは、甘くて危険な恋の駆け引き!

むらさ樹

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勇さんはご両親とは勘当してて、連絡も一切取り合ってないらしい。

お母さんが望むような学歴もなければ、納得できる収入もない。

普通に話してても絶対に首を縦に振ってなんかくれないのはわかっている。


だとすれば…妊娠した事を言えば諦めて認めてくれるとか…



「とにかく!
転職考えてるならうちに帰って仕事探しなさい!
また良いお見合い話、お母さん探しておくからっ」


「!
お母さん、高梨さんとのお見合いをしたらもう諦めてくれるって___…っ」

「バカ言ってんじゃないわよ!
胸張って言えないような素性の男に、大事な娘をやれないって言ってるでしょうが!
それとも何っ! お母さんたちを捨てて勝手に嫁に行くわけ!?
誰がここまで苦労して育てたって思ってんの!」



バン!
と勢いよくテーブルを叩かれ、湯呑みのお茶が振動で揺れた。


…胸張って言えない素性だなんて…っ

素性だけで勇さんを決め付けちゃうなんて、ひどすぎるじゃない!!


「………………っ」


でも何だか…何も言えなくなってきちゃった…。


お母さんの言う通り、私を育ててくれたのは感謝してる。
だから、そんなお母さんを捨てて結婚とか、それは考えられない。


勇さんはお母さんから奪ってでも私を…って言ってくれたけど、嬉しいんだけどでもそれは、やっぱりダメだよ…。


「…ま、話はそれだけだから。
とりあえずあんたが今元気そうだから、安心したわ」


「元気って…当たり前じゃない」

「何が当たり前よ!
電話くらいはちゃんと出なさい!
心配するでしょう!!」


「あ…」


お母さんからすれば、娘の私は反抗ばかりしてるって事だもんね。

実家から離れて1人暮らししてて。

良い男性を紹介してるのに、どこの誰だかわからない男と勝手にデキちゃって。


挙げ句、時々は電話連絡してたのにそれもしなくなったんだから…心配、するよね。


お母さんの気持ち、わからなくはないよ…。

ズズッと最後にお茶を飲み干すと、お母さんは立ち上がった。



「…今日はとりあえず帰るけど、あんたももう、うちに帰って来なさいよ」


「………………」


ムリだよ。
私がアパートを出て実家に帰っちゃったら、勇さんはどうなっちゃうのっ?

お腹の赤ちゃんは…?



勝手に上がっといて、また勝手に帰ろうと玄関に向かうお母さんを追いかけるようについて行く。


せっかく勇さんが私との結婚を決意してくれたのにっ

私の妊娠を心から喜んでくれたのにっ


それを全部なかった事になんか、できないんだから!!




「お母さん!!」


「…何よっ」


靴を履いてドアを開けようとした所を振り返って私を見た。


…あんまり良い表情じゃない。

また私がロクでもない事を言うんじゃあ、なんて顔してる。


だけどもう、これが最後なのっ


「…今度の日曜日、お母さん予定大丈夫?」


「いいけど?」


「じゃあその日…家に行くね。
…彼と、一緒に」


「…………………」


もう、返事もしてくれなくなった。

私がなかなか折れないから、きっと怒ってるんだ。
…あるいは、呆れてるのかな…。



「その時、大事な話するから…」

「来なくてもいいわよ」


う…っ
そんな風に言わなくったっていいのにっ



「絶対行くから…っ
予定、空けてて!」


「…………………」


何も返事をしてくれないまま、お母さんはドアを開けて出て行った。


寂しい…じゃない。
母親にそんな風な態度を取られるのが、悲しいって言うのかな。

でも、来るなって言われたわけじゃない。

来なくてもいい…だから、来てもいい…わけだよね。


ほんのちょっぴりだけど、期待するね。

私はお母さんと縁なんか切りたくないから…っ
だから、それだけはわかってね…!

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