ナイショのお見合いは、甘くて危険な恋の駆け引き!

むらさ樹

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お母さんが来たのが勇さんのいない時間帯でよかった…と言うべきかな。

だっていきなりここに来ちゃうなんて思わなかったんよぉ!


私が玄関のドアを閉めて内カギを閉めている時、お母さんは既に靴をぬいでズカズカと中にあがっていった。

あぁん、もぉっ
自分の娘の部屋だからって勝手にあがって行っちゃうんだからっ!


買い物してきた荷物をキッチンの隅に置くと、とりあえず冷蔵物だけはしまって、お母さんにお茶を入れてあげた。



…どうせ高梨さんとの事をクドクドお説教しに来たんだわ。
考え直して、頭下げてでも仲直りしなさいとか言うに違いないわよ。

だけど、そんな事言ったって高梨さんとの関係はもう終わっちゃったんだからねっ


コンロで沸かしたお湯を小さなケトルに注ぎお茶をたてると、湯呑みにつぐ。

それをお盆に乗せると、お母さんのいるダイニングのテーブルに持って行った。



「なぁにあんた。
転職するつもり?」


「え?
お母さんったら何言って……
あっ、もぉ何してんのよ!」


おとなしくしてるって事ないのかしらっ

お母さんは私がお茶を用意してる間に、リビングの壁側に置いていた勇さんの求人情報の書類を勝手に見ていたのだ。


「あの書店、辞めたの?
だったらいい機会だわ。そのまま家に帰って来なさい。
…今、りくもアテにならなくなってきたし…」


「え、陸がどうかしたの?」


陸は今他県の専門学校に行ってる私の弟。

1年目を終了し春休みだってのに、実家にも帰らないでいるみたい。

そして常日頃から、陸を我が家の跡継ぎ跡継ぎ言ってるお母さんなんだけど。イマドキ跡継ぎなんて言葉言う?


2人分の湯呑みをテーブルに置くと、私はお盆を膝に抱えてお母さんと向かいになるように座った。



「陸、何かあったの?
まさか学校辞めちゃうとか?」


「違うわよ!
学校はいいんだけど、あの子ったら向こうで彼女を作ったらしいのよ」


…いいじゃない、そんな事別に。
お母さんったらいちいち敏感になって文句ばっかり言うのよね。


「その彼女ってのが、どうやら1人娘でね。
だから将来、陸を婿養子にしたいって言ってるみたいなのよ」


…ははあ。
あっちはあっちで跡取り問題でもめてるんだ。

確かに恋愛や結婚って、当人同士だけの気持ちじゃすまないもの。

どうしてもお互いの親が介入し、それが原因でうまくいかないとか…ありそうだもんね。


「…ま、今はそんな話はいいのよ。
そんな事より、あんた高梨さんに一体何を言ったのっ」


ズズッと私の入れたお茶を一口飲んだお母さんは、今度はキッと私を睨みながら言った。


それを聞いて、高梨さんって言葉にドキッとする。
やっぱり、お母さんはその話をしに来たんだよね。


「何言ったって…」


「高梨さん、今回の縁談に身を引かれたのよっ」


「えっ
身を…引かれた?」


またお母さんに上手い事を言って、勝手に話を進めたとかそんなんじゃないんだ。

あるいは、慰謝料とか…って請求してくるかとも思ってた。

だって付き合う気もないのにお見合いしたんだもんね。


「あんなにうまくいってたのに…こんな良い話をパァにしてあんたはっ
どういうつもりなのよ!」


…いよいよ、話す時が来たのかな。

いつかは話さなきゃならない事。
まずは…勇さんを知ってもらわなきゃだ!
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