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トイレの個室でしばらく締め付けられるような胸の痛みが引くのを待つと、私は急いでテーブル席に戻った。
ちょっと長く掛かりすぎたかもしれない。
高梨さんと話してたなんて勇さんにはもちろん言えない。
どうかバレませんように…!
「お、お待たせ…っ」
テーブルには注文していたランチがもう来ていて、お料理を前に勇さんは頬杖をついて待っていた。
「ごめんなさいっ
な なんか女子トイレが一部清掃中だったみたいで…」
必死に考えたデタラメを信じてもらえるかどうかドキドキしながら言ってみたものの、勇さんは私の言葉など聞いていない風で、手に持っていた何かをジッと見つめていた。
「…どうしたの?
…あ……」
勇さんが手に持っていたのは、前に私がプレゼントしたライターだった。
「…あぁ、ごめん。
ボーっとしてた」
勇さんは何か考え事をしていたみたいで、私が目の前の席に座るまで気が付かなかったみたいだ。
「ごめんね、待たせちゃって。
そのライター、どうかしたの?」
タバコを吸う時に使うライター。
いつも安物を使っていたみたいだったから、もっとおしゃれで高級感のある物をと思ってプレゼントしたんだよね。
高梨さんとのお買い物で選んでもらった、おしゃれな浮き彫りのついたライター…。
それを見つめながら急に考え事なんて、どうしたんだろうってちょっぴり不安になるよ。
「…お前がくれたこのジッポライターなんだけどな…」
「うん…」
「俺さ、タバコやめようと思ってんだ」
「え…うん…。
でもどうして?」
タバコは身体には良くないって言うもんね。
もちろんやめるって言う分には賛成するけど…
でもどうして急にそんな事を?
「ほら、お前妊娠したろ?
タバコの煙とか、腹の子に障っちゃ悪ぃと思ってな」
「あぁ、そうだね。
そこまで気を遣ってくれるなんて、ありがと」
「だけどな、禁煙は別にいいんだが…そうすると、せっかくお前にもらったこれが使う機会がなくなるよな…」
なんだぁ。
そんな事で悩んでたんだ。
私の事ばっかり気にかけてくれて、嬉しいなぁ。
…でもね。
私も勇さんがそのライターを使う度に、複雑な気持ちになってたんだ。
もちろんプレゼントしたものだから使って欲しい気もするけど、でも使わせたくないって気もね…。
人を想う気持ちって、嬉しくなったり切なくなったりするね。
相手を大切に想うからこそ、こんなにも胸が苦しくなるんだもんね。
「…ね、勇さん。
だったらそれ、私が預かっててもいい?」
「は?
これをか?」
勇さんは手に持っているライターを私に見せるようにかざした。
私はそれに対し、コクンと頷く。
「私の為に気を遣って悩んでくれて、ごめんね。
ありがとう。
だからそれ私が大事に持っておくから、預からせて」
「だけど、それじゃあせっかくお前がくれたのに…」
「取り上げたわけじゃないんだよぉ。
必要になったら、いつでも返すから。
ね?」
…高梨さんからもらったシュシュもね、大事に取ってあるの。
捨てる事も出来ないから…。
だから、あの日一緒にお買い物したこのライターとシュシュは…一緒にしまっておこうと思うんだ。
「でもよ…」
「私と赤ちゃんの為に、禁煙を考えてくれてありがとう」
「…………………。
…あぁ」
勇さんは私に、持っていたライターを渡してくれた。
高梨さんが選んでくれたライター。
…あの時、高梨さんはどんな気持ちでこれを選んでくれたのかな。
もう既に私の事を想って?
それとも、まだ顔も名前も知らなかった勇さんを想像しながら?
あるいは、単にこれが高梨さんのセンスなのかも。
クスッと小さく笑うと、私は受け取ったライターをショルダーバッグに入れた。
「さ、食べよ。
せっかくのお料理が冷めちゃうね」
大きめなお皿に盛りつけられた小さなハンバーグステーキ。
普段お箸で食べるから滅多に使わないんだけど、ナイフやフォークがお皿の横に並べられている。
「あは。
こんなおしゃれなご飯、楽しいね」
ホントは胸がいっぱいでお腹なんて空いてなかったんだけど…。
でも私は、勇さんとのお昼ご飯デートを目一杯楽しんだ。
ちょっと長く掛かりすぎたかもしれない。
高梨さんと話してたなんて勇さんにはもちろん言えない。
どうかバレませんように…!
「お、お待たせ…っ」
テーブルには注文していたランチがもう来ていて、お料理を前に勇さんは頬杖をついて待っていた。
「ごめんなさいっ
な なんか女子トイレが一部清掃中だったみたいで…」
必死に考えたデタラメを信じてもらえるかどうかドキドキしながら言ってみたものの、勇さんは私の言葉など聞いていない風で、手に持っていた何かをジッと見つめていた。
「…どうしたの?
…あ……」
勇さんが手に持っていたのは、前に私がプレゼントしたライターだった。
「…あぁ、ごめん。
ボーっとしてた」
勇さんは何か考え事をしていたみたいで、私が目の前の席に座るまで気が付かなかったみたいだ。
「ごめんね、待たせちゃって。
そのライター、どうかしたの?」
タバコを吸う時に使うライター。
いつも安物を使っていたみたいだったから、もっとおしゃれで高級感のある物をと思ってプレゼントしたんだよね。
高梨さんとのお買い物で選んでもらった、おしゃれな浮き彫りのついたライター…。
それを見つめながら急に考え事なんて、どうしたんだろうってちょっぴり不安になるよ。
「…お前がくれたこのジッポライターなんだけどな…」
「うん…」
「俺さ、タバコやめようと思ってんだ」
「え…うん…。
でもどうして?」
タバコは身体には良くないって言うもんね。
もちろんやめるって言う分には賛成するけど…
でもどうして急にそんな事を?
「ほら、お前妊娠したろ?
タバコの煙とか、腹の子に障っちゃ悪ぃと思ってな」
「あぁ、そうだね。
そこまで気を遣ってくれるなんて、ありがと」
「だけどな、禁煙は別にいいんだが…そうすると、せっかくお前にもらったこれが使う機会がなくなるよな…」
なんだぁ。
そんな事で悩んでたんだ。
私の事ばっかり気にかけてくれて、嬉しいなぁ。
…でもね。
私も勇さんがそのライターを使う度に、複雑な気持ちになってたんだ。
もちろんプレゼントしたものだから使って欲しい気もするけど、でも使わせたくないって気もね…。
人を想う気持ちって、嬉しくなったり切なくなったりするね。
相手を大切に想うからこそ、こんなにも胸が苦しくなるんだもんね。
「…ね、勇さん。
だったらそれ、私が預かっててもいい?」
「は?
これをか?」
勇さんは手に持っているライターを私に見せるようにかざした。
私はそれに対し、コクンと頷く。
「私の為に気を遣って悩んでくれて、ごめんね。
ありがとう。
だからそれ私が大事に持っておくから、預からせて」
「だけど、それじゃあせっかくお前がくれたのに…」
「取り上げたわけじゃないんだよぉ。
必要になったら、いつでも返すから。
ね?」
…高梨さんからもらったシュシュもね、大事に取ってあるの。
捨てる事も出来ないから…。
だから、あの日一緒にお買い物したこのライターとシュシュは…一緒にしまっておこうと思うんだ。
「でもよ…」
「私と赤ちゃんの為に、禁煙を考えてくれてありがとう」
「…………………。
…あぁ」
勇さんは私に、持っていたライターを渡してくれた。
高梨さんが選んでくれたライター。
…あの時、高梨さんはどんな気持ちでこれを選んでくれたのかな。
もう既に私の事を想って?
それとも、まだ顔も名前も知らなかった勇さんを想像しながら?
あるいは、単にこれが高梨さんのセンスなのかも。
クスッと小さく笑うと、私は受け取ったライターをショルダーバッグに入れた。
「さ、食べよ。
せっかくのお料理が冷めちゃうね」
大きめなお皿に盛りつけられた小さなハンバーグステーキ。
普段お箸で食べるから滅多に使わないんだけど、ナイフやフォークがお皿の横に並べられている。
「あは。
こんなおしゃれなご飯、楽しいね」
ホントは胸がいっぱいでお腹なんて空いてなかったんだけど…。
でも私は、勇さんとのお昼ご飯デートを目一杯楽しんだ。
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