ナイショのお見合いは、甘くて危険な恋の駆け引き！

④

「だいたい、なんでオレの人生なのに母さんの言いなりにならなきゃなんないんだよっ
別に母さんの迷惑にはなってないだろ！？」


「言いなりって何なのよ！！
長男が家を継ぐのは当たり前でしょう！！」


「そんなの昔の話だろ！
今どき長男が家継ぐとか古臭いんだよっ」


「古臭いってあんた…！
それに、昔の話じゃないわよ！
現に向こうの家だって、跡取りが欲しいから養子に来いって言ってるんでしょうが！」


…跡取り！？

陸とお母さんの論争は激しく、逆に私たちが取り残されてる感もあったのだけど、ようやく陸たちが話してる事がわかってきた。


前にお母さんがアパートに来た時にチラッと聞いたな。
確か学校の方で、つき合ってる彼女が陸を婿養子にしたいって話。

陸とお母さんは、それで今ここで揉めてたんだ。


「な なぁ、優。
俺たちどうしたらいいんだ…？」


さすがに面食らっている勇さんが、そんな２人を尻目に私にコソコソっと話しかけてきた。

…まぁ、こんなハズじゃなかったもんねぇ。



「うーん…」


私だってどうしたらいいかわかんない。
もしかしたら日を改めてとか…


「跡取りとか！
だったらオレじゃなくて姉貴にさせりゃいいじゃんよ！」


「へ！？」


急に話が私の方に振られ、思わず変な声が出てしまった。


私に跡取りって。
え？
じゃあお嫁には行かないで、ずっとここに居ろって事！？

そんな、冗談じゃあ…っ



「何言ってんの！
優は女なのよ！
いくら弟でも男のあんたが継がないでどうすんの！」


さすがのこの時は、私もお母さんの言い分に賛成してしまった。

今まで深く考えた事なかったけど、そうか、私か陸が家を継がなきゃならなかったんだ…。


「まったく陸は…っ
…もぉ、お父さんも何か言ってやってちょうだいよ」


なかなか首を縦に振らない陸に痺れを切らしたお母さんは、とうとうずっと黙って聞いているお父さんに振った。


普段口数の少ないお父さん。

お母さんのそのマシンガン的なしゃべり方を少し分けてあげたらいいのにって思う事もある。


そんなお父さんもさすがにお母さんに振られて、ようやくその固く結ばれた口を開いたのだ。



「…それはそうと、優。
その人は…？」


「えっ あっ」


陸の話をしているかと思ってたのに、お父さんは私の側で黙って座る勇さんを気にしたようだった。


陸の話は埒が明かないと思って、こっちに話を振ったのかな。

何にしても、心の準備をしてなかったので言葉に詰まってしまった。


「あ あのね、彼は…」

「初めまして…！
今、優…さんとお付き合いさせてもらっている、後藤 勇と、い 言います…っ」


ようやくそのタイミングと思ったのか、私の言葉を遮るようにしゃべり出した勇さん。

やっぱり緊張してるんだろうな。
いつものぶっきらぼうな感じではなく、カタコトだけどまともな言葉でしゃべってるんだもん。

…て、私ってば失礼！？



「…………ふん…」


どちみち勇さんの事なんて眼中になかったんだろうな。
そんなあいさつに鼻を鳴らしただけのお母さん。

やっぱり…こうなっちゃうのよね…っ




「ねぇ、待ってよ！
なら丁度いいじゃん！
家は姉貴の彼氏に婿養子に来てもらえば済むじゃんか！」


「えっ」

「はっ？」

「…あ」

「…………っ」


誰しもが、陸の言葉に息を飲んだ瞬間だった。


婿 養子…？
それってお嫁に行くの反対で、お婿さんに来てもらうって奴…！



「今どき男だから跡取りとか古いっての！
オレにばっかり責任押し付けて、やってられっかよ！」


「陸！」


尚も口の減らない陸に、お母さんは叱咤する。

だけど…嫁とか婿とか言う前に、うちの場合はお母さんに勇さんを認めてもらわないと…。



「…勇君は、優とはどのくらいになるんだ？」


空気が読めてないのか冷静なのか、そんな中お父さんは勇さんにそんな質問をした。


まるでお母さんと陸だけが取り残されてるような違和感。

あ いや、私たちとお父さんの方が取り残されてるのかな。



「優さんとは一緒に暮らしてて、１年になります…っ」


「一緒に暮らしてる！？」


そこに割り込むように、お母さんが口を挟んだ。


そうだ。
つき合ってるとは言ったけど、同棲してるなんて言ってなかったもんね…。


「一緒に暮らしてるだなんて！
優！お母さん聞いてないわよっ！」


「そ、そうだっけ？」


同棲してるってだけでこの有り様。
わざとすっとぼけてみたけど、こんな事で怒鳴られるんなら妊娠の事なんて尚更怒られちゃうよぉっ