人間不信気味のイケメン作家の担当になりましたが、意外と上手くやれています(でも好かれるのは予想外)

水無月瑠璃

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第二部

17話





近くのコンビニに必要最低限のものを買いに行こうとする静香に櫻井は付いて来ようとした。

「マンションから数分くらいの距離ですし大丈夫ですよ」

が、櫻井は食い下がる。

「暗いし遅いから、1人じゃ危ないよ」

それはそうだが、静香は酔っ払いに絡まれても対処できる。そこまで心配されなくても問題はないのだが、それはそれとして心配してくれているのは素直に嬉しい。突っぱねることもせず「じゃあお願いします」と頼んだ。

結局アイスやら何やらを買い込んで、部屋に戻ったのは15分後だった。


その後、2人の間に再び攻防戦が復活した。場所は初めて足を踏み入れた寝室。シックなデザインで大きな本棚が目を引く。中央の壁側には大きなベッド。そして収納スペースから出した来客用の布団が2人の前に置かれている

「颯真さんがベッドを使ってください、私が布団で寝ます」

「いやいや、君に布団を使わせるわけにはいかないよ、俺が使う」

「家主を布団で寝かせるわけには」

「そもそもあの布団、何度も来る新條用に適当に買ったもので寝心地悪いよ」

「…」

新條は何度もここに泊まりに来ているらしい。あれだけ友人じゃないと言い張っていたのに、それこそソファーに寝かせても良かったはずだ。なのにわざわざ来客用の布団を購入したということは。

(新條先生のこと物凄く好きでは?)

それを言ったら櫻井が不機嫌になるのは目に見えている。素直じゃない人だから。ふふ、と笑う静香に櫻井は訝しげな視線を向ける。

「え、何急に」

「何でもないです」

誤魔化したが、結局どっちがベッドを使うかについては決まっていない。このやり取りを始めて10分近く経っている。この感じだと櫻井は静香がベッドを使うと言うまで引き下がらないだろうし、静香も家主を床に寝かせるのは抵抗がある。

…ここで1つ、思いついた。どちらの願いも叶えることが出来る妙案が。

「いっそ2人でベッドを使います?」

冗談めかして言うと櫻井がカチン、と全身を硬直させた。それからじわじわと耳を赤くし始める。

「…急に何言い出してるんだよ…」

やけに不機嫌な声が聞こえてくる。櫻井は右手で口元を覆い顔を伏せていた。顔色は窺えないが、どうやら怒っているらしい。2人で寝ようが気に障ったのかもしれない。そこまで怒る理由が分からない。

「言っていい冗談と悪い冗談が」

「え、冗談じゃないですけど」

「…」

目を見開いた櫻井はやがて呆れたように大きなため息を吐いた。

「自分の言ったこと分かってる?」

「分かってますけど」

「…絶対分かってないだろ、一緒のベッドで寝るって襲われても文句言えない」

「?別にいいですけど、襲っても」

そりゃ付き合ってない者同士が同じ布団で寝るのは問題だし、何か起きても一方的に責めづらい状況になるだろう。しかし自分達は交際しているし、櫻井が言う通り「襲われた」として問題はない。相手の意見を聞かずに事を進めるのは好ましくないが、静香は拒む気はなかった。つまり2人で寝たとして気にすることは何もないのである。

なのに静香の返答が予想外だったのか、また固まってしまい、次に片手で目を覆い天を仰いだ。

「…無自覚に煽るの勘弁してくれ…」

低い声で呻いている。よく分からないが彼の中で何かと何かが葛藤しているようだ。フラットな態度で赤裸々に「誘った」静香に吹っ切れたのか、やけに真剣な顔でこちらを見下ろした。

「正直に言えば今この瞬間も、彼女と寝室で2人きりなので理性がヤバいです。猿の方がまだ自制心あるレベル」

真面目なトーンで明け透けに本音を明かし始めのでどう反応すべきか迷い、迷った末頷くだけに留めた。正直恥ずかしいというか居た堪れない。

「静香は気にしないって言ってくれるけど、俺は自分のやったことが許せない。だから自分への戒めで暫く君に手は出さないことに決めた。身勝手で申し訳ないけど」

何となく気づいてはいた。自宅に誘った際断った時の態度が不自然だったから。「そういう雰囲気」になるのを意図的に避けているのかもしれない、と。櫻井は静香に対しずっと罪悪感を抱き続けていることにも薄っすらと。こうすると決めたら恐らく自分の意見を変えない。それも分かっていた、だから静香は。

「分かりました、私も今すぐやりたいわけでも性欲強いわけでもないので」

「…」

何故だろう、急に櫻井は険しい表情に。

「君の口から性欲とかやりたい、とか聞きたくなかった…」

絶望した声で嘆いた。そう思うに至った理由を聞くと「清楚な雰囲気だから性的な単語が似合わない」らしい。清楚云々はよく分からないが、静香は割とそういうことも言うので慣れて欲しい。物凄く落ち込むのでとりあえず謝り、背中を擦った。暫くしたら「これはこれで興奮する」とよく分からないことを口走り今度は青くなっていたけど。

その後、興味本位で「暫く」はどれくらいなのか聞いてみると「3カ月」と返って来たので「思ったより短いですね」と返すと。

「それ以上は無理、我慢しすぎて気が狂う。好きな子に手出せないとか拷問だから」

そう言った櫻井の瞳に微かに熱が宿っており、何故か背筋が寒くなった。自らの本心をぶちまけ、変なスイッチが入ったのか「手は出さないけど、それ以外はする」とまた唇を塞がれ舌まで差し込まれ、好き勝手されてしまう結果になった。ドンドンキスを深くし、酸欠寸前に陥った挙句にベッドに押し倒した櫻井を静香が力一杯押しのけたのはもう少し後の事。


「…俺は我慢という言葉を知らない畜生以下の獣…」

「誰もそんなこと言ってないんですけど」

案の定、自らの行為に酷く落ち込んだ櫻井を静香が慰めにかかる。しかし櫻井は自分の事が信用ならないらしく、風呂上りに自分の服(サイズブカブカで屈むと胸元が見える)を着た静香の姿を凝視した後、物理的に距離を取り始めた。その上結局折れてベッドを使うことを承諾した静香に鍵をかける様に念を押す。そこで寝室のみならず全ての部屋のドアに鍵が付いていることに気づいた。この部屋絶対家族向けだと思う。

寝室に入った後は直ぐ眠りについた。ベッドに入ると、当然ながら自分のベッドからはしない匂いがする。櫻井の匂いだろう。無意識に枕に鼻を擦りつける。他人の匂いなんて心底どうでも良かったし寧ろ忌避していたのに。

(何か落ち着く…)

櫻井に抱き締められている感覚だ。少々物足りないけれど、徐々にリラックスしてきた静香の瞼はドンドン重くなり、微睡みの中意識を手放した。




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