人間不信気味のイケメン作家の担当になりましたが、意外と上手くやれています(でも好かれるのは予想外)

水無月瑠璃

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第二部

22話




日曜日、静香は朱音と恐竜展に行くために上野駅で待ち合わせしていた。因みに櫻井は原稿しつつストリーミングで映画を見たりすると言っていた。本人も博物館や美術館巡りは好きと言っていたので、機会があれば行きたい。というか、彼は割とアクティブな人間である。思い返せば映画に行ったり書店巡りをしたり、人混みが嫌いなだけで出かけること自体は嫌いではないのだ。下手に遠慮せず、誘ってもいいのかもしれない。

「あ、静香おまたせ!」

改札から朱音が出て来た。静香も手を振る。日曜日だけあって駅は人でごった返しているが、朱音はすぐ自分を見つけてくれた。

「いやー日曜の上野は人が多いね」

「動物園も家族連れが多いし恐竜展も子供に人気だろうしね」

恐竜好きな子供は多い、そして大人も。本物の骨なんてこんな機会がなければ見れないのだから当然混雑する。本当は平日行ければいいのだが、社会人で平日休みを合わせるのは難しい。ふと、櫻井と行くのなら夜遅い時間か平日に自分が休みが取れた時行った方が良いなと思った。

「やっぱり待つよね、休日だし」

「さっき当日券買った時に整理券も貰ったけど、一時間くらいみたいだよ」

「あ、もう券買ってくれたの、ありがとう!お金…」

「お昼の時でいいよ、それより時間までどこで時間潰す?」

そうして自分達は駅構内の店を回り時間を潰すことにしたのだった。



「いやー良かった良かった、やっぱモノホンは迫力が違うね、思わず図録買っちゃったよ」

恐竜展を見終わった静香たちは上野駅から離れ、池袋まで移動して適当な和食店に入った。運良く個室に案内してもらったからか、朱音はやや興奮気味で感想を言っている。朱音の隣の席にはやけに重そうなビニール袋がドンと置かれている。重いしこれから買い物行く予定もあるのに迷わず図録を買っていた、流石。確かに迫力があったし、まるで童心に帰ったかのように興奮した。そういえば昔自分は考古学者になりたいという夢を抱いていたことを思い出した。いつの間にかその夢も忘れてしまったけど、それでもやはり楽しいものだ。

朱音は唐揚げ定食、静香は親子丼を注文した。料理が来るまでの間恐竜展の感想を言い合っていると、急に静香が神妙な顔つきになった。そして「ごめん」と頭を下げられた。

「え、何急に」

「金曜日の日下部のこと…告ったんでしょあいつ」

まさかそれについて触れられるとは思わなかったが、誤魔化しても意味がないので、間を置かずに頷いた。すると顔を手で覆いハーッとため息を吐いた。

「…あいつの気持ち静香以外は知ってて私も、皆も脈なしだから辞めろってずっと言ってたんだけど…山本だったかな。あいつが静香は男子の中だと日下部と一番仲良いからいけるんじゃないかって煽り出して、皆も何か乗っかってね。私は辞めろって止めたんだけど…良い雰囲気の人がいるよって、もっと強く止めるべきだったよ、本当ごめん」

心底申し訳なさそうにする朱音に、何だかこっちが居た堪れない。話を聞く限り一番悪いのは無駄に煽った山本だ。彼はお調子者で悪い奴ではないのだが…。まあ終わったことは気にしてもしょうがない、それに金曜日の事があったから静香は櫻井に、櫻井は静香に自らの胸の内を曝け出すことが出来たのだから、結果オーライだと思うことにしたい。

「いいよ、もう終わったことだし…山本くんには文句の1つは言いたいけど」

「あはは、静香らしいわ。まあ、」

(…ん?)

何だ、今朱音は変なことを言わなかったか。目を何度も瞬かせ朱音の顔を凝視する。そんな静香の様子に気づいた朱音がギョッとした表情になる。

「え、何どうした?」

「…良い雰囲気の人ってどういうこと?」

朱音には櫻井のことは一切伝えてない。そもそも顔も知らないはずだ。が、静香が今までの人生で一番親しくしている異性は櫻井だけ。つまり彼女の言う「良い雰囲気の人」は櫻井以外あり得ないのだが…。もしかして付き合ってから飲み会の間に1度出かけた時見られていたのだろうか、朱音はそういうのも見かけても本人が言い出すまでこちらからは触れないと言っていたからその可能性は高い。訊ねられた朱音は「あー」と何か思い出そうとして天井を見上げた。

「前に仕事帰りにご飯食べる約束した時、私が遅れたことあったよね」

「あったね」

そう、静香がナンパされ、偶々自分を見かけた櫻井が助けてくれた日だ。彼女にはナンパされたことは言ったが、櫻井のことは話していない。

「あの時私静香がナンパされてるの偶然目撃しててさ」

「え」

あの時見ていたのか、全く気付かなかった。周囲に気を配っていなかったから。

「タチの悪そうな奴らだったから、助けに入ろうかと思ったら知らない背の高い男の人が静香に駆け寄って、ナンパ男達睨み付けて撃退してたよね、その後2人でどっかに行ってたし」

…全部見られていた。思いも寄らない新事実に黙りこくるほかない。

「何かドラマのワンシーンみたいで見惚れちゃってさ、あの男の人がナンパ男睨みつけた時の目、殺気立ってたっていうか敵意むき出し?ただの友達助けに入った人のする表情じゃないなって、直感したんだ。俺の女に手を出すな的な?静香も嬉しそうだったから彼氏かと思ってたんだけどね、下手に口を出すのもどうかと思って黙ってた」

「…そんな顔してた?」

「無自覚だった?助けに来てくれて喜んでるな、と感じたんだけど。静香って逆に恩着せるような真似されると冷めた顔するでしょ、だからあの人に結構好意持っているのかなって」

「…」

全く自覚していなかったが、人の事を良く見ており聡い朱音のいうことなので本当なのだろう。身に覚えがないが。つまり静香はあの時点で既に櫻井にそれなりの感情を抱いていたことになる。人から指摘されるというのはどうにも歯がゆいし、ほとほと自分の鈍さには参る。なんせ事に及んでいる最中に櫻井への感情を自覚したくらいだ。

静香はあの時のことを思い出していた。如何にもガラの悪そうな男二人に話しかけるだけでも勇気を要しただろうに、毅然とした態度で追っ払ってくれた櫻井。いつもの飄々とした態度を崩し、静香の事を心配してくれた。自分の手を握る彼の力の強さを今でも覚えてる。彼がいつから自分を好いていてくれていたかは知らないけれど、少なくともあの時には好きだった可能性が高い、そして静香も。無自覚ながらあの時自分達は…その事実に気づくと耳がほんのり耳を赤くなる。急に黙った静香に朱音は色めきだった。

「え、静香どうしたの、耳赤いよ…何、照れているの!えーそんな反応するんだ、可愛い!」

ニヤニヤしていた朱音は興奮したように声を上げる。彼女とは大学からの付き合いだが、色恋に無縁な静香がこのように照れる様なんて初めて見たのだろう。グイっと身を乗り出した。

「そんな反応されると気になるんだけど!あの男の人とは結局どうなったの、結構恰好良かったよね」

ジリジリと詰め寄られ、焦る。ここまで来ると隠し通すのは無理なので交際している相手がいることは言わなければいけないだろう。しかし、櫻井の素性は言うわけにはいかない。変に濁して後で詮索されたらと思うと…。いや、朱音は無理に踏み込んでこないし面白おかしく風潮しない子だ。それなりの付き合いで、信頼に足る人間だと言うのは分かる。

「…お察しの通り、付き合っています、数週間前から」

「やっぱり!え!あの猫と本と映画にしか関心なかった静香に彼氏!あ、どんな人か聞いても良い?」

「…仕事関係で知り合った人とだけ言っておくよ」

「…そんな風に濁されると滅茶苦茶気になるけど…まあいいや。とにかくおめでとう!いやーどちらにしろ日下部は振られる運命だったと、うん」

「そこには触れないでよ、私もちょっと気にしているから」

「そりゃそうか…ん、日下部にも伝えた?彼氏いるって」

「え、うん」

すると朱音は遠い目をした。何その反応、怖い。


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