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第二部
29話
(さっきから何話してるんだろう、仲良いな)
櫻井が静香から距離を取った後、すかさず近寄った新條と何やら話し込んでいる。自分に聞かれたくない話なのかひそひそと小声で話していた。別に聞き耳を立てるつもりはないので、いつまでも話していて構わないのだが。一人でお面を選んでいても付ける本人が参加してくれないと。
「あの、お2人イチャついてないでこっち見てくれませんか」
「「誰がイチャついてるって」」
息ぴったりに否定した。やっぱり仲良しである。
「はいはい、そういうの良いんで。早く戻ってください」
雑に流すと2人は顔を見合わせた。
「あれ?」
「元々あんな感じだぞ、結構雑。新條の前では猫被ってたんじゃねーの、俺には最初からあんなだったけど」
「こんな時ですらマウントを欠かさないお前を逆に尊敬するわ」
やっと戻って来た櫻井に取り敢えず全部付けてみては、と提案した。面倒だと難色を示していたが「そもそも呼び出したの誰でしたっけ」とニッコリと微笑むとすぐに段ボールから仮面を掴み装着すると「どう?」と感想を求めて来た。その様子を眺めていた新條が「強い…」と呟く、何のことだろうと首を傾げるが特に気にせず触れなかった。
動物のマスク、鬼の面、ガスマスク、仮面舞踏会で付けるような顔の上半分を隠すもの、能面、般若の面と次々装着していくが、どうにもしっくりこない。服が普通のTシャツだからだろうか、もしコスプレ用の衣装を着ていたら感じ方も違ったのか。
「うーん、何か違う気がするんだよな」
「服も着替えてもらいますか?」
「けど、当日別にコスプレするわけじゃないんだから着替えないと違和感あるのは辞めた方が良いんじゃ?あ、知り合いにコスプレが趣味の奴いるから衣装借りてくるか」
「本当に交友関係広いですね…用意してくださるのならお願い…絶対嫌みたいです」
新條と静香が話している目の前で仮面を外した櫻井は真顔で首を横にブンブンと振っている。絶対にコスプレはしたくないらしい。人前に出ることにすら抵抗のある櫻井にとってコスプレをするのはハードルが高いのだろう。そんなに嫌なら無理強いは出来ない。
気を取り直して仮面選びを再開し、また何個か装着していると白い狐のお面を手に取った。白地で耳の部分と口は赤、目は黒で目の上には青い線のような模様が付けられている。それを同じ流れで顔につけて静香と新條に見せる。すると
「狐面か…これ良くないか?得体の知れなさが倍増しているというか如何にも浮世離れしている感出せるし」
「私も良いと思います。ミステリアスな雰囲気出てますし下手に踏み込んだらヤバそうな感じも出てます」
「それ褒めてるのか?微妙に貶されてる気が」
「褒めてるよ」
「褒めてますよ」
「息ぴったりだなホント…」
ふーとため息を吐く櫻井は「ちょっと自分でも見てくる」と言い残しリビングを出た。鏡のある、恐らく洗面所に行ったのだろう。すぐに戻って来ると「確かに何かいい感じ」とどうやら気に入った様子。ここぞとばかりに強く勧めると
「そんなに良いっていうならこれにする」
と当日は狐面を付けることに決めたようだ。そこまで何を付けるかこだわりはないらしい。実にあっさりと用事も終わり、新條がそろそろ帰ると言い出したので静香も帰ろうとすると2人に「え」と驚きの表情で見られた。
「雨宮さん帰るの、何で」
「用事終わりましたし…え、何か問題が?」
「いや問題ないけどさ、後ろの奴が捨てられた犬みたいな顔してるから」
え、と弾かれるように後ろを向くと新條の言う通り寂しげな顔をした櫻井が。これは、帰らないでくれということだろうか。と静香と櫻井が見つめ合っている内に「じゃあ俺帰るわ、土産2人で食べて」とさっさとリビングから出て行ってしまった。
リビングに残された静香は何か言いたげな表情で黙ったままの櫻井に近づき、目を合わせた。
「…あの…えっ…」
まだ帰らないで欲しかったのか、と聞こうとした途端抱き締められた。さっき書斎でされた時より腕の力が強い。少し痛いかもしれない。痛い、という意思表示を込めて背中を叩いても力は緩まない。
「…やっと2人きりになれた」
心底安堵した声。そんなにか、と聞き返すと面倒なことになるのが目に見えていたので流した。その言い方だと新條を邪魔に思っていたように聞こえるが、そうではないのだろう、きっと、多分。
「やっぱさ、新條と仲良くない?」
「またそれですか…何も起こりませんて」
「2人のこと疑ってるわけじゃない…ただ俺が不安なだけ、どう考えても新條の方が性格良いし話すのも上手い。今は違ってもいつか新條の方が良いって思うかもしれない、そうなったら絶対勝ち目なんてない、そう考えると…」
声は微かに震えている。相変わらず自己肯定感が低い、自分に自信がなさすぎる。そしてやはり櫻井は新條のことを絶対に勝てない存在だと思っている。この2人、互いが自分より上だと思ってるのだ。
不安に駆られる櫻井の腕にそっと手を添えた。割と自分は態度や言葉で示していると思うのだが、まだ足りないようだ。「これ」は言うつもりはなかったのだが…言った方が後々楽だと判断した。押し付けられている胸板からどうにか顔を上げると、不安で触れる瞳が視界に入る。息を吸うと一気に捲し立てた。
「…私記憶にある限り人を好きになったことがないんです。だからどんな人がタイプかと聞かれても答えられなかったんですけど最近分かりました。多分私は面倒な性格の人がタイプみたいです。これとても失礼なことだと分かってはいるんですが、完璧というか隙のない新條先生は対象外なんですよ…分かってくれました?次不安とか言い出したらちょっと本気で殴ります」
乱暴な言葉で無理矢理締めるとふーっと息を吸い、腕の中で息を整える。遠回りだが割と恥ずかしいことを言った。要するに。
(初恋がこういう人ってやっぱ趣味悪いな、私)
心の中で自虐的に呟くと、頭上から少し安心している声が聞こえてくる。
「…すぐには難しいけど頑張る…あ、殴りたいなら殴って良いよ」
「殴りませんよ、こんな会話前にもしてませんでした?」
「どうだっけ…覚えてない」
「そうですか、そろそろ離してくれません?」
「…今離したらキスするけど、唇腫れるくらい」
危ない単語が聞こえて来てギョッと身体を強張らせる。。
「嫌です、さっきも言いました」
「さっきの話でしょ、もうしないとは言ってない。嫌ならこのまま大人しくしてて」
悩んだ末結局彼の腕の中に収まる方を選んだ。解放されたのはそれから五分後のこと。その後2人は部屋に留まり映画を見たりゲームをして過ごした。いつも以上にスキンシップを取ろうとする櫻井を度々諫める静香の攻防戦は何度も繰り返されることになる。
「というかさっきの話だと初恋俺ってこと?うわ、ほんと趣味悪い…いって!脛蹴るな!」
「…その口ホチキスで塞いでやりたい…」
「急に物騒なこと言うの辞めてくれよ、あと塞ぐならホチキスじゃなくて唇」
「…」
「ごめんなさい黙ります」
目が据わり始めた静香に櫻井は全面降伏した。
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