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28話

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「…あの時と今とでは状況が違います」

「あの時のリゼット感じすぎてずっと喘いでたからな、そりゃ今とは全く違うだろう」

顔が一瞬にして熱を持つ。毛布で顔を隠すも、「顔見せてくれないと毛布剥ぎ取るぞ」と脅され、渋々顔を出す。意地悪気に口角を上げ、それなのに優しい瞳でリゼットを見つめるテオドール。そのアンバランスさのせいで、怒るに怒れない。眉間に皺を寄せていると、その場所に突然唇が落とされ皺が一瞬にして消える。額がコツンと合わされ、蒼い瞳と目があった。

「すまない、揶揄いすぎた。顔真っ赤にする君が可愛くてつい。ちゃんと目を瞑っているから安心してくれ」

と本当に目を瞑った。閉じられた瞼は長い睫毛で覆われている。目を閉じている顔ですら美しいのはどういうことなのだろう。肌も他の騎士に比べると白いし、本当に芸術作品のようだ。というか睫毛、リゼットより長いのでは。キスをされている時いつもテオドールは目を細め、翻弄されているリゼットをじっとりとした熱の籠った視線で観察している。だから目を瞑った彼を見た事はあまり無いのだ。興味深くて、ついベッドを降りるのを忘れ近づいてしまう。

吸い込まれるように、蒼い瞳を閉じた彼の美しい顔を凝視する…そしてほぼ無意識に形の良いテオドールの唇に自分の唇を押し当てていた。柔らかい感触がした時、自分が今何をしたのか気づいた。我に返ったリゼットはバッ、と顔を離し「ま、魔が差しました、ごめんなさい」と早口で謝罪して急いでベッドから降りようとした…が、出来なかった。

「んぐ!っ…んっ、ぁ…」

目を閉じたままのテオドールの右手が後頭部に回ったと思ったら、再び唇を押し当てられた。リゼットがした触れるだけのものではなく、喰まれて吸われて、貪られる激しいものだ。しっかり閉じられた唇の間にトントン、と彼の舌先が辺りノックをする。それだけで、この数日の間に慣らされてしまった身体は勝手に口を開き、舌を招き入れる。口を開き、一瞬だけ唇を離すと

「舌を出してくれ」

低い声で命令されると背筋をゾクゾクとした感覚が走り、おずおずと自らの舌を出すと長い舌で絡め取られて、吸われる。あまりの力強さに根本から引っこ抜かれるのではと錯覚するほど。けどすぐ気にならなくなった。クチュ、クチュという水音、熱い舌でゆっくりと口内を舐め回される心地よさ、呼吸もままならない程激しい舌使い。リゼットの意識は口付けのみに向けられていた。痛みすら快感に変わっていく。

いやらしい水音の合間にリゼットの鼻にかかった甘い声も寝室に響く。羞恥心はほぼ残っていない、ただただ必死に目の前の男に身を任せ舌を絡めていた。テオドールは頑なに目を閉じたまま、口付けの合間に呟く。

「…初めてだな、君からキスをしてもらったの。嬉しかった、顔を見なかったことを後悔してるよ」

テオドールはずっと目を瞑っている、今この瞬間も。何故?という疑問を問いかける余裕はリゼットにはない。唇を離される度に必死で息を整えているうちに、また塞がれるから話すことが出来ないのだ。

「…俺は忍耐力のない男だから自分からキスしてくれたリゼットの顔を見たら、そのまま押し倒していた。今もそうだ、君がどれだけいやらしくて可愛い顔で、甘い声を出してくれているのか見てしまったら。君の大事な場所に手を這わせて指でぐちゃぐちゃに掻き回して、また貫いていたよ」

苦しげに自分を抑えている声。リゼットの軽はずみな行動がテオドールの理性の箍を外しかけてしまっていることを申し訳なく思う。が、仮にそうなったとしてリゼットは戸惑いはするものの、拒否はしなかった。今も想像しただけで毛布に隠された下腹部が疼いている。どこまでも淫らになる自分の身体に驚くばかりだ。

「結局こうして我慢出来てないのだから、ほとほと呆れる」

暫くしたら落ち着くから、付き合ってくれ。そう懇願すると唇を塞がれて、また解放されての繰り返し。吸われ続けた唇がジンジンと痺れてきて、嚥下しきれなかった唾液がツーッと口の端から漏れて首筋を伝う。荒々しく唇を貪ることでリゼットを犯したいという欲望を抑え込んでいるのだ。これ以上されたら、流石に身体が持たない。テオドールの気が済むまでリゼットは身を任せることに決めた。彼も喋る余裕を無くしたのか、黙ったまま唇を重ね続けている。暫くの間、男の荒い息遣いと女の喘ぎ、淫らな水音が響き渡っていた。


やはりテオドールと口付けを交わすことは気持ちがいい、とうっとりしているとペロリと一舐めされて、遂に唇が解放された。唾液でベトベトの唇を手の甲で拭う。後頭部を押さえ込んでいた手も離れ、身体が自由になる。その時、リゼットは自分が剥き出しの乳房をテオドールの胸板に押し付けていたことに気づき、バッと彼から距離を取り毛布で身体を包む。テオドールの様子を確認すると、今も尚を瞑ったまま口角を上げて笑っていた。気づいていて何も言わなかったようだ。

「…俺は謝らないぞ、仕掛けたのはリゼットだ」

「…色々とごめんなさい」

「まあ、目を瞑った状態で喘ぎ声聞きながら胸押し付けられるのも気持ちよかったけどな。気が向いたらまたやって」

「っ!しません!」

今度こそ着替える、と宣言するとベッドの周りに散乱した下着を身につけ、クローゼットから適当に淡いブルーのワンピースを引っ張り出す。ぐちゃぐちゃになってしまった制服のワンピースを手に取ると

「…終わったので、目開けて良いですよ」

テオドールが蒼い瞳を開き、ゆっくりとリゼットの方を向く。何度か目を瞬かせて、ワンピース姿のリゼットを凝視する。そういえば私服を彼に見せるのは初めてだ。数日前までただ職場で話すだけの間柄だったのだから、当たり前だ。

「いつも制服姿だったから、新鮮だな。凄く可愛いよ」

微笑みながら、息を吸うように甘い言葉をかける。手に持ったワンピースで鼻から下を隠す、ほんのり紅潮した顔を見られたくないから。どうにも甘ったるい雰囲気に引っ張られそうになる自分を引き戻すため、捲し立てるように言った。

「…テオドール様シャワー使いますか?汗かいてますよね、私も汗を流したいので私の後に使ってください。お腹空いてませんか?テオドール様が浴びている間に簡単なもので良いなら何か作りますが」

畳み掛けられたテオドールは一瞬ポカン、とするもリゼットの手料理に心惹かれたようで「じゃあ、お言葉に甘えて」と頷いた。


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