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6話
いつでも来ていい、と言われてもやはり遠慮してしまい最初は数週間に一度の頻度でしか足を運べなかった。それでも先生は顔を見せに来たこと自体が意外に思ったようで、私が来ると嬉しそうに微笑んでくれる。それは何となく、他の生徒に見せるものとは違う素の先生を垣間見ているようで胸が高鳴った。
私も友達やクラスメートには見せない顔を無意識に見せつつあったので、毒舌混じりにゲームに課金しまくる先生に正論をぶつけて彼を狼狽えさせることもあった。そんな遠慮も気遣いも要らない時間を心地良いと感じ、数週間に一度が週に一度になるのに時間は掛からなかった。そして私は先生に対する気持ちの変化を、無視することが出来なくなっていたのだ。つまり、教師に対して恋愛感情を持つという愚かな行為をしでかしてしまったことに。
チョロいと言うほかないが、私は徐々に忌避していたはずの恋愛感情に戸惑うようになっていった。恋愛やそういった感情に起因するものを拒絶していた癖に、いやらしいことや男女間の営みに対して人並みに以上に興味があったので、性的な描写のある漫画小説、映画を見まくっているという誰にも言えない趣味を持っていた。
この一年半で時折先生のことを思い出しては自らを慰めるという趣味も加わった私は、卒業式にあることを決行する計画を立てる。
ダメ元で、思い出にしたいのでセックスして欲しいとお願いしよう、と。
我ながら狂ってるな、と思う。けど、私はこの先先生以外にそういうことをしたいと思える相手と出会える気がしない。根っこのところで人を信用していない私にとって、手放しで信用して良いと思える大人は先生が初めてだった。刷り込みも入っていると自分でも分かる。それでも、思い出があればこの先1人でも生きていける気がした。
そして何より、先生が万が一にも私と同じ気持ちなんてことはあり得ないと分かっているからこんな馬鹿げたことを計画した。後腐れなくセックスしてもらえる確率の方がまだある。
母譲りの明るい茶髪に病的なまでに白い肌、大きな瞳、ほっそりしているのに女性らしい身体付き。今まで煩わしいとすら思っていた自分の容姿が、やっと役に立つ時が来たのだ。まあ、先生に効果があるかは分からないけれど。
そうして迎えた卒業式、私はクラスメートとの交流もそこそこに、先生に会いに来た。
****************
先生は茫然自失と言った様子で私を凝視している。その反応も当然だ。私が先生の立場でもそうなる。最も、私は男子にそんなことを言われたらゴミを見る目を向けると思う。女子だからこの反応で済んでいるのだろう。
「えーと、佐上」
「はい」
「冗談、じゃないよな。こういう冗談絶対言わないだろうし」
私は先生に異性というか恋愛そのものを忌避しているとさりげなく伝えたことがあり、そのことに関して先生は何も言わなかった。いつか良い人が見つかるとか、頑なになっては駄目だとかは一切なく一言「そうか」と興味なさ気に。ああ、この人私にそこまで関心ないんだな、と少しショックを受けた自分が心底面倒臭かった。何期待しているんだろう、馬鹿みたいだった。
「あ、あれか。両親に何処ぞの馬の骨と結婚しろとか言われて自棄に」
「安心してください。そんな話一切ないですし、気の迷いでも自棄でも冗談でなく本気です」
考え得る先生の逃げ道を最初から全部潰した。本気だと、冗談じゃないと分かって欲しくて。先生は戸惑いながら口を開く。
「…佐上俺のこと好きだったの」
「はい、性的な意味で」
「せいて…んん。そんな素振り全く見せなかっただろ」
「当たり前ですよ、バレたら密室で2人で会うなんて直ぐに止めたでしょ?」
自分に好意を持っている生徒と密室で2人きりなんて危ない橋を先生が渡るわけがないと分かっていた。バレて放課後の秘密の時間が終わるよりも、気持ちを押し殺して先生と過ごす時間を選んだだけ。
「そりゃまあ…。佐上、お前俺への恩とかそういう気持ちを恋愛感情と勘違いしてるだけだ。卒業して大学に行って、広い世界見れば直ぐに気の迷いだって気づく。だから」
「そういう正論今は聞きたくないです。私が聞いてるのはセックスしてくれるかどうかですよ」
真顔で言い切った私に先生は困ったように深いため息を吐き、髪を掻いた。
「何がどうなってそんな結論に達したんだ…」
「思い出にしたいんです。私この先好きになれる人、というか自分の全てを曝け出しても良い人に会える気がしないし、人並みに男女間の営みには興味があって。ならそういう人が居る時に経験したいと思いました」
「…それなら尚更もっとよく考えて」
「一年半よく考えた結果です。ぶっちゃけると先生とするのよく想像してました。あ、先生とならいけるとなりまして」
ゲホッ!と思い切り先生が咽せた。咳払いをして喉を整えている。
「どうした本当に、明け透けに言いすぎだろ」
「開き直ってるんですよ、断られてもOKされても終わったら会う機会なんて無いですから」
未練なんて残さないために先生の答えに関係なく、二度と会わないと決めている。その方が良い、と自分に言い聞かせて来た。
すると先生が眉を顰める。目をスーッと細め私を真っ直ぐに見つめていた。
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