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7話
…何故か背筋に冷たいものが走った。
「…え?佐上もう俺と会わないつもりだった?酷いな、3年間で1番お前と話した教師絶対俺だぞ。卒業しても偶に顔出してくれると思ってたのに」
先生は傷ついたように目を伏せた。私は先生の表情にズキ、と胸が痛む。それでも自分の意思を曲げるつもりはない。
「それに関しては薄情な真似をして申し訳ないと思ってます。けど、こんなことを言った後でどんな顔して会えば良いか分かりませんし、先生も気まずいでしょ?」
先生は何も言わない。ただただじっと私を見ている。
「…気まずい、ね。あのさ、いくつか聞いて良いか?」
平素より低い声で訊ねられ、私の身体に緊張が走る。何だろう、怒っているわけでは無いのに先生の周囲の空気の温度が少し下がっている気がする。
「は、はい。何ですか」
「佐上は俺のことが好きで、だからセックスしたい、これは合ってる?」
他人の口から聞かされると自分がどれほどとんでもないことを言ってしまったのか思い知らされる。時間差で羞恥心が襲いかかって来たが、何とか口を開く。
「…はい」
「次にセックスしたいってことは身体目当て?事が済んだら俺は用済み?」
先生の私を責めているような口振りに動揺し、咄嗟に反応出来ずに口籠った。そんな私を先生は冷たい目で射抜きながら立ち上がる。
「言い返さないってことは図星?」
「ち、ちが」
「違わない、自分で言ってただろ。付き合いたいなんて望まないって。やることやったら、それで終わり、もう関わらない。すげー酷いこと言ってる自覚ある?」
狼狽えるばかりの私の前に、いつの間にか距離を詰めていた先生が見下ろしている。…見たこともないほど冷たい表情。私は顔を強張せたまま口をパクパクと開閉させる。
「わ、私はただこの先1人でも大丈夫なように思い出に、ひっ!」
長身の先生が身を屈め、顔を近づけて来た。目前に迫る整った顔に思わず後退りそうになるもガシリと腰に腕を回された。ニッコリと微笑まれるが目が笑ってない。私は怖くて震えてくる。
「あ、今日はセクハラとか騒いでも絶対止めないから」
「先生、怒ってます…?非常識なこと言ったのは謝ります、だから」
「ん?怒ってない、ただ…どうやって分かってもらうか悩んでるだけ」
先生の言ってる事がよく分からず首を傾げた。
「…佐上」
「…はい…」
「…仮に俺もお前の事好きって言ったらどうする?それでもセックスしたらそこで終わり?」
「…え…」
先生の言葉に耳を疑った私が呆然としてると唇に温かいものが触れた。時間にして数秒、触れていたものがあっさり離れていく。
私は何が起こったのか理解が出来ずに文字通り固まっているが、かろうじて動いた右手でそっと唇に触れる。
今、先生私に何した…?一瞬夢かと疑ったが、触れ合っただけの唇の生々しさが残っているし先生は私の目の前に立ったまま見下ろしている。…耳を微かに赤くして。何も反応しない私に痺れを切らしたのか、先生が不貞腐れたように呟く。
「…何か言えよ」
「え…あ…先生今私に…キスしましたよね…な、なんで」
「口で伝えるだけより行動で示した方が伝わると思って。念のためもう一回言うわ、俺佐上のこと好き。だから付き合って欲しい」
とても真面目な顔の先生は冗談を言っているようには決して見えない。かといって直ぐに信じられる事ができないくらいには私は捻くれていた。
「……」
「何だその顔、疑ってるのか?俺、こんな性質悪い嘘吐かないぞ」
「いえ、それは分かってるんですが…現実味が無くて…」
「告られて直ぐにセックスしてくれと言われるよりは現実味あるだろ」
「っ…!」
そこを突かれると何も言えなくなる。
「…先生が私を好きとか、1番あり得ないから最初から除外してたんですが…」
「色々すっ飛ばしてセックスしてくれと言い放つ奴の思考回路はよく分からないな。それが1番あり得るだろ」
紛う事なき正論をぶつけられるが、私も自分のことがすっかり分からなくなっていたので何も言えない。
「いや、普段の言動にそんな素振り全く」
「俺これでも倫理観はまともだからさ、教え子に如何わしい感情抱いてるなんて絶対悟らせないようにしてた。そもそも伝えるつもりもなかったよ。佐上恋愛とか男を避けてるって言ってたし、寧ろ嫌悪しているみたいだったからさ。そこそこ気を許してた教師に好きとか何とか言われたら気分悪くすると思った。なのに、告られてセックスしてくれって言われるのは完全予想外」
セックスセックス何度も言われるとこっちが恥ずかしくて居た堪れない。いや、元はと言えば私が言い出したことだった。恥ずかしがる資格はない。
「…えーと、私…」
何て答えれば良いんだろう。当たって砕けろの精神でここまで大それた事が出来たのだ。砕けるどころか新たな事実を突きつけられて、私は混乱している。先生はそんな私に優しく、そして見たことない程甘く微笑んだ。
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