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9話
「……」
「あ、先生お帰りなさい」
「…その格好…」
「数ヶ月振りに着てみたんですけど、どうです?」
合鍵を渡されていた私は時々夕食の準備をして、先生を出迎えている。今日も先生にはそうメールで伝えていたので、準備をしてリビングで待っていた…高校の制服を着て。
たった数ヶ月前なのに卒業した身でセーラー服を着るのは何だか恥ずかしかったし、コスプレ感が否めない。現に先生も衝撃が強いのか目をまんまるくして固まっている。
そもそも何で制服を着ているのか。それは先生が手を出してこないことに起因する。卒業式の日、今にも襲いそうだと言っていたので春休み中に一線を越えるのだと、期待しまくっていたのに…現在進行形で健全なお付き合いが続いていた。2人で一緒に過ごしていて、「そういう」雰囲気になり深いキスをしたり、互いの身体に触れたりはするのだが、それだけ。それ以上のことは決してしない。何でだ。
先生が手を出してこないのは、私に魅力を感じないだとかそんな理由ではないのは分かる。私のことを大事に思ってくれているのも。
不安がるのが間違いだと、理解はしている。けど、好きな人に求めて欲しいと願うのは間違いでは無いだろう。まあ正直なところ、先生と2人きりだと妄想で慰めていた時のことを思い出して悶々とし、我慢が効かなくなってきたので行動に移そうと思っただけだけど。
大体、先生も先生だ。風呂上がりに上半身裸で脱衣所から出てくるわ、キスが一々ねちっこくて長い。挙句に身体に触れる時もいやらしいったらありゃしない。こっちの興奮を煽る真似ばかりしてくるのだ、本当性質が悪い。
そこまでしておいて何もしない。これ悪いの先生だと思う。私がやろうとしていることは誰も(少なくとも先生は)責められない。
とはいえ、自分から誘うというのも中々にハードルが高い。告白してセックスしてと迫った人間が、何を恥ずかしがることがあると呆れるが恥ずかしいものは恥ずかしい。
じゃあどうするのか、というと…先生にその気になって貰う、だ。手っ取り早いのはいつもと違う露出の多い服装でそれとなく迫ることだけど…なんか違うなと悩んでる時ピーンと来た。
制服着ればいいのでは?
教え子に迫られる背徳感を感じ、興奮してそのまま…よし行けそう。何の根拠もないのに自信だけはあった私は今日、態々制服を持って先生の部屋に来た。
今にして思えば、短絡的で馬鹿丸出しの作戦とも言えないお粗末なもので何故行けると思ったのか、自分のしたことなのに訳が分からない。
後悔しても遅いが、先生の反応を見る限り失敗…ではないようだ。何か耳が赤くなっている。このチャンスを逃さず、私は攻めた。
「先生、もしかして照れてます?ちょっと前まで来てた制服ですよ」
「…いや…俺の部屋に制服着た瑠衣が居るの…途轍もなくいけないことをしてる気分になる…」
先生は卒業式の日を境に私を名前で呼ぶようになった。未だに呼ばれる度に擽ったい心地になる。先生のことも名前で呼ぶよう言われているが、未だ実現してない。
名前を呼ぶ声が微かに上擦っている、これは。
「興奮してるんですね、やった作戦成功」
「作戦?」
「あ」
変に距離を取りながら、怪訝な顔で訊ねられた。つい漏らしてしまったことに気づいた時には既に遅い。誤魔化せる雰囲気でもなかったので、私は正直に話すことにした。
「…先生いつまで経っても手出してこないから、普段と違う格好すればその気になってくれるかなーって」
先生が衝撃を受けたように瞠目する。そして形の良い眉を下げ、口元に手を当てたままこう言った。
「…あー、俺が何もしないのが不満だったのか」
「いや不満というか不安というか…」
言い淀む私を「待った、言い訳させてくれ」と先生は遮った。
「…実は春休み中に手出そうか企んではいた。けど付き合ってすぐってのも、身体目当てだと不安がらせると思って暫くは健全な付き合いで過ごすのもありかな、と」
「もう6月終わりますけど」
「…それに関しては俺がヘタレだったんだ…一線超えたら絶対独占欲が抑えられなくなる。これから沢山の経験をする瑠衣の行動に一々口を出す予感がして、それで尻込みしてたというか…」
物凄く言い辛そうにしながらも、言いたいことは伝え終わったのか先生が心底バツの悪そうな顔で、やっと私の顔を見た。
「先生の言いたいことは分かりました。なんていうか、先生淡白そうなのに意外です」
「こう見えて彼女に対しては嫉妬深くなるタイプなんだよ」
「他の男と話すな、とか?」
「そんな極端なことは言わない、まあ男と2人で出掛けるのは絶対辞めて欲しいけど」
「彼氏居るのにそんな真似しませんよ、それ普通の反応です」
「そうか?…まあ俺がヘタレてたのが理由の一つ、もう一つは瑠衣の誕生日が近いから、どうせならどっかで食事してホテルに泊まって、思い出に残るものにしようと思って予約してた」
「誕生日…?」
ポツリと呟いた私の反応に先生は首を傾げた。
「7月4日、瑠衣の誕生日だろ」
「…………あ、そうでした」
「その反応、忘れてたな」
先生は一昨年から準備室でおめでとう、と祝ってくれている。友達が私にプレゼントを送っているのを見かけて、誕生日だと知ったと言っていた。あの頃の私は誰に言われるより先生からのおめでとう、が1番嬉しかった。
「誕生日って私の中では記念日でもなんでもないんですよ、友達に祝って貰うまで忘れてるくらいですからね」
明るく言ったつもりだが、先生は私が親から誕生日を祝って貰ったことがないことを言外に悟り、しまったと言わんばかりに表情に焦りが見え始める。そんな先生を私は宥めにかかった。
「そんな顔しなくても良いですよ、友達や家政婦さんは祝ってくれましたから」
「…これからは俺も毎年祝うよ」
「ありがとうございます、先生の誕生日も毎年祝いますね。8月25日」
「…俺のは覚えてるんだな」
「そりゃ好きな人の誕生日は覚えてます…」
…なんか先生がガン見してくる。あ、好きな人とか言ったからかな。普段先生ばかりで私から言うことあまり無いから。
…マズイ、恥ずかしくなってきた。私の羞恥を覚えるポイント本当に分からない。
「…あ、先生お腹空いてますよね。今準備します」
かなり無理矢理話題を変え、この妙な雰囲気を変えようと試みる。当初の目的の達成はもう良い、寧ろ私が余計なことをしたせいで先生のサプライズを無駄にしてしまったことに罪悪感を覚えた。
それに関しても食事の時に謝るとして、私は兎に角この場から離れたかったので先生に背を向けてキッチンに向かおうとした。
だが、急に背後から抱きしめられて頸に思い切り吸いつかれる。私が小さく悲鳴を上げ、身体がふわりと浮いたと思ったら何故かソファーに横たわり私の上に先生が覆い被さってきた…卒業式の日に見たギラギラとした瞳で見下ろしながら。
「?先生?」
「悪いけど飯後で良いか?先にこっち食いたい」
「えーとそれは」
「可愛い彼女が制服着て誘ってくれてるのに、応えないわけにはいかないだろ」
「た、誕生日にするなら、別に今日無理にとは」
「誕生日は誕生日で抱くよ。正直なところ部屋で2人きりで何もしないもの我慢の限界だったんだ。俺が悩んでる間に瑠衣に先を越されたけど。不安にさせてごめん、優しくするから今すぐ抱かせてくれ」
何か言おうとしたけど、先生に唇を塞がれて言葉は発する前に消えていった。
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