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3話
しおりを挟む「あ、セレナ?よくやってくれたわ!カーライト様うちと契約したいとさっき連絡が来て、セレナをご指名よ。早速なんだけど明日の午前中から週3で」
「ちょ、ちょっと待ってください」
セレナが帰宅すると電話がかかって来て、急いで出ると所長からだった。矢継ぎ早に話す所長にセレナは付いていけず、待ってくれるよう頼む。セレナは所長の言葉を脳内で整理した。
「……つまり?カーライト様がうちと契約したいとおっしゃって、私を指名したということですか」
「だからそう言っているじゃない。正直ね、セレナを向かわせたのはダメもとだったのよね。想像以上にカーライト様の女性不信は根深そうだったから。どうやって説得したの?」
「説得なんてしていません……ちょっと文句のようなことは言ってしまいました」
セレナは簡潔にルークがメイド、引いては女性全てが男に懸想した挙句問題を起こす愚か者ばかりであると決めつけ、その態度が真面目に職務に取り組んでいる自分達を馬鹿にしていると感じてしまった。だからつい、ルークの態度が不服だと言い返してしまったことを話した。本来ならば依頼主に対して意見することはあってはならない。勿論理不尽なことを要求する依頼主に関してはその限りではないが、ルークの件は理不尽なことに当てはまらない。推定女性不信なルークが初対面のセレナに偏見を抱くのも無理はないからだ。
所長はそんなセレナを叱責することはなく寧ろ良くやった、と笑っている。
「それが若い女性を嫌っていらっしゃるカーライト様には良い方に働いたのね。ズバズバ思ったことを口にするセレナは安心出来ると思ったのかも。真面目に振舞っておいて、裏では自分の持ち物を盗んだりピッキングしたり犯罪行為に手を染めている人間よりよっぽど信用出来るわ」
「持ち物を盗む?」
「服や下着が減ってる、と思ったらメイドが持ち帰ってたらしいのよ。怖いわね」
ゾワリ、と鳥肌が立った。もしかしなくてもそれは洗う前のものだろうか。一体何のために盗んで、いや考えたくない。
「カーライト様、そのメイド達をどうしたんでしょうか。普通に契約を切るだけじゃストーカー化すると思うんですが」
「メイドを派遣してる会社に報告して、その会社からメイドの親族に連絡がいって即家に連れ戻されたようよ。メイドの親族は訴えない代わりに慰謝料を払って、メイドを遠くに嫁がせることで事を納めたと聞いているわ。カーライト様の件業界じゃ結構有名なのよ。そんな犯罪行為を犯すメイドを派遣した会社は肩身の狭い思いをしているの。それでね……恐らくだけど派遣会社の中にはカーライト様がメイドを惑わせる危険がある、と依頼を断ったところもあるわね」
「それって、カーライト様が気を持たせるような態度を取ってメイドを弄んだと思われてるってことですか?」
セレナはルークに良い印象を抱いていなかったが、彼の事情を新たに知りますます今朝の態度を悔いた。彼の今朝の様子からして、女を弄ぶ人間には見えなかったし逆の印象を抱いたからだ。
「まあ、こう何人も立て続けだとそう思う人がいても仕方ないのよ。愚かにもカーライト様のせいで会社の評判が下がったと、逆恨みしている同業者が事実無根の噂を流している可能性は高いわ。たまにいるのよね、本人は普通に接しているだけなのに異常に相手に執着されてしまう人。カーライト様はその類よ。その上あの見た目で邸持ち、嫉んでいる奴らも嬉々として良からぬ噂を流しているのね。うちもダメだったら、本当に後がなかったでしょう」
ルークにとってメリエーラ派遣所は最後の砦だったのだろう。それなのに希望と違う、嫌いな若い女が来てさぞ落胆したに違いない。セレナに「帰れ」と言い放ったのは、自棄になっていたのかもしれない。
「……カーライト様が何を思って私を指名したのか分かりませんが、仕事なのでちゃんとやりますよ。明日からで良いんですか?」
「うん、細かいところは直接本人と話し合って決めてちょうだい。契約書はカーライト様の元に向かう前にこっちに取りに来て。じゃあ、遅くにごめんなさいね。おやすみなさい」
所長はそう言い残して電話を切った。セレナはふぅ、とため息を吐く。
(今朝のアレで契約しようと思ったカーライト様の気がしれない。私としては給料が増えるから、文句はないけれど)
女嫌いなルークとは必要最低限の会話しか交わさないと思う。多少の気まずさは感じるものの、特段支障はないとセレナは楽観視していた。
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