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1話
「向こうが浮気したんだから、私も浮気したって良いでしょ?」
「は?」
金曜日の夜、大学時代からよく通っていた個室のある居酒屋の一室に管を巻く女とそれに付き合わされている男がいる。女の前には空いたグラスが5つ置いてあり女の顔もうっすらと赤い。緩く巻いた髪は仕事中は邪魔にならなように一つに纏め、退勤後の今は下ろしてサイドの髪を耳にかけていた。が、話しているうちに興奮が増していき身振り手振りで身体が揺れるため耳にかけた髪が落ちてくる。落ちるたびに鬱陶しそうに耳にかけ直す。男は「邪魔なら結べば良いのに」と言いたげな視線を投げかけてくるが、女は気づく様子はなくまたビールをぐびっと一口飲んだ。いつも以上にペースが早い女に男は心配そうに声をかけた。
「おい、そんなハイペースで飲むなよ」
「大丈夫、私が強いの知ってるでしょ」
「知ってるが、今日の飲み方は良くない。すぐに酔いが回るぞ」
「寧ろ酔いたい気分なのよ、じゃなきゃやってられないわ」
ガン、とジョッキを乱暴に置いた女…灯里は恨みがましい目で正面に座る男…樹を睨む。急に呼び出されたのに直ぐに応じ、その上愚痴を聞いてやってる立場なのに睨まれるなんて解せない、と視線で訴えるも灯里はそこまで気が回る状態ではなかった。樹は突然突拍子もない発言をした灯里の真意を確かめるため、彼女がこれまで話した内容を整理し出す。
「…浩介が最近あからさまに会う頻度が減って、誘っても断られることに女の勘が働いてコッソリマンションに行ったら知らない女と腕組んで入っていったんだっけ?しかもこっち向いた浩介と目が合ったのに無視された、と」
浩介とは彼氏の名前。付き合い始めたのは高校の時で樹の従兄でもある。樹とは切っても切れない深い関係だ。出会ったのは樹の方が先だが、紆余曲折合って浩介と付き合うことになって今に至る。
灯里は高校、大学、新社会人とうら若き乙女の時間を費やしたにも関わらず、他の女に現を抜かし裏切った浩介への怒りが収まらない。舌打ちしそうなほど顔を顰めた。
「そうよ、あれで浮気じゃないとか言い出したらぶん殴ってやるわ。あんたも浮気だと思うでしょ」
「彼女いるのに他の女と腕組んで家に連れ込むのは浮気だわな。ただ飯食ってただけとか言い訳しても通らないだろ」
学生時代から少々ノリが軽く、女子の友達とも距離が近かった浩介と違い、堅物で融通の利かない性格の樹は浩介の行為に眉を顰め灯里に賛同してくれる。味方が確かにいる、と気分の上がった灯里は酔いも相まってとある「秘密」を暴露した。
「そうよね、浮気よね。ったく、次は無いって口を酸っぱくして約束させたのに、このザマよ」
後悔を滲ませる灯里に樹は「…次?」とやや前のめりに反応した。
「次って、その言い方だと一度目があったように聞こえるんだが」
「あったよ、大学の時」
「俺、聞いてない」
「誰にも話してないからね、あいつも反省してたし私が許したとしても浮気したなんて周りから白い目で見られるの、可哀想でしょ?」
まあそんな思いやりすら奴は台無しにしたのだけれど、と灯里は件の一度目について語り始めた。
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