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3話
「会う頻度が減った時点で何となく察してたんだよね、いつかこんな日が来るって。それに…」
「それに?」
言い淀む灯里に樹は続きを話すよう促す。
「…多分あの時本当の意味で浩介を信じられなくなったんだと思う。気持ちが冷めてたのかも。もうしないって、裏切らないって約束したけど信じてなかった。期待してなかったから裏切られても、そんなに悲しくないんだよ」
「…」
「浩介も私のそういうところ気づいてたのかもね、他の子に行ったとしても理解出来なくはないよ」
「どんな理由があっても浮気は最低だ」
「真面目~」
「普通だろ」
揶揄う灯里にムッとして返す樹。知り合った頃から変わらないやり取りに、荒んだ心が少し癒える気がした。灯里はふふん、と勝気に笑う。
「まあそれはそれよ。やられっぱなしは癪だから同じことをやり返してやるの。私が4年前、そしてさっき味わった屈辱と悲しみをあいつにも味わってもらう」
「それで浮気する、と…つーか、さっさと別れて縁切った方が楽だろ。態々やり返さなくてもさ」
「だってそれくらいしないとアイツ、しつこく縋ってきそうだから。4年前はちゃんと好きだったから許したけど、今はもう無理。同じことされても鬱陶しいだけ。でも浩介ってプライド高いから、別れろって迫ってもゴネるよ。でも私が他の男と…何て知ったら」
「…自分のことを棚に上げて怒りそうだな」
「でしょ?それを狙ってるの」
灯里より付き合いの長い樹は浩介の性格をよく理解してる。浩介は高校時代告白してきた際、恋愛対象として見たことがないと断ろうとした灯里にどうしても、と頼み込んで付き合いを承諾させ灯里の気持ちをあらゆる手段を持って自分に向けさせた、中々にしつこい人だ。その一方で手に入れたものに対してはかつての熱量はどこへ行ったのか、と聞きたくなるほど淡白になった。ベタベタされるのも好きでは無かったので不満は無かった。恐らく灯里のそういった態度も浩介の中では引っかかっていたのかもしれない。だが彼が指摘することはなかった。代わりに自分の不満を埋めてくれる…腕を組んでいた彼女に行った。それでも一度許したのだからバレたって今回も許してくれるはず、と呑気に構えているのだ。別れを告げられるなんて露程も思ってない。魔が差したと謝り倒せば許してくれると、灯里を軽く見ている。
灯里は聖人ではないし性格だって悪い。軽んじられて、何もせず許すわけがないのである。これからしようとしてることは正当な報復だ。灯里は行儀悪く肘をつき顎に手を当て、ふーと息を吐く。
「浮気すると言っても、相手を探すところから始めないとねぇ。今時は何で探すの?ネット?アプリ?」
「俺だってやったことねぇんだから知らんわ…アプリか、バーとかで見た目が好みの奴に声かけるんじゃないのか?」
「なるほど…今から近くのバーに」
「待てや」
善は急げとばかりに立ち上がろうとした灯里の腕をニュッと伸ばしてきた手で掴む。
「行動が早い、後先考えずに突っ走るな」
「ちゃんと考えてるよ」
「考えてねぇ、お前やっぱり酔ってるな?こんなアホな事しないもんな」
「アホってひど」
「アホだろ、バーで見ず知らずの相手引っ掛けるとかどれだけ危ないか理解してるか?」
渋々座った灯里は、逃げないよう未だ繋がれた手首に視線を落とす。
「いや…友達はそれで知り合った人と上手くいってるし」
「それは偶々友達の相手がまとも奴だっただけ、運が良かっただけだ。遊びまくってる奴で病気持ちだったら?最中の動画や写真を撮ってそれをネタに脅す下衆だったら?もう浩介にやり返すどころじゃなくなるぞ」
樹は手を離すと正論をぶつけてくる。友達の話やドラマや映画のせいでワンナイトを軽く考えていた。しかし、見ず知らずの相手と性行為をする。改めて考えると何と危ないことか。相手が悪ければ犯罪に発展する危険も孕んでいる。自分がこれからやろうとすると途端に二の足を踏んでしまう。
何ということだ、数分で灯里の自称完璧な復讐計画が頓挫しようとしている、と頭を抱えた。
「見ず知らずの相手はリスクが高い。でも、知り合いの方が無理じゃない?絶対気まずくて友達付き合い出来ないよ?」
ならば残る相手は男友達。為人を知っているから、性格的に危ない男を排除していけば比較的安全な男友達は何人か頭に浮かぶ。問題は頼み方だ。浩介が浮気をした、別れる前に浮気された屈辱を味合わせたいから一回だけ…。
説明するだけで気力と体力を使う。方々に浮気されたことを話して回るのはメンタル的にきついものがある。それに後腐れのない関係を望んでいるのでやはり顔見知りは避けたいところ。
本格的に頭を悩ます灯里をじっと見つめていた樹は、酔いを感じさせない顔で提案した。
「…俺、心当たりあるぞ」
「!誰?友達?というか友達いたんだ」
「おい紹介しねぇぞ」
「ごめんなさい、紹介してください」
茶々を入れた灯里を凄む樹。慌てて謝った灯里に冗談はこのくらい、と真顔で言い放つ。
「俺」
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