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最終話
「避けるなって言ったのに、やっぱり避けやがったな」
不機嫌さを全面に出した樹がマンションに突撃して来たのはそれから1週間後。寝ぼけ眼で宅配便だろうか、と軽率にドアを開けた先に樹がいた事に気づき慌ててドアを閉めようとしたがすでに遅かった。ガン、と自分の足を滑り込ませたせいでドアを閉められない。側から見たら押し入ろうとしてる不審者である。気まずさから目を逸らす灯里は色々と遅いが言い訳をした。
「避けたわけじゃ、ちょっと忙しくて」
「お前未読スルーだけはしなかっただろ、バレバレなんだよ」
伊達に長い付き合いではない樹には灯里のことはお見通しのようだ。
「まあ理由は想像付くよ。浩介がバラしたんだろ」
恥ずかしがるでもなくあっさりとした樹の態度に灯里は驚く。ドアを抑える手が緩んだ隙に樹は強引に押し入ってきた。繰り返すが完全に不審者である。ドアを後ろ手に閉めた樹は灯里を見下ろす。その表情は普段通り飄々としたもので、積年の思いをバラされたとはとても思えない。
「…気づいてるから分かるでしょ。気まずかったの」
「ふーん」
「何であんたはそんな堂々としてるのよ」
「予想してたからな。腹いせでバラすだろうって」
だとしてもメンタルが強過ぎるだろう、と少し引いていた灯里は尊敬の念を送った。
「で、灯里のことだから気づかなかった自分を責めて、俺に合わす顔がないとかくだらないこと考えてるんだろうなって」
「くだらないって、私は真剣に悩んでたんだけど」
自分の悩みを軽んじられたと灯里の目つきが鋭くなる。しかし樹は謝るでもなく、話を続けた。
「くだらないだろ。未練がましく幼馴染として側に居続けたのも、傷心に漬け込んで手出したのも、全部俺の責任だ。灯里が気に病む必要はない」
「…でも」
本人にそう言われても、簡単に割り切れるものではない。煮え切らない態度の灯里に樹は距離を詰める。
「避けたってことはさ、俺のこと意識してるの?」
「は?違うし」
「顔、赤いけど」
「へ、部屋が暑いから!」
苦し紛れの言い訳をする灯里に樹は面白そうにクツクツと笑う。
「浩介と別れたんならフリーだろ?」
「まあ、そうだけど…」
「今すぐ付き合えとは言わないから、アプローチする許可をくれ」
てっきり告白されると思いきや、想像と違った申し出に灯里はキョトンとする。
「告ったところでどうせ断るだろ?」
言い当てられてドキンとした。灯里は今の自分の気持ちがはっきりしない。付き合って欲しいという申し出には頷かなかっただろう。
「浩介も最初は断ったのに、しつこいアプローチに折れたって聞いた」
折れたって、人のことを押しに弱いみたいに。事実だから反論は出来ないが不服だと唇を尖らせる。
「そのうち折れてくれるかもしれないから、それに期待する」
「そういうの口に全部出すとこどうかと思うわ」
「今更だろ、俺は昔からこんなだ」
開き直った樹に灯里は苦笑するしかない。うだうだ悩んでいた自分が馬鹿みたいに思えてくる。
「アプローチだけなら、好きにすれば」
「え、マジ?やった」
素っ気なく答えても樹は嬉しそうに微笑んだ。
「けど、手出してきたら容赦なく反撃するから忘れないで」
「おー、こわ」
自らの腕を抱いて怖がるふりをする樹を「いつまで突っ立ってるの」と半ば強引に部屋の中に連れ込んだ。これから樹とどうなるか分からないけど、心は不思議と晴れやかで悪いことにならないことは確かだ。
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