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4話
しおりを挟むイザークが寡黙なのは分かっていたが、この時だけは饒舌に話していたマリアも無言で彼の手の甲を撫でた。言葉はなくとも目で会話をし、互いの意思を確認し合った後2人で会計をして店を出て、近くの宿に入った。入ったというよりマリアが半ば強引に連れ込んだ、という表現の方が合っている。イザークは葛藤していたようで、何度か足が止まり引き返そうとしていた。しかし、それをいつになく積極的で完全に出来上がってるマリアが捩じ伏せたのである。
実際のところ、華奢なマリアを押し除けて帰ることはイザークには容易かった。今ベッドの上でマリアに押し倒されている時点で、イザークも満更ではなかったのだ。
「や、やはりこういう軽率な真似は…」
「えー、軽率じゃないですよ~。身元がはっきりしている安心安全な人、団長さんしか思いつきませんし」
「『結婚出来なさそうランキング一位』の男だぞ!」
「何ですその失礼極まりないランキング。新人職員に声かけて無理矢理誘おうとするチャラチャラした人達より、そっけない言葉でも隙を見せないよう警告してくれる人の方が良いですよねぇ。何で人気ないのか、世の女性達は見る目がないんですよ~」
イザークの眉がピクリ、と動く。マリアが覚えているとは思わなかったのだろう。数年前、事務員として出仕し始めてから日が浅かった頃のこと。同期と廊下を歩いているとマリアより少し年上の男性…服装からして下級騎士と文官数人に囲まれたことがあった。マリア達が新人で世間知らずだと侮り、食事に行こうと口では言うものの裏の目的が透けて見えていたので即お断りした。しかし、断られたことが気に食わなかったようで彼らの態度が急変し、腕を掴まれて無理矢理連れてかれそうになった時助けに入ってくれたのがイザークだ。彼は絡んできた男達全員の名前と所属を言い当て「新人に声をかけるほど暇なようだと、お前達の上司に進言しておこう」と無表情で冷ややかに吐き捨てると、彼等は顔色を悪くして逃げるように去って行った。
「…隙を見せると、ああいった輩につけ込まれる。気をつけろ」
未だ恐怖で固まっていたマリア達をジロリと琥珀色の瞳で睨みつけ、こう言い残すと彼もどこかへと行ってしまった。同期は「何あの怖い人…」と助けてもらった立場なのにイザークに対しての不満を漏らしていた。「大丈夫か」とこちらを気遣う言葉の一つでもかけて欲しかったのだろう。しかしマリアは彼は物言いこそ厳しかったが、内容は正論だと受け止めていた。学園を卒業し、親元を離れ新しい生活が始まり浮ついていたのは事実。それをさっきの男達は察知して、「声をかければついて来るだろう」と軽く見られた原因となっていたのだ。マリアはイザークの警告通り隙を見せないよう地味で取っ付きにくい人間を装い、そういった誘いにも毅然とした態度で断っていたら声をかけられなくなった。安全に生活出来ているのはイザークがきっかけなので、周囲が彼を怖いと怯え遠巻きにする中マリアは普通に接してきたのである。
マリアはイザークに対して人としての好感は抱いていたが、恋愛感情ではなかった。しかし、知っている異性の中で彼以上に安全な人はいないと断言出来た。酒が後押ししたのもあるが、「処女を捨てる相手」にイザークを選んだのは本能的なものだった。マリアはイザークにのし掛かったまま、身体を倒しキスをした。表情に乏しいイザークだが、流石に切れ長の目を見開いている。が、これで彼の中のスイッチが入ってしまったのかベッドに投げ出されていた右手を持ち上げ、マリアの後頭部に回す。そしてグッと力を込めて押し付けられ唇が強く重なり、イザークの舌先がマリアの唇の隙間から割入れられた。突然の感触に身体が強張るものの、生き物のように動く舌がマリアの身体から力を奪っていく。くたり、とイザークの上に倒れ込んでしまうとマリアの視界が反転する。気が付いたらイザークの方が上になっていた。
完全に形勢が逆転していた。マリアの着ているワンピースは1人で脱ぎ着出来るものだが、イザークは女物の服に慣れていないのか脱がすのに手間取っている。あまりに焦ったマリアは自分でワンピースを脱ぎ捨ててしまった。イザークはそれが不服だったのか、下着はやや乱暴に剥ぎ取られた。きっちり服を着ているイザークと何も着ていないマリア。どう見ても不公平であるとマリアは目が据わった状態でイザークのシャツに手を入れてたくし上げた。男の服を脱がしたことのないマリアはイザークと同じく手間取ってしまい、全く色気のないやり取りの末イザークが自ら服を脱ぎ捨てた。
露わになったのは均整の取れた鍛え上げられた肉体。無駄のない筋肉が肩、鎖骨、上腕二頭筋に浮き上がり胸板は引き締まってる。腹筋は見事に割れておりまるで美術館に飾られた彫刻のように美しい。そして肉体には古い傷が数多く刻まれていた。エリート騎士と名高いイザークにも当たり前だが見習いだった時期がある。この傷の数は彼が騎士団長の座に就くまでの勲章なのだろう。イザークは傷を見られたくないのか
「…見ていて気持ちの良いものではない」
と短く告げ次に進もうとしたがマリアが丁度腹筋に刻まれた古傷に触れ、指でなぞるとピクリと身体を強張らせた。マリアが顔を近づけ、胸板の古傷に軽く口付けると…何かが切れた音が聞こえた気がした。そこから先はイザークの独壇場だった。
「…閨教育は座学だけで実践経験はないが…出来る限り負担をかけないように…努力する」
イザークは正直だ。見栄を張っても良いのにその選択を取らない。そんな気はしていたが彼も未経験なようだ。初心者同士の場合悲惨なことになると聞くが、不思議と不安感はなかった。マリアの予感は半分当たっていた。イザークは座学の知識を必死で思い出しながらマリアの体を慣らしていくのだが、とにかく時間をかける。愛撫は首から順に施していき、指だけでは心許ないと舌も駆使していく。イザークの指がマリアの秘められた場所を探っていると、何を思ったのかマリアの脚を大きく開きそこに顔を埋めた。
「え!!何を…」
「…指だけでは中を傷つける危険がある。舌でも慣らす」
「け、結構で…あっっ!」
拒否の言葉を言い終わる前に秘裂にぬるりとした感触がして、視線を下げるとイザークがそこに舌を這わせていた。指とは違う感触と視覚からもたらされる衝撃でマリアの身体に電流が走り、腰が跳ねる。恥ずかしさと気持ち良さで訳が分からなくなりそうな恐怖からマリアは身を捩って逃げを打とうとした。しかし、イザークの腕に太腿をがっしりと押さえ込まれているため、びくともしない。騎士団長に力で勝てる訳がないので無駄な抵抗だ。その上、イザークの口元には心なしか笑みが浮かんでいるように見えた。イザークの舌は生き物のようにマリアの中を動き回り、奥から溢れる蜜を掻き出し啜る。聞くに耐えない卑猥な音とマリアのあられもない声が宿の部屋に響く。髪を振り乱すマリアに興奮を煽られているのか、イザークは執拗に秘部を舐めている。マリアが舌足らずな声で止めて欲しい、と訴えても止める気配はない。ぷっくりと膨れた陰核をイザークが口に含み、飴玉のように転がしたと思ったらカリッと甘噛みされた瞬間マリアの視界は白く弾け全身が激しく波打った。
皺の刻まれたシーツの上に力の入らないマリアの身体が沈む。イザークはそんなマリアを見下ろしながら、濡れた指を舐めている。イザークの仕草からは壮絶な色気を感じ、マリアは目をぎらつかせる彼を一瞬別人だと思ってしまった。普段の様子との乖離が凄まじい。ぼんやりとした頭でマリアはこんなことにならなければ知る由のなかったイザークの知られざる一面を垣間見て、なんとも言えない気持ちになった。イザークはまた身体を伏せ、マリアの脚の間に顔を埋めた。今度は尖らせた舌先で陰核を突きながら、指で中を擦り上げる。良いところに無骨な指が触れる度にマリアの腰が跳ね、必死で引き結ぶ唇からは声を抑えられない。イザークはほぼ無言だが、マリアの反応を見つつ進めている節があった。
「あっ、やっ…あああっ!!」
その上で涙と涎で顔が酷いことになっているマリアに対して、全く手加減してくれない。グチュ、グチュンと股から聞こえる水音が更に大きくなり、また陰核に吸い付かれマリアは身体を遠くに投げ出されるような感覚に陥った。はあはあ、と息を整えているとマリアは涙目でイザークを睨み付けた。
「…サディスト……」
「サ…人聞きが悪い、俺に加虐嗜好はない」
不服だと言わんばかりにマリアの文句に冷静に返すイザークはカチャ、カチャとベルトを外しトラウザーズの前を寛げる。勢い良く飛び出しペチン、とへそに当たったものは一言で表すなら「グロテスク」だった。ボコボコと血管が浮き出て赤黒く膨張した男の象徴はマリアの腕と同じくらい太い。天井を向き先端から先走りを垂らす陰茎は、むせ返るほどの雄の匂いを発しており蕩けていたマリアの秘所からトロリ、と蜜が滴った。イザークはハー、と大きく息を吐きながら己のものを自分の手で扱く。更に大きくなったように見えた。固まっているマリアを怖がっていると解釈したのか、労わるように声をかけてくる。
「…俺のは人より少し大きいらしい…痛かったらすぐに言ってくれ…止められるかどうかは別だが」
最後に不穏な一言が聞こえていた気がするが、聞かなかったことにした。
「…一般的な大きさじゃないんですね」
マリアは比較対象を知らないので、てっきり世の男性のもののサイズがこれくらいなのかと慄いた。こんな規格外のものが普段はズボンの中に収められているのか、と人体の不思議を実感した。
「…他に知っていたら問い詰めているところだ」
「え?」
「…挿れるぞ」
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