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6話
しおりを挟む花村は怪訝な顔をしている。葉月と元彼は婚約していた訳ではないので慰謝料の請求は出来ない。あっちの方から払うのなら別だが、自主的に払う人間とは思えなかったのだろう。なのに何故葉月は金銭を得ることが出来たのか、と顔に疑問が書いてある。
「迷惑料、みたいなものです。私の友人と浮気して妊娠させたなんて周囲に知られたくないんですよ、元彼の親結構厳しい人なので。それに友人達からも白い目で見られたくない、だから私と別れた後に友人と付き合った、ということにして欲しいって頼み込まれたんです。その偽装工作に付き合う代わりにお金をもらいました」
葉月と元彼の交際期間自体は長いが家族や友人に「今も付き合ってる」と一々報告していたわけでは無いので、誤魔化そうと思えば出来なくもない。ただの茶番だけど。
「そんなくだらない頼み、聞いてあげたんですか。そもそも人に物を頼める立場じゃないですよね、図々しい」
花村が眉間に皺を寄せて吐き捨てる。葉月は当時のことを思い出し遠い目をした。
「何というかもう、彼らと関わりたくなかったんですよね。ずっと私に謝り続けて、友人の方はボロボロ泣いて。私が1番泣きたいのに、泣かせてくれなかったんですよ?あのまま私が彼らを責め続けたら、私の方が悪役みたいに見られそうで嫌だったんです。だから要求を呑んでもらうものもらって終わりにしたかったんです…でも」
葉月がグラスを強く握り締めて、突然俯いた。
「…2人は私が自分達のことを許したと都合良く解釈しました。すると平謝りしていたのが嘘のように、私への不満を口にし出したんです。真面目すぎて面白みがなかったとか、仕事を優先して元彼を蔑ろにしていたから慰めてやったんだ、私がもっと魅力的なら彼だってこんなことしなかった、とかまるで私のせいで自分達が浮気をしたような言い草でした」
「…最低通り越してクズじゃないですか」
地の底から響くような低い声には怒りが篭っていた。表情は見えないが、元彼達の所業にかなり怒っているようだ。あの時感じた悲しみ、屈辱、怒りは忘れようと思っても中々忘れられない。
「2人が私のことをそんな風に思ってたことにも気づかなかった。仲良いふりして内心ずっと私に不満があって、下に見ていたなんて…確かに元彼との付き合いは長かったので、付き合い始めの頃と同じ熱量はなかったです。それでもちゃんと彼のこと好きでしたし、仕事を優先して予定が駄目になったら埋め合わせをしてました。私が出来る最大限のことをしたつもりだったんですけど…独りよがりだったんですね。だから友人の方に…彼らの言うことにも一理あるんですよ。元彼は社交的で友人が多いタイプですけど、私は真逆で大人数で騒ぐのが苦手で。友人は似たようなタイプなので私より相性が良かったんでしょうね。友人は美人で華やかで話し上手、私は地味で会話を盛り上げるのも下手、面白みがないと言われて納得している自分が居て…こんな形で裏切られてもしょうがない、魅力のない人間なのかなって」
目頭が熱くなってきた。アルコールのせいか涙腺が緩くなっているらしい。話し合いの時ですら泣かなかったのに。いや、あの時はこいつらの前で泣いてなるものか、となけなしのプライドを守るために虚勢を張っていただけだ。本当は泣き叫びたかったが、必死で我慢して乗り切ったのだ。
ただでさえつまらない身の上話に付き合わせている花村に、これ以上の醜態は晒したくない。それでも、溢れてくるものは止められない。ポタ、ポタとテーブルに涙の滴が落ちる。そんな葉月の耳に花村の心地良い低音の声が届く。
「…高原さんは『しょうがない人間』ではありません。少ししかお話ししていませんが、あなたはおばあさまから貰ったキーホルダーを大切にしていて、辛いことがあっても笑おうとする強い人だ。俺は、あなたのこと魅力的な人だと思います。良いですか?そいつらは自分達が加害者になりたくないから、罪悪感を少しでも無くしたいからあなたを責めて、自分達の行為を正当化しようとしてるだけです。100人中100人がそいつらの主張がおかしいと言いますよ、絶対。虫が何か囀ってる、と聞き流すのが1番です。聞く必要ないし、何なら寝取り女と浮気男が調子に乗るんじゃねぇと怒鳴ってやれば良かったんですよ」
真剣な声音で葉月を慰め、そして元彼達を辛辣に扱き下ろす。お世辞だと分かっていても、傷付いた心が暖かくなっていく。葉月は俯いていた顔をゆっくり上げる。涙の跡を見つけた花村はハッとするとポケットの中を探り「これ良ければ使ってください。使ってないやつなので」とハンカチを差し出してくれた。
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