期間限定の関係のはずでは?〜傷心旅行に来たら美形店長に溺愛されてます〜

水無月瑠璃

文字の大きさ
7 / 23

7話

しおりを挟む


「ありがとう、ございます」

「泣きたい時は泣いてください。正直、無理して笑ってるな、って心配していたので」

花村には葉月の強がりがバレていたらしい。裏切られたことは誰にも言ってない。迷惑料をもらったからではない。話を知った友達は葉月の肩を持ってくれるだろうが、惨めな形で裏切られたことを知られたくなかった。味方のフリをして、内心「捨てられても仕方ない」と裏切った友人のように嘲笑してるのではないか、と疑いの目で見てしまうからだ。恐らく長年の幼馴染と友人に裏切られたことで軽い人間不信に陥っていたのだろう。

誰にも愚痴を溢すことが出来ず、心の中に色々溜まっていたが花村に聞いてもらったことで軽くなった。葉月はカウンターの端の目立たない席であること、花村が上手く周囲の視線からガードしてくれたことも相まって割と思い切り泣いた。完全に迷惑な客だがオーナーが花村の友人だから見逃してもらってるのだろう。後で謝罪しよう、と記憶の片隅で思った。

葉月は目元からハンカチを離し、あることを思い出した。シャワーを浴びてもう外に出ないからと、必要最低限のメイクしかしていないことを。しかし、これが幸いした。もしいつものようにメイクをしていたら、今の葉月の顔は酷い有様になっていただろう。葉月は濡れたハンカチを手に苦笑いを浮かべる。

「ごめんなさい、ハンカチ洗って返し…」

言葉を途中で切った。葉月の滞在してるホテルには洗濯機がない。長期滞在する旅行客はフロントに電話をしてクリーニングに出すのである。ハンカチ等の小物は自室で洗うことも可能だろうが、自分のものではなく借り物をそんな風に洗えない。

「…泊まってるホテル洗濯機ないので、クリーニングに出しますね」

「そんな手間のかかること、安物なので差し上げますよ」

なんて事を言い出したので葉月は固辞したが、花村も引き下がらない。このまま押し問答を続けるのもどうかと思ったので、一旦受け入れた、ふりをした。

(明日出せば明後日には帰ってくるよね。ハンカチ一枚じゃ逆に迷惑だろうから、自分のものも出した方が良いかな…)

その場合返すという名目で花村に会うことが出来る、と葉月の気分は少し高揚している。泣いてスッキリしたこともあって、鬱々とした気持ちは何処かに飛んでいった。晴れ晴れとした表情で花村を見る。

「店長さん、長々と話に付き合わせてしまったのでお詫びに奢ります。私今軍資金たくさんあるんで」

誇らしげに胸を張る葉月に花村は迷う素振りを見せるが、断るのも悪いとこちらを慮ってくれたようでゆっくりと頷いた。

「ではお言葉に甘えて…あ、高原さんはノンアルにしてくださいね」

「えー」

「そんな顔しても駄目です。二日酔いになったら明日寝て過ごすことになりますよ」

花村の指摘に葉月はグッと押し黙った。観光も出来ずホテルにずっと篭ってるなんて、1週間もあるとはいえ勿体ない。彼は正論しか言わないので反論出来ないのだ。

葉月は花村の言い分を受け入れてノンアルを頼む。花村の方はオーナーがいつの間にか置いたであろうグラスが半分まで減っていた。メニューを見たら、それはかなり度数の高い酒だった。彼も葉月と同じかそれ以上に酒に強いらしい。グビグビと飲む彼を見つめた。彼は顔色一つ変わらない。今飲んでいるやつを飲み終わるとオーナーを呼び、常連らしい慣れた動作で酒を注文した。

奢りと言われてもやはり花村は遠慮しているようで、あまり飲んでないように見える。とはいえ頼むものが悉く度数の高いものなので、4杯も飲めば普通の人ならとっくに酔っ払っているはずだが彼は平然としていて、葉月に当たり障りのない話題を振ってくれる。旅行客だと言った葉月にこの辺で有名な観光スポットやあまり人の来ない穴場スポット、美味しい店を教えてくれた。

「店長さん、お詳しいんですね」

「地元はここから離れてますが両親がこっちに移ってから長いので、そこそこ詳しいんですよ」

聞けば花村の両親は5年前に早期退職して、こっちに引っ越して念願だった喫茶店を開いたらしい。地元はここから離れた同県の中心部でそれまで住んでいた家は売り払い移り住んだこと、今回はお盆休みに合わせて有給も取ったので数週間はこっちにいる予定だということ、県内の大学出身でオーナーも同じ大学出身だということ、そして年齢は葉月の5つ上の30であること等、かなりプライバシーに関わる情報も葉月に聞かせてくれた。葉月の年齢を知ると「お若いですね」と社交辞令を言うのも当然忘れない。葉月も釣られて東京からの旅行客だと自らの素性を明かした。

(ほぼ初対面人間に色々話して良いのかなー、まあ旅行終わったら会わないから、店長さんも口が軽くなるのかな)

葉月はノンアルを飲みながら、呑気なことを考えていた。フワフワと花村との気の張らない会話を何処か夢見心地で楽しんでいる。フニャフニャと警戒心を欠片も感じさせない笑顔で相槌を打ち、こちらからも話を振る。酒のおかげか、彼の纏う雰囲気のおかげかほぼ初対面の男性なのに葉月は緊張しなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

『階段対策会議(※恋愛)――年上騎士団長の健康管理が過剰です』

星乃和花
恋愛
【完結済:全9話】 経理兼給仕のクラリスは、騎士団で働くただの事務員――のはずだった。 なのに、年上で情緒に欠ける騎士団長グラントにある日突然こう言われる。 「君は転倒する可能性がある。――健康管理対象にする」 階段対策会議、動線の変更、手をつなぐのは転倒防止、ストール支給は防寒対策。 全部合理的、全部正しい。……正しいはずなのに! 「頬が赤い。必要だ」 「君を、大事にしたい」 真顔で“強い言葉”を投下してくる団長に、乙女心を隠すクラリスの心拍数は業務超過。 さらに副団長ローレンは胃薬片手に「恋は会議にするな!!」と絶叫中!? これは健康管理?それとも恋愛? ――答え合わせの前に、まず“階段(概念)“をご確認ください。

男嫌いな王女と、帰ってきた筆頭魔術師様の『執着的指導』 ~魔道具は大人の玩具じゃありません~

花虎
恋愛
魔術大国カリューノスの現国王の末っ子である第一王女エレノアは、その見た目から妖精姫と呼ばれ、可愛がられていた。  だが、10歳の頃男の家庭教師に誘拐されかけたことをきっかけに大人の男嫌いとなってしまう。そんなエレノアの遊び相手として送り込まれた美少女がいた。……けれどその正体は、兄王子の親友だった。  エレノアは彼を気に入り、嫌がるのもかまわずいたずらまがいにちょっかいをかけていた。けれど、いつの間にか彼はエレノアの前から去り、エレノアも誘拐の恐ろしい記憶を封印すると共に少年を忘れていく。  そんなエレノアの前に、可愛がっていた男の子が八年越しに大人になって再び現れた。 「やっと、あなたに復讐できる」 歪んだ復讐心と執着で魔道具を使ってエレノアに快楽責めを仕掛けてくる美形の宮廷魔術師リアン。  彼の真意は一体どこにあるのか……わからないままエレノアは彼に惹かれていく。 過去の出来事で男嫌いとなり引きこもりになってしまった王女(18)×王女に執着するヤンデレ天才宮廷魔術師(21)のラブコメです。 ※ムーンライトノベルにも掲載しております。

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

処理中です...