期間限定の関係のはずでは?〜傷心旅行に来たら美形店長に溺愛されてます〜

水無月瑠璃

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8話

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そして花村と話してからは安心しきり、溜まっていたものを吐き出したおかげで張り詰めていた糸が切れてしまったのか…葉月は一気に酔いが回ってヘロヘロになっていた。うつらうつらし始めた葉月に花村がいち早く気づき会計を、とオーナーに告げた。

「彼女の分も纏めて」

「え…私払います!」

「良いから、俺に払わせて」

いや、そもそも葉月が奢る話だったのでは…と口にしようとしたが有無を言わさぬ花村の声音と突然の砕けた口調に葉月は何も言えなくなった。そしてオーナーに「タクシーを呼んでくれ」と頼み出したので慌てて止めた。

「歩いて帰れます!」

「でも」

「ホテル、ここから近いので、酔い覚ましもしたいから歩いて帰ります。あ、お金払います!私の奢りでしたから!」

それでもやはり断ろうとする花村に半ば無理矢理払わせてしまった代金を渡すと「では、本当にありがとうございました。失礼します」と帰ろうとした。が、葉月の手首を花村が掴んだ。反射的に振り返り、繋がれた手首に視線を落とす。

「あの」

「ホテルまで送ります。心配なので」

「えええ、いや大丈夫です」

「夜遅いですし、こんな時間に若い女性が1人で歩いたら危ないですよ。それに…」

一度言葉を切ると、彼は意味深な眼差しで葉月を見つめた。

「今の高原さんを見たら、道行く男は皆フラフラと吸い寄せられてしまいそうで心配なんです」

「…私、声かけたらホイホイ付いていきそうなちょろい女に見えます?」

「違うそうじゃない…兎に角送って行くのでホテルの名前教えてください」

力強く否定すると、呆れたような視線を一瞬向けられた気がするがズイズイ歩き出す花村に、葉月には最早断るという選択肢は存在しなかった。葉月がホテルの名を口にすると「ああ、あのホテルですか。俺レストランには行ったことあります。料理どれも美味いですよね」とその時のことを思い出しながら教えてくれる。酔いを覚ますためか、花村は葉月に話しかけてきた。葉月の受け答えが怪しくならないか、を注意深く観察してくれているのだろう。申し訳ないと恐縮する自分とまだ花村といられて喜ぶ自分が葛藤している。

(少しでも、この時間が続けば良いのに)

繋がれていた手首はいつの間にか離れていた。途中水を買った方が良いと勧められコンビニに寄ったが、花村の方も何か買っていたようだ。お菓子かな?と葉月は適当に当たりを付けていた。




話していると約10分かかる道のりはあっという間だ。数時間前に出て来たホテルに辿り着いてしまった。花村はドアを通り、エントランスまで付いて来てくれる。彼は葉月を近くの空いているソファーに座らせると、見下ろしながらこう言った。

「高原さん、具合が悪いとか無いですか」

「大丈夫です、送ってくださってありがとうございます」

まだフワフワしているものの、意識はしっかりしている葉月の受け答えはちゃんとしているがニコニコと微笑む姿は男には隙だらけと見られかね無いものだった。当の葉月に自覚はなく、気づいているのは…

花村はそんな葉月を不安そうな顔で見下ろしているが、ここまで来たらもう安心したのかふっと笑みを浮かべた。

「早くお部屋に戻りたいでしょうし、俺は失礼しますね。ハンカチのことは本当に気にしなくて良いですから」

葉月は彼から渡されたハンカチの入った鞄をチラリと一瞥した。花村と葉月を繋ぐ唯一のもの。ここまで言われると返すのも逆に失礼に当たるかもしれない。彼との繋がりは、今この時を持って断たれる。その事実に葉月は内心落胆した。

(しょうがないよね、この数時間が夢みたいだったんだから)

「…図々しいお願いですが、ご旅行中また店に来て貰えたら嬉しいです」

しかし、思いもよらぬ花村の言葉に萎れていた葉月の心は一瞬で復活した。ここでも葉月は「社交辞令社交辞令」と自らに言い聞かせている。

「それでは」

その隙に花村は軽い会釈をして、踵を返し葉月に背を向けて立ち去ろうとする。

(…行っちゃう)

葉月は咄嗟に立ち上がり、ほぼ無意識のうちに彼の手首を掴んでいた。さっきとは逆の状況だ。花村は葉月に引き留められ、勢い良く振り向く。彼は驚愕を露わに葉月を見据えている。

「高原さん?」

「あの…私さっきも言いましたけど1人旅で、部屋に戻っても1人で…寂しいんですよね」

上目遣いでそう囁く葉月に花村から穏やかな笑みが消えた。葉月の意図を汲み取ってくれたのだろう。言った瞬間、好意的に受け取っていないであろう花村の反応に早くも後悔し始める。が、口から出た言葉は取り消せない。

「…それは、誘われていると受け取って良いんですか」

「は、はい…」

言い聞かせるように確認してくる花村に緊張で声が裏返りながらも肯定した。今更ながら、真面目で潔癖そうな花村に誘いをかけるなど、悪手だとしか言いようがない。花村が優しくしてくれたから、もしかしたら…という身勝手にも期待してしまったのだ。結果はどうだ、大失敗だ。花村の目がすっと細くなり、狼狽える葉月を探るように見つめてくる。

「…元彼を見返したいからですか」

彼の問いかけに咄嗟に「違う」と否定出来なかった。全くその気持ちが無い訳ではないが、葉月とて打算だけでなけなしの勇気を振り絞っていない。

「…その気持ちがないとは言い切れませんが…店長さんのこと良いなって思ったからです。愚痴を聞いてくれて、慰めてくれた優しい方だから…お誘いしました。嫌なこと全部忘れたいんです」

誤魔化すことも出来たのに、葉月は本心を吐露した。花村に嘘は吐きたくないと思ったからだ。しかし、かといって面倒だと受け取られかねない…葉月が男性として花村を好ましく思っていると悟られないよう言葉を選ぶ。今夜だけだ、傷ついてズタズタになった心を花村に慰めて欲しかった。そんな強烈な欲望が膨れ上がり、気づいたら彼を引き止めていたのだ。

「…分かりました」

「え?」

何となく断られると思っていたので、花村の返答を聞いた葉月はポカンとする。そんな葉月の反応がおかしいのかクスリと笑う。

「誘って来たのはあなたの方なのに何故驚くんです?」

「いえ、断られるとばかり」

「高原さんから誘われて断る理由なんてありませんよ」

またも意味ありげな視線を投げかける花村は葉月の隣に腰掛ける。隣、といっても肩が触れ合いそうな距離だ。というか、近いと葉月は咄嗟に距離を取ろうとするがそうはさせない、と花村がグイと顔を耳元に近づけて来た。

「俺を利用してください…嫌なこと全部忘れさせてあげます」

色気たっぷりな囁きに葉月は「ひえ」と対照的に色気の欠片もない鳴き声を発してしまった。目まぐるしい展開に付いていくのがやっとな葉月は、自分の泊まっている部屋に花村を案内するので精一杯だった。

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