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21話
しおりを挟むその後花村はコンプライアンス部に証拠やついでに相談役に罵倒された時の録音データを提出した。コンプライアンス部の方も花村に悪意のある噂が流れていることや令嬢との問題は当然把握していた。普段の花村の真面目な勤務態度や令嬢の不真面目な勤務態度に苦情、そして花村を擁護する社員の多さから令嬢の証言に疑問を抱き、水面下で調査を進めていたらしいが問題が問題だったので膠着状態が続いていた。お腹の子の父親ではないと証明するには令嬢と会ってないという、アリバイを主張するくらいしかない。令嬢側も件のDNA検査をされるわけにはいかないから、なりふり構わず花村を追い詰めただろう。それが花村の集めた証拠のおかげで一気に道が開けた。同期と令嬢は虚偽の証言をし悪意を持って花村を貶め、名誉を傷つけたとして処分の対象になり暫くの自宅待機を命じられた。
一方相談役は騙された被害者の側面もあるが花村への暴言、そしてこれに示し合わせていたかのように次々と部下へパワハラセクハラ疑惑で訴えられたことで彼も自宅待機になった。芋蔓式である。
花村は会社の顧問弁護士と相談し、同期達の企みが私怨に満ちた身勝手かつ、極めて悪質なものであると、名誉毀損で訴える事も可能だと言われたようだが、もう関わり合いになりたくないと訴えないことにした。花村の意見を考慮した結果、同期は子会社への異動が決まった。だというのに彼は全く後悔していないと言い切り、花村の経歴に傷をつけてやったと歪に笑っていたという。異常としか言いようがない。
この件花村に何の責任もないが、渦中の人になってしまったのは事実。そもそもそんなに恨まれる方に問題があるだとか、くだらない戯言を宣い後々このことを持ち出して花村をあげつらう人間は出てくるだろう。同期が浅慮な企みを実行したのは、これを狙っていたのだ。
しかし花村のことだから、そんな雑音は跳ね返すと思う。同期は延々と自分の暗い未来を嘆き続ければ良い。
動機が動機のため、花村との接触を避けた上で引き継ぎ作業を終わらせ彼は異例の速さで去って行った。当然何をしたかは子会社でも把握されているため、2度と出世コースに乗ることは出来ない。野心家だった同期にとっては1番屈辱的な処分であろう。同業他社に転職しようにも、離職理由を誤魔化すことは出来ない。私怨で同僚を陥れようとした人間性に問題のある者を、雇いたがる会社があるかどうか。飼い殺しの状態で会社に居続けるしかないのである。
令嬢の方は自分は騙された被害者であるという主張を変えず、花村に対する謝罪もないどころか「この私が声をかけてあげたのに、恥をかかせたあなたが悪いのよ!」と慈悲で設けられた花村への謝罪の場で散々喚き散らしたという。新入社員であることや、同期に言葉巧みに騙された部分もあると考慮され令嬢は譴責処分とされていたが、令嬢の言動に関する報告を受けた役員達が改めて審議した結果「反省の色なし」と判断され、譴責処分より重い出勤停止処分となった。
元々花村にアプローチしている時から、そして花村が父親であると周囲に言いふらしていた時も「あれだけ相手にされてなかったのに妊娠?嘘でしょ」「花村さんがあんなのに引っかかるわけない、仕方なく付き合ってあげていたの分からないのかな」「パパの力借りないと男に相手にされないとか、可哀想」等と陰では色々と言われていたらしい。「恥をかかせた」はこのことだろう。自宅待機期間が明けてからは「他の男とも関係を持った挙句、相手にされなかった腹いせに花村を陥れようとした最低尻軽女」と社内の人間から白い目で見られるようになった。プライドが許さなかったのか居た堪れなくなったのか、出勤停止処分を命じられたその日に退職届を出して、会社を辞めてしまった。
相談役は花村とは関係ない今までのパワハラセクハラ問題で、相談役を解任され他部署への異動が決まっていたが娘の起こした問題で肩身が狭くなったのか、こちらもすぐに退職してしまった。
葉月は令嬢達の末路よりお腹の子のことが気になっていたので、尋ねてみた。花村曰く令嬢も同期も互いを利用し合う関係で恋愛感情は一切無く、結婚したところですぐに破綻するのが目に見えている。それ以前に2人とも親として相応しくない。2人は結婚せず子供が産まれた後は令嬢の母親が責任を持って育てる、ということになったらしい。
この令嬢の母、つまり相談役の妻にあたる女性はとてもまともな人で、花村が娘のせいで多大な迷惑を被ったと知るとわざわざ謝罪に来たという。
「あの人がいて、どうしてあんな非常識で倫理観の欠如した娘が育つのか、不思議でならなかった」
「娘に甘い父親を止められなかったんじゃないですか?」
「あー、相談役昭和気質なところあったから、奥さんの意見ガン無視してたんだろうな」
立場が弱かったであろう相談役の妻を哀れみの篭った口調で語る。その際慰謝料…口止め料も含まれているだろうが結構な額を貰ったようだ。
「土下座までされてさ…あれだけ謝られると貰った金逆に使い辛いから全部手付かずのまま保管してる。で、あっという間に関係者が居なくなって会社は過ごしやすくなったんだけど、今度は事実無根の噂を流したり俺を好き勝手言ってた奴らが謝りたいって、付き纏い出したんだ。本当、心底鬱陶しかったわ」
花村は不愉快だと言わんばかりに吐き捨てた。一難去ってまた一難とはこのことだろう。心労が溜まっていたであろう花村に同情せざるを得ない。
「謝りたいって自己保身のためですよね、絶対」
令嬢の虚偽の主張に便乗して花村を誹謗中傷していた社員達。その当時から良く思われてなかったはずだが、全てが明らかになった後彼等への風当たりはより強くなったに違いない。掌を返して花村に縋ろうとする、姑息な彼等への不快感で葉月の眉間の皺が深くなる。
「そう、俺に許されたって免罪符が欲しいだけでプライドが高いのか、謝りたくないってのが態度に出てた。流石に腹が立ったからさ、『許すも何も怒ってないしどうでも良いから、謝らなくて良い』って言ったら顔真っ青になって。あれは傑作だったわ」
「それで良いですよ。上辺だけ謝られても不快なだけですし」
その人達は自分が罪悪感から解放されたいだけだ。理不尽に中傷された当時の花村がどんな気持ちだったか、少し想像すれば分かるはずだ。分かっていたら、心の底から後悔して謝りたいと思う。そうしないということは、結局彼等は後悔してない。ただ自分達に向けられる周囲の視線の厳しさに耐えられず、自分達のために花村に許されたいのである。自分勝手な人々の願いを花村が聞く必要はない。それにどうでも良いとは無関心であるということ。嫌いと言われるよりきついものがある。花村はさらりと復讐をしていた。
「だな、で。上司から有給溜まってるし、丁度良い機会だからゆっくり休めと勧められたから、気分転換も兼ねてさっさと実家に避難しに来た訳だ」
花村は葉月と同意見なようで、頷くとイェーイと控えめにピースを作った。葉月は真剣に話に聞き入るうちに氷が溶けて、薄まってしまったアイスティーを飲む。
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