君がいないと、息が出来ない

遥彼方

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ミッション遂行します

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 部活も終わった帰り道。家までのこの道を今日も君と歩く。

 男女の違いこそあれ、同じテニス部だから当然終わる時間も同じ。
 それでも部室を出る時間は同じとは限らない。いつも君の方が早いんだけれど、少し先をわざとゆっくり歩いて待っていてくれる。

 なんでもおばさんに「女の子を一人で帰すんじゃありません」って言われてるらしい。お母さんも「徹くんが付いててくれたら安心」なんて言うんだもの。

 小学校の頃は、登下校が必ず一人にならないようにするルールがあったため、家が同じ方向の私と君はいつも一緒に帰らされた。その延長でもある。

「徹ってさ、田中くんと仲いいよね」

 私はよいしょとかばんを背負い直しながら、さりげない風を装って切り出した。毎日の事なんだけど、背中にずっしりとくるかばんの重みに嫌になる。
 中学校の教科書って重たすぎだよ。

「んあ? まあな」

 少しだけ先を歩く君は、前を向いたまま気のない相槌を返した。最近の君は特にこんな感じ。
 「ああ」とか、「おお」とか、「まあな」とかで終わることが多い。
 全く、男の子って。

「急にどうした」

 私より背の高い君から疑問が降ってくる。

 あれ? 不思議に思ったのかな。
 珍しく君から質問がきたぞ。

「いやさ、田中くんって陸上部でしょ。陸上部の鈴木先輩って彼女とか好きなとか人いるのか、聞けないかなって」

 私は君の背中に向かって自然を装いさらりと言う。

 歩く速度を緩めて、君が顔だけ振り返らせた。

「なんでそんなこと聞く?」

 ちょっと眉を寄せた君が低い声を出す。

 なんでそんな顔?
 そっか、不信に思われてるんだ。そりゃそうだよね。

 以前より少し面長になった君の顔。日に焼けた肌。最近顔立ちが変わってきたから、そういう顔をされるとちょっとドキッとする。
 私は落ち着けと、跳ねた自分の心臓を撫でつけた。

「知り合いにね、鈴木先輩の事を好きな子がいるの。だから彼女と好きな人がいるのかくらい知りたいのよ」

 彩菜のことは伏せて、事実そのままを正直に話す。

「ふーん」

 君が切れ長の目を細めて、じろじろと私を見た。

「知り合いじゃなくて、お前の事なんじゃねえの?」
「ばっか、違うわよ。私、鈴木先輩と接点ないし」

 私は笑ってひらひらと手を振った。
 疑り深いなあ、もう。

「知らない人を好きにならないよ。一目ぼれって感覚も分かんないし」

 出会った瞬間にビビビッとかあるのかもしれないけど、私はよく分からない。
 もしかするとそういう人とまだ会ってないだけで、私にもそういうのがあるのかな。想像できないや。

「お前の事じゃないのか。なんだよ、つまんねぇの」

 残念そうなセリフとは裏腹に、君はにいっと歯を見せた。

 その様子に私は首を傾げる。
 変なの。なんでちょっと嬉しそうかなぁ。

「しゃあねぇな。春樹に聞いといてやるよ」
「やった! ありがとう。恩に着るぅ」
「おう。んじゃジュース奢れ」
「えええ」

 思わぬ出費の可能性に私は不満を声と体で表した。足を止め、まずいものでも食べたみたいに舌を出す。

「ぷっ、くくく。なんだその不細工な顔」
「うるさい」

 私はぶすっと頬を膨らませた。失礼な奴だな、君は。

 むくれる私の顔がつぼに入ったのか、君はぶははとひとしきり笑う。それから止まっている私のところまで来て、膨らませたままだった頬を掴んできた。

「うそ、うそ。聞くくらい大したことないからジュースはいい。だからその顔やめれ」
「にゃったら、この手をはにゃしなさいよにぇ」

 掴まれたままだと上手く話せない。
 ってか、痛いな。むうう、可愛い顔が変顔になったらどうしてくれる。

 私は人差し指を親指で弾き、怒りを込めて頬をつまむ君の手をビシビシやった。

「あだだ、暴力女め」

 地味に痛かったのか、慌てて手を放す君。
 どうだ、恐れ入ったか。

 ふふんと鼻から息を抜いて、私は頬を擦る。そんな私を頬に目をやった君は少し焦った顔になった。

「あ、悪ぃ。赤くなった」
「えっ? もう、馬鹿力なんだから」
「そんなに力を入れたつもりなかったんだけどな。ごめん」

 申し訳なさそうに君の瞳が揺れる。君らしくなくて、私はくすくすと笑った。

「部活してるし、図体も無駄にでかくなってるし、力ついたんじゃないのー?」
「そうかもな。気を付ける」

 明るくからかい口調で言ったのに、目を伏せた君が珍しくしゅんとしているものだから困る。

 そんな風にしないでよ。

 私だって、君の手が記憶より大きくて骨ばっていて、思ったより力も強くて。ちょっと戸惑ったんだからね。

「悪いと思ってるなら、ジュースでも奢ってもらおっかな」

 誤魔化すように私は、立ち尽くす君の横をすり抜けて駆けだした。

「なっ、調子に乗んなよな」
「じゃ、先に徹ん家に着いたほうが奢ってもらうってことで!」

 君からの距離が結構空いた私は笑顔で叫んだ。
 よおし、ジュースはもらった!

「おまっ、ずりぃだろ」

 遅れて君も駆け出すけど、もう五メートルくらい差がついている。
 ふっふっふ。この距離なら追い越せまい。

「男なんだから、このくらいのハンデ、当然でしょ……って、うそっ」

 私は勝利を確信して後ろを振り向いたのに、息を飲んだ。
 だって、後から走り出した君が予想よりも速いんだもん。あんなのずるいっ。

 私はハンデのことなんて忘れて、君に勝とうと全力で手足を動かした。
 負けるもんかっ。
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