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恋って大変だね
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グラウンドを陸上部の部員が歩いている。半分くらい歩いてからダッと駆けだした。
全力なんだろう。顔が真剣だ。
また半分のところにきたら歩き出した。
半分歩いて、半分を全力で走る。それを繰り返している。
そんな陸上部の練習中、彩菜が横目でちらちらと眺めている。
球拾い中にちらり、順番待ちの時もちらり。時々、吸い込まれたみたいに視線が釘付けになって、はっと戻る。
鈴木先輩の顔がこっちを向いただけで慌てて視線を逸らしたり。直ぐにまた熱い視線を送って、はっと練習に戻る。
なんだか忙しいし、大丈夫かな。分かりやす過ぎるよ、あれ。
恋って、大変だなあ。
そんな彩菜を見て私はこっそりと思った。
「ああ、先輩。やっぱりかっこいい」
翌日の昼休み。彩菜はほう、と溜め息を吐いた。
給食を食べ終えた私たちは、いつもの如く私の席でだべっている。
「ええと、そうだね」
私は特にかっこいいとは思えないけど、そうだねと肯定した。
まさか、「どこが?」なんて言えないよね。
「えっ? もしかして皆もそう思うの? じゃあ、ライバルがいっぱい? どうしよう!」
私の何気ないよいしょに、彩菜は慌てた。がばっと体を前へ倒してくる。
「いや、それは大丈夫……だとは思うけど」
予想以上の彩菜の反応に、戸惑った私はちょっと体を引いた。
そこでそういう思考回路になっちゃうのか。
恋は盲目っていうけれど、本当なんだなぁ。ちょっと厄介。
なんてことを思う。
「大丈夫だよ、落ち着いて、彩菜。でも絶対に大丈夫って言えないよね。鈴木先輩を好きな子が他にいるかもしれないし、先輩も気になる子とかいるかもしれないもの」
すみれの意見に確かに、と納得してしまう。
おお、なんだかすごく頼りがいがある。
「うう、どうしよう。」
けれど彩菜はすみれの意見に頼りがいを覚えたのではなく、不安感が増したみたい。眉を下げて瞳を潤ませた。両手をきゅっと握って、乙女のポーズだ。
「先輩が付き合ってる人とか好きな人がいないかどうか、それだけでも知りたいよね」
すみれが目を上に向け、人差し指を顎に当てた。
「でも彩菜のお兄さんって、三年生でしょ。一個上の知り合いっていないし」
右手で頬杖をついた私も、どこか先輩に繋がる伝手がないものかと頭を働かせる。
「同じ陸上部の子に訊いてみる? 長谷川さんとかどうかな」
「彼女、噂話とか大好きじゃない。変に広まったら困るわよ。それより田中くんとかどう?」
すみれの提案に、私はぴっと立てた人差し指を横に振った。二人とも陸上部で同じクラスだけど、田中くんの方が口が固そうだ。
「ああ、田中くん。でも田中くんと私たちそんなに仲良くないのに、どうやってさりげなく聞くの?」
うーんと、すみれが眉間にしわを寄せつつ首をかしげた。
会話に入るに入れず、ぽんぽんと話を進める私とすみれを、彩菜が交互に目で追っている。
普段なら気にせずぐいっと入って面白がるのに。
本当にいつもの彩菜らしくないなあ。
それにしてもすみれの言った通り、急に接点のない田中くんに、いきなりそんなこと聞いたら怪しすぎる。私たちの中の誰かが、鈴木先輩が好きなことがバレバレだ。
うーん、田中春樹……あっ、そういえば。
「田中くんって、徹と仲良かったじゃん」
私は頬杖をやめて、ぽん! と手を打った。そうそう、君と田中くんはよくつるんでいて、クラスも部活も違うものの今でも仲がいい。
「徹って、藤河くん?」
「ああ、千尋の幼馴染の彼ね」
急にいつもの彩菜になって、にんまりとした顔で私を見た。
「彼じゃないって! ただの幼馴染! 徹とは兄弟みたいなもんなの。恋愛感情なんてこれっぽっちもなしなんだから」
私は顔をしかめて、手を横に振った。
君が彼氏なんて冗談じゃないと思う。
君といる時間は気兼ねがない。家族と過ごしている時と同じだ。
何か話さなきゃとか、考えなくていい。
黙っていても息苦しくない。空気みたいな存在。
「ふうん? そうなの?」
「そうそう」
半目で私を見る彩菜だけど、顔色も変えず平然と否定した。
この手のからかいは小学校の頃から何度も経験済み。否定するのも慣れたものだ。
日直が一緒になってはからかわれ、二人三脚でペアになればからかわれる。ムキになって否定すればするほど、面白がって噂はなくならない。
こういう時の対処法は、慌てず騒がず真顔で否定。これが一番。
「なあんだ、面白くない」
残念そうに頬を膨らませる彩菜。すみれが丸い目をこっちにじっと向けているけど、知らない顔をした。
だって本当のことだもの。
いくら叩いたって埃も出ないから。
「とにかく! 徹を通して田中くんに鈴木先輩の事をそれとなく聞いてもらおう」
私が勢いで二人の視線を断ち切ると、すみれと彩菜も元々の問題に戻った。
「うん。それが一番いい」
「うう、もしも誰かいたらどうしよう」
また彩菜の眉と目がへにゃっと垂れる。
恋するとこんなに弱気になっちゃうんだね。
「大丈夫だよ、ねっ?」
情けない顔をした彩菜の肩を、私たちはぽんぽんと叩いた。
全力なんだろう。顔が真剣だ。
また半分のところにきたら歩き出した。
半分歩いて、半分を全力で走る。それを繰り返している。
そんな陸上部の練習中、彩菜が横目でちらちらと眺めている。
球拾い中にちらり、順番待ちの時もちらり。時々、吸い込まれたみたいに視線が釘付けになって、はっと戻る。
鈴木先輩の顔がこっちを向いただけで慌てて視線を逸らしたり。直ぐにまた熱い視線を送って、はっと練習に戻る。
なんだか忙しいし、大丈夫かな。分かりやす過ぎるよ、あれ。
恋って、大変だなあ。
そんな彩菜を見て私はこっそりと思った。
「ああ、先輩。やっぱりかっこいい」
翌日の昼休み。彩菜はほう、と溜め息を吐いた。
給食を食べ終えた私たちは、いつもの如く私の席でだべっている。
「ええと、そうだね」
私は特にかっこいいとは思えないけど、そうだねと肯定した。
まさか、「どこが?」なんて言えないよね。
「えっ? もしかして皆もそう思うの? じゃあ、ライバルがいっぱい? どうしよう!」
私の何気ないよいしょに、彩菜は慌てた。がばっと体を前へ倒してくる。
「いや、それは大丈夫……だとは思うけど」
予想以上の彩菜の反応に、戸惑った私はちょっと体を引いた。
そこでそういう思考回路になっちゃうのか。
恋は盲目っていうけれど、本当なんだなぁ。ちょっと厄介。
なんてことを思う。
「大丈夫だよ、落ち着いて、彩菜。でも絶対に大丈夫って言えないよね。鈴木先輩を好きな子が他にいるかもしれないし、先輩も気になる子とかいるかもしれないもの」
すみれの意見に確かに、と納得してしまう。
おお、なんだかすごく頼りがいがある。
「うう、どうしよう。」
けれど彩菜はすみれの意見に頼りがいを覚えたのではなく、不安感が増したみたい。眉を下げて瞳を潤ませた。両手をきゅっと握って、乙女のポーズだ。
「先輩が付き合ってる人とか好きな人がいないかどうか、それだけでも知りたいよね」
すみれが目を上に向け、人差し指を顎に当てた。
「でも彩菜のお兄さんって、三年生でしょ。一個上の知り合いっていないし」
右手で頬杖をついた私も、どこか先輩に繋がる伝手がないものかと頭を働かせる。
「同じ陸上部の子に訊いてみる? 長谷川さんとかどうかな」
「彼女、噂話とか大好きじゃない。変に広まったら困るわよ。それより田中くんとかどう?」
すみれの提案に、私はぴっと立てた人差し指を横に振った。二人とも陸上部で同じクラスだけど、田中くんの方が口が固そうだ。
「ああ、田中くん。でも田中くんと私たちそんなに仲良くないのに、どうやってさりげなく聞くの?」
うーんと、すみれが眉間にしわを寄せつつ首をかしげた。
会話に入るに入れず、ぽんぽんと話を進める私とすみれを、彩菜が交互に目で追っている。
普段なら気にせずぐいっと入って面白がるのに。
本当にいつもの彩菜らしくないなあ。
それにしてもすみれの言った通り、急に接点のない田中くんに、いきなりそんなこと聞いたら怪しすぎる。私たちの中の誰かが、鈴木先輩が好きなことがバレバレだ。
うーん、田中春樹……あっ、そういえば。
「田中くんって、徹と仲良かったじゃん」
私は頬杖をやめて、ぽん! と手を打った。そうそう、君と田中くんはよくつるんでいて、クラスも部活も違うものの今でも仲がいい。
「徹って、藤河くん?」
「ああ、千尋の幼馴染の彼ね」
急にいつもの彩菜になって、にんまりとした顔で私を見た。
「彼じゃないって! ただの幼馴染! 徹とは兄弟みたいなもんなの。恋愛感情なんてこれっぽっちもなしなんだから」
私は顔をしかめて、手を横に振った。
君が彼氏なんて冗談じゃないと思う。
君といる時間は気兼ねがない。家族と過ごしている時と同じだ。
何か話さなきゃとか、考えなくていい。
黙っていても息苦しくない。空気みたいな存在。
「ふうん? そうなの?」
「そうそう」
半目で私を見る彩菜だけど、顔色も変えず平然と否定した。
この手のからかいは小学校の頃から何度も経験済み。否定するのも慣れたものだ。
日直が一緒になってはからかわれ、二人三脚でペアになればからかわれる。ムキになって否定すればするほど、面白がって噂はなくならない。
こういう時の対処法は、慌てず騒がず真顔で否定。これが一番。
「なあんだ、面白くない」
残念そうに頬を膨らませる彩菜。すみれが丸い目をこっちにじっと向けているけど、知らない顔をした。
だって本当のことだもの。
いくら叩いたって埃も出ないから。
「とにかく! 徹を通して田中くんに鈴木先輩の事をそれとなく聞いてもらおう」
私が勢いで二人の視線を断ち切ると、すみれと彩菜も元々の問題に戻った。
「うん。それが一番いい」
「うう、もしも誰かいたらどうしよう」
また彩菜の眉と目がへにゃっと垂れる。
恋するとこんなに弱気になっちゃうんだね。
「大丈夫だよ、ねっ?」
情けない顔をした彩菜の肩を、私たちはぽんぽんと叩いた。
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