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第一章:リスタート
ミッション遂行(セス視点)
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「今は同じ、生徒?」
途方に暮れた子供のように小さく呟いて、イザベラがゆっくりと瞬きをした。明るさを取り戻しつつある瞳の色。もう一押しだ。
「はい。素敵なプレゼントを贈り合って、先生をぎゃふんと言わせてやりましょう」
片目を瞑り、イザベラの手を握っていない方の手を、ぐっと上げてみせる。
「ぷっ、ぎゃふんってエミリーなら本当に言いそう」
普段あまり軽口を叩かないセスが、おどけてみせたのが面白かったのか、それともドジなエミリーを思い出して笑えたのか。
イザベラがクスクスと肩を震わせる。
「じゃあ、とびっきりのプレゼントを選ばないとね。ねぇ、何がいいと思う?」
今度は笑いで滲んだ涙を指先で拭い、悪戯っぽい目を向けてくる。
「お嬢様には、やはり花や宝石でしょうか」
そういったものに疎いセスは、単純にそんなものしか思いつかない。
煌く紫水晶。白磁の肌。月光の髪。高貴なイザベラにはそういったものが似合う。
「もう。花は形が残らないし、宝石なんて沢山持っているわ」
頬を膨らませたイザベラが、軽く睨んでくる。また瞳が違う色に光った。
「大体、エミリーはいくら置いていったの?」
貨幣に弱い二人に代わって、用意したのはエミリーだ。果たして彼女はいくら用意してくれたのだろう。エミリーから渡された財布を二人して覗き込んだ。
がま口になった色違いの財布の口を互いに開けると、入っていたのは畳まれた紙幣が五枚。つまり五千セーントずつ。
「ええと……これで買えるものってなんでしょう?」
「そんなの私にも分からないわ。分かるのは、宝石の類が買えないってことくらいね」
買い物の仕方は学んだものの、物の相場が分からない。とりあえず、パンが800セーントくらい。エミリーの買った軟膏は3000セーントだったということしか知らなかった。
その日のパンを買うこともままならず、店に売っていたようなパンは、腹を鳴らしながら横目で見ていただけだ。セスと母親が主食にしていたのは、あんな柔らかそうなパンではなく、堅くてカチカチのパン。それがいくらで売られていたのかは、幼かった頃のセスは知らない。
つまり、パンが800セーントという情報だけでは物価が分からない。
「雑貨屋に戻りましょうか? あそこなら色んなものがありましたよ」
「悪くはないけれど、面白くはないわ」
「そう言われましても。お嬢様が満足なさるような品なんて、そうそうありませんよ」
ぷいっと視線を逸らすイザベラを見て、セスは考え込んだ。
途方に暮れた子供のように小さく呟いて、イザベラがゆっくりと瞬きをした。明るさを取り戻しつつある瞳の色。もう一押しだ。
「はい。素敵なプレゼントを贈り合って、先生をぎゃふんと言わせてやりましょう」
片目を瞑り、イザベラの手を握っていない方の手を、ぐっと上げてみせる。
「ぷっ、ぎゃふんってエミリーなら本当に言いそう」
普段あまり軽口を叩かないセスが、おどけてみせたのが面白かったのか、それともドジなエミリーを思い出して笑えたのか。
イザベラがクスクスと肩を震わせる。
「じゃあ、とびっきりのプレゼントを選ばないとね。ねぇ、何がいいと思う?」
今度は笑いで滲んだ涙を指先で拭い、悪戯っぽい目を向けてくる。
「お嬢様には、やはり花や宝石でしょうか」
そういったものに疎いセスは、単純にそんなものしか思いつかない。
煌く紫水晶。白磁の肌。月光の髪。高貴なイザベラにはそういったものが似合う。
「もう。花は形が残らないし、宝石なんて沢山持っているわ」
頬を膨らませたイザベラが、軽く睨んでくる。また瞳が違う色に光った。
「大体、エミリーはいくら置いていったの?」
貨幣に弱い二人に代わって、用意したのはエミリーだ。果たして彼女はいくら用意してくれたのだろう。エミリーから渡された財布を二人して覗き込んだ。
がま口になった色違いの財布の口を互いに開けると、入っていたのは畳まれた紙幣が五枚。つまり五千セーントずつ。
「ええと……これで買えるものってなんでしょう?」
「そんなの私にも分からないわ。分かるのは、宝石の類が買えないってことくらいね」
買い物の仕方は学んだものの、物の相場が分からない。とりあえず、パンが800セーントくらい。エミリーの買った軟膏は3000セーントだったということしか知らなかった。
その日のパンを買うこともままならず、店に売っていたようなパンは、腹を鳴らしながら横目で見ていただけだ。セスと母親が主食にしていたのは、あんな柔らかそうなパンではなく、堅くてカチカチのパン。それがいくらで売られていたのかは、幼かった頃のセスは知らない。
つまり、パンが800セーントという情報だけでは物価が分からない。
「雑貨屋に戻りましょうか? あそこなら色んなものがありましたよ」
「悪くはないけれど、面白くはないわ」
「そう言われましても。お嬢様が満足なさるような品なんて、そうそうありませんよ」
ぷいっと視線を逸らすイザベラを見て、セスは考え込んだ。
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