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第一章:リスタート
今は同じ生徒(セス視点)
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お嬢様を満足させるプレゼントって何だろう。
花や宝石だけじゃない。きっと他のどんな品物ももう持っていて飽き飽きしている。
望めば何でも買い与えられ、使用人にかしずかれ、飢えることも凍えることなく何不自由のない生活をしている。だけどこの方は、いつもどこか寂しそうだ。
エミリーが来てから、その寂しそうな気配が弱まったように思う。主人と侍女というよりは、姉妹のような二人の距離だが。
エミリーといる時にイザベラが見せる表情はとても素直で、セスは嬉しい。いい変化だと思っている。その変化が、自分のもらたらしたものでないことが、悔しいけれど。
そんなことを考えていると、心のどこかがしくりと痛んだ。
悔しい。どうして自分ではなくエミリーなのか。ずっと側にいたのに。エミリーよりもずっと長く側にいたのに。
「セスぅっ?」
不機嫌な声に考えを止めると、膨れっ面のイザベラがいた。
「お嬢様、じゃないでしょう。同じ生徒なんだから」
とがめるようにイザベラが、手にきゅっと力がこめて顔を寄せてきた。
「お、お嬢様」
思わず腰を引こうとすると、ますます手を下に引かれる。背伸びもしたのだろう。ぐっと近くなり、吐息が鼻をくすぐった。
「だから、お嬢様じゃなくて、イザベラ!」
「……っ」
逃がさないというように、イザベラのもう片方の手がセスの上着の襟を掴んでくる。
間近にある強い光を浮かべる紫の瞳に、セスは覚悟を決めた。
「イザベラ」
唇を結んだセスはぐい、と手を引く。イザベラの手を握った方の手を。
虚を突かれたイザベラが、セスの胸に飛び込む格好になる。彼女の腰に一瞬だけ手を回し、軽く抱き締めると、セスは身をひるがえした。
「では、探しに行きましょう。店はいっぱいあります」
「ふわっ、ちょっと、セス?」
セスに引っ張られ、イザベラの足が強制的に前に出る。プラチナブロンドとスカートが跳ねて、ふわりと広がった。
急な動きに驚いたからなのか、バランスをとろうとしただけなのか、イザベラの手にぎゅっと力がこめられる。
固く握った手から、流れてくる熱。逃がしたくないけれど、これ以上力を入れたら握りつぶしてしまいそうだ。
「あ、ほら。あっちの髪飾り、イザベラの髪色にぴったりですよ」
「そう? それよりあそこ! あのネクタイピン、貴方に似合いそうよ」
二人して、踊るような足取りで通りをかける。
――今は同じ生徒。
それは泣きそうな顔をしたイザベラを慰める言葉じゃない。
護衛騎士の領分を超えるため、自分自身への言い訳だった。
今だけはその言い訳を、目一杯使わせてもらおう。
手の中に収まる、自分よりも柔らかくて小さな手を引きながら、セスは思った。
花や宝石だけじゃない。きっと他のどんな品物ももう持っていて飽き飽きしている。
望めば何でも買い与えられ、使用人にかしずかれ、飢えることも凍えることなく何不自由のない生活をしている。だけどこの方は、いつもどこか寂しそうだ。
エミリーが来てから、その寂しそうな気配が弱まったように思う。主人と侍女というよりは、姉妹のような二人の距離だが。
エミリーといる時にイザベラが見せる表情はとても素直で、セスは嬉しい。いい変化だと思っている。その変化が、自分のもらたらしたものでないことが、悔しいけれど。
そんなことを考えていると、心のどこかがしくりと痛んだ。
悔しい。どうして自分ではなくエミリーなのか。ずっと側にいたのに。エミリーよりもずっと長く側にいたのに。
「セスぅっ?」
不機嫌な声に考えを止めると、膨れっ面のイザベラがいた。
「お嬢様、じゃないでしょう。同じ生徒なんだから」
とがめるようにイザベラが、手にきゅっと力がこめて顔を寄せてきた。
「お、お嬢様」
思わず腰を引こうとすると、ますます手を下に引かれる。背伸びもしたのだろう。ぐっと近くなり、吐息が鼻をくすぐった。
「だから、お嬢様じゃなくて、イザベラ!」
「……っ」
逃がさないというように、イザベラのもう片方の手がセスの上着の襟を掴んでくる。
間近にある強い光を浮かべる紫の瞳に、セスは覚悟を決めた。
「イザベラ」
唇を結んだセスはぐい、と手を引く。イザベラの手を握った方の手を。
虚を突かれたイザベラが、セスの胸に飛び込む格好になる。彼女の腰に一瞬だけ手を回し、軽く抱き締めると、セスは身をひるがえした。
「では、探しに行きましょう。店はいっぱいあります」
「ふわっ、ちょっと、セス?」
セスに引っ張られ、イザベラの足が強制的に前に出る。プラチナブロンドとスカートが跳ねて、ふわりと広がった。
急な動きに驚いたからなのか、バランスをとろうとしただけなのか、イザベラの手にぎゅっと力がこめられる。
固く握った手から、流れてくる熱。逃がしたくないけれど、これ以上力を入れたら握りつぶしてしまいそうだ。
「あ、ほら。あっちの髪飾り、イザベラの髪色にぴったりですよ」
「そう? それよりあそこ! あのネクタイピン、貴方に似合いそうよ」
二人して、踊るような足取りで通りをかける。
――今は同じ生徒。
それは泣きそうな顔をしたイザベラを慰める言葉じゃない。
護衛騎士の領分を超えるため、自分自身への言い訳だった。
今だけはその言い訳を、目一杯使わせてもらおう。
手の中に収まる、自分よりも柔らかくて小さな手を引きながら、セスは思った。
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