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第三章
32.凍える茄治(2)
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通帳のことが気になった。もし茄治の親が持っていたとしたら?
それはさすがに養子手当とは次元が違う。窃盗だろ。
聞いてみるべきか。
きっと俺だから気に入らないのだとはわかっていた。
朝帰りさせるのはよくない。
茄治のために俺ができることと言ったら?
何かあった時のためにと茄治の家の電話番号は知っていた。
あまり気は進まないけど、かけてみるか。
「どうも、安原です」
「貴様、茄治いるんだろ?」
父親の方だった。やっぱりなと思う。
「いますけど、その話ではないです」
「さっさと帰せ」
「茄治が帰りたくないようなので」
「ふざけるな。茄治を出せ」
きれられたけど、気にしてる場合じゃない。
「それよりもお聞きしたいことがあるのですが」
「なんだって?」
「俺の通帳って荷物の中にありませんでしたか?」
「通帳? なんのことだ?」
「いえ、知らないならいいんですけど」
それ以上話したくないみたいに話題を変えられる。
「そんなことよりさっさと茄治を帰せ」
そんなこと? いい加減カチンときた。
「お言葉ですけど、俺を引き取ることで、お金もらってたんじゃないですか?」
「は? 茄治から聞いたのか?」
答えなかったが、わかったらしい。
「お前なんかをあずかってやったんだ。それぐらい」
「別にいいですけど、だったらおあいこですよね」
「何言ってんだ」
「今日は泊まらせます。明日そっちにうかがいますから」
「貴様」
「茄治の学校の後に。あけておいてくださいね。失礼します」
ふざけんなと言ってしまいそうになった。冷静に対応しようと思ったけど、怒りがこみ上げてくる。
ずっと自分を引き取ってくれたからと遠慮していた。嫌々でも、恩があるからって。
なのに、聞く耳も持たない。あげくの果て手当だって当然かのごとく言う。家事だってやってたのに。
この家の家賃だって自分で払ってるのに。1円も出してないじゃないか。
そう思ったら、怒りがこみ上げてきた。
高校時代稼いでいたから、今は少し生活に余裕があるけれど、それは自分で得たものだ。
茄治といる時間を犠牲にして。それはちょっと違うか。
でも、やっぱり気に入らない。
もやもやとしたものを感じながら風呂に向かう。
「遅いよ」
「あ、ごめん。ちょっと」
茄治に言った方がいいのか迷ってた。
「兄さん?」
改めて茄治に聞く。
「今、高校どんな風?」
「何、突然?」
「ちゃんと授業出てる?」
「出てるよ。めんどくさいけど」
「塾は?」
聞いたらちょっと顔をしかめた。
「何でそんなこと気にするの?」
「サボってたんじゃ」
「兄さんが気にすることじゃ」
「気にするって」
勝手にサボるのはよくない。
「お金かかってるんだろ」
塾だってただじゃない。たとえ俺から得た金を使っていたとしても。
「そんな常識人みたいなこと」
「茄治、今日で泊まるのはおしまい」
「何、何で?」
「高校生だから」
「そればっかり」
茄治は面白くない顔をする。
本当は自分が縛ってるってわかってた。
「そうじゃなかったらもう会わない」
「兄さん!」
茄治は怒ったように言う。
「まさか親に言われた?」
「違う」
確かにそれもあるけど。
「塾って毎日入ってるの?」
「月、水、金、土だけど」
いっぱい入ってるんだな。
「高3からはもっと増える」
「日曜日はないんだ」
ちょっと安心する。
「ん? 何?」
「そん時だけ来ていいからさ」
「兄さん?」
「高校卒業するまで。我慢できるだろ」
会うのがって意味だったのに。
「週1?」
そういう問題じゃなくて。つい赤面する。
「兄さん何考えてんの?」
「うるさい」
「兄さんが我慢できないんじゃないの?」
そんなこと言いながら迫ってくる。
「茄治!」
通帳のことも一応聞いておかないとと思うのに。
触れられて、抱きしめられて、熱がたまる。
「なんかうれしい」
抱きしめながら耳元で言われるとドキッとする。
「真剣に俺のこと考えてくれるの」
そりゃ当たり前だろ。
キスをしてこねくり回されて、もうやばい。
しばらく茄治と会えないから堪能しないと。
明日は月曜日。また1週間。
さすがに学校だし、夜中中やってるわけにはいかない。
それはさすがに養子手当とは次元が違う。窃盗だろ。
聞いてみるべきか。
きっと俺だから気に入らないのだとはわかっていた。
朝帰りさせるのはよくない。
茄治のために俺ができることと言ったら?
何かあった時のためにと茄治の家の電話番号は知っていた。
あまり気は進まないけど、かけてみるか。
「どうも、安原です」
「貴様、茄治いるんだろ?」
父親の方だった。やっぱりなと思う。
「いますけど、その話ではないです」
「さっさと帰せ」
「茄治が帰りたくないようなので」
「ふざけるな。茄治を出せ」
きれられたけど、気にしてる場合じゃない。
「それよりもお聞きしたいことがあるのですが」
「なんだって?」
「俺の通帳って荷物の中にありませんでしたか?」
「通帳? なんのことだ?」
「いえ、知らないならいいんですけど」
それ以上話したくないみたいに話題を変えられる。
「そんなことよりさっさと茄治を帰せ」
そんなこと? いい加減カチンときた。
「お言葉ですけど、俺を引き取ることで、お金もらってたんじゃないですか?」
「は? 茄治から聞いたのか?」
答えなかったが、わかったらしい。
「お前なんかをあずかってやったんだ。それぐらい」
「別にいいですけど、だったらおあいこですよね」
「何言ってんだ」
「今日は泊まらせます。明日そっちにうかがいますから」
「貴様」
「茄治の学校の後に。あけておいてくださいね。失礼します」
ふざけんなと言ってしまいそうになった。冷静に対応しようと思ったけど、怒りがこみ上げてくる。
ずっと自分を引き取ってくれたからと遠慮していた。嫌々でも、恩があるからって。
なのに、聞く耳も持たない。あげくの果て手当だって当然かのごとく言う。家事だってやってたのに。
この家の家賃だって自分で払ってるのに。1円も出してないじゃないか。
そう思ったら、怒りがこみ上げてきた。
高校時代稼いでいたから、今は少し生活に余裕があるけれど、それは自分で得たものだ。
茄治といる時間を犠牲にして。それはちょっと違うか。
でも、やっぱり気に入らない。
もやもやとしたものを感じながら風呂に向かう。
「遅いよ」
「あ、ごめん。ちょっと」
茄治に言った方がいいのか迷ってた。
「兄さん?」
改めて茄治に聞く。
「今、高校どんな風?」
「何、突然?」
「ちゃんと授業出てる?」
「出てるよ。めんどくさいけど」
「塾は?」
聞いたらちょっと顔をしかめた。
「何でそんなこと気にするの?」
「サボってたんじゃ」
「兄さんが気にすることじゃ」
「気にするって」
勝手にサボるのはよくない。
「お金かかってるんだろ」
塾だってただじゃない。たとえ俺から得た金を使っていたとしても。
「そんな常識人みたいなこと」
「茄治、今日で泊まるのはおしまい」
「何、何で?」
「高校生だから」
「そればっかり」
茄治は面白くない顔をする。
本当は自分が縛ってるってわかってた。
「そうじゃなかったらもう会わない」
「兄さん!」
茄治は怒ったように言う。
「まさか親に言われた?」
「違う」
確かにそれもあるけど。
「塾って毎日入ってるの?」
「月、水、金、土だけど」
いっぱい入ってるんだな。
「高3からはもっと増える」
「日曜日はないんだ」
ちょっと安心する。
「ん? 何?」
「そん時だけ来ていいからさ」
「兄さん?」
「高校卒業するまで。我慢できるだろ」
会うのがって意味だったのに。
「週1?」
そういう問題じゃなくて。つい赤面する。
「兄さん何考えてんの?」
「うるさい」
「兄さんが我慢できないんじゃないの?」
そんなこと言いながら迫ってくる。
「茄治!」
通帳のことも一応聞いておかないとと思うのに。
触れられて、抱きしめられて、熱がたまる。
「なんかうれしい」
抱きしめながら耳元で言われるとドキッとする。
「真剣に俺のこと考えてくれるの」
そりゃ当たり前だろ。
キスをしてこねくり回されて、もうやばい。
しばらく茄治と会えないから堪能しないと。
明日は月曜日。また1週間。
さすがに学校だし、夜中中やってるわけにはいかない。
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