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第3章 会っても会わなくても
葛藤
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中島と仲良くなった利点は、直接会わなくても藤越の様子が知れるということだ。そうやって話を聞いていると、別にわざわざ俺が直接飲み会とかに参加しなくてもいいような気がしてくる。
会わなきゃ忘れられると思った時もあった。でも、もう自分には無理だと気付いた。忘れることも、考えないようにすることもできない。どうしたって考えてしまう。暇だと特に顕著に。だから、なるべく忙しくしようとしたし、仕事や雑務に追われている時はそんなこと考える隙間はなかった。
だけど実家暮らしは思いのほか時間があって、平日は帰って寝るだけで済んでも休みになるとそういうわけにはいかない。
そうすると中島が送ってくるメールがいちいち気になるようになる。あの時にアドレスを教えたりするんじゃなかったと後悔した。
でも、何も送ってこなきゃ来ないで、藤越がどうしているか気になるのも事実だ。落ち込んではいないか、困ってはいないかと気にしてしまう。
別に俺が側にいたからって何ができるわけでもないのに。
その頃になると、藤越は良和ともう一人ゆっきーという奴と一緒に住んでいるのがわかった。
自分が一緒に住みたいとも思わないけれど、俺がいる必要なんてどこにもない。最初からなかったのだ。一緒に遊園地に行かなくたって、そいつらが慰めてくれただろうし、俺は何もしていない。ただ、気になって様子を見に行って、あいつから誘われただけなのだから。
自分から何をしたわけでもなかった。あいつがいじめられていた頃から俺は何もしていない。俺にもっと積極性があったら何か変わっていただろうか。あいつら、井口と山本を振り切れたら友達にでもなれていたんだろうか。
そんな風に思っていた矢先に、小学校以来会ってなかった井口から連絡があった。藤越に謝りたいとかいう話で、一体急に何があったのかと思った。
藤越の連絡先は知らない。中島あたりに聞けばわかったのかもしれないが、あいつに聞きたくなかった。そうなると家に直接行くしかない。気乗りがしなかった。でも、さすがに謝りたいと言っている奴を無下にはできない。
それに、井口が高校でもいじめをしていた話を前に山本から聞いていた。その時、もしかしたら俺が同じ高校に行ってれば止められたかもしれないと思った。閉失なんか受けずに、近くの公立高校を受けたら、きっと同じ学校になっただろう。
だから、高校卒業前に一度井口がいじめたという奴に会ってきた。俺が謝ることに意味があるとは思わなかったけど、止められなかったことを謝罪した。そしたら後で井口に電話で色々まくし立てられた。俺のせいなんかじゃないと。本当はただ藤越のことを止められなかった代わりに、何かできることはないかと思っただけなのだけど。
そういう経緯もあったために、できれば協力したいと思っていた。仕方ないので、会社が休みの日曜に井口を連れて藤越の家を訪ねることにした。
その日はちょうど藤越以外誰もいなくて、藤越にはしばらくぶりと言われた。最近は飲み会にも参加していない。
井口が顔を出すと、藤越はちょっと嫌な顔をした。さすがに俺の時とは違って覚えているようだった。
「それで何?」
藤越の聞き方がそっけない。
「小学校の時のことは本当に悪かった」
と井口は言った。
やっぱり俺が知っている井口とは違う気がした。こんな風に素直に謝るなんて思ってなかった。
「許してほしいの?」
と藤越は聞く。井口は別にそんなこと思ってないと答えた。意外だった。
そして、「俺を恨んでるなら、煮るなり焼くなり好きにすればいい」と言うのだ。
「じゃあ目をつぶって」
藤越がそう言いだしたので、俺は「ちょっ」と言って止めようとするも井口に制された。
藤越はピンっとデコピンをしただけだったので、俺は表紙抜けする。
「何だよそれ」
「別に恨んでなんかいないけど」
そういえば俺にもそんなことを言っていた。
「そんなんでお前の気が済むのかよ」
「いじめに対してどう感じるかなんて人それぞれじゃん。俺はたいしたことされたとは思ってない」
続けて藤越は言う。
「俺も最初態度悪かったと思うし」
あの時も、最初に再会した時も藤越はそう言ってた。
その後藤越は井口に何かを手伝わせていたけど、実際に恨んだり、根に持ったりはしていないようだった。
俺が小学校の時に話しかけたことが、良かったのか、悪かったのかもうわからなくなってくる。
それから井口は藤越と仲間が集まる飲み会に顔を出すようになったし、小学校の時のわだかまりなど何もないように見えた。結構さっぱりしているというか、藤越は元々人をいつまでも恨んだりするような性格はしていなのかもしれない。
もう、俺はその他大勢でもいいような気がしていた。会いたくないけど、会いたい。元気な姿を見ると安心する。わざわざ話したり関わったりしなくても、それだけで十分だと思った。
あいつを好きだと言う気持ちを抱えて生きていくしか俺に残された道はない。ただそれだけの話だった。
このままでいい。俺たちの関係が崩れるぐらいならこのままでいいと、そう思いながら気付いたら何年も経っていた。
会わなきゃ忘れられると思った時もあった。でも、もう自分には無理だと気付いた。忘れることも、考えないようにすることもできない。どうしたって考えてしまう。暇だと特に顕著に。だから、なるべく忙しくしようとしたし、仕事や雑務に追われている時はそんなこと考える隙間はなかった。
だけど実家暮らしは思いのほか時間があって、平日は帰って寝るだけで済んでも休みになるとそういうわけにはいかない。
そうすると中島が送ってくるメールがいちいち気になるようになる。あの時にアドレスを教えたりするんじゃなかったと後悔した。
でも、何も送ってこなきゃ来ないで、藤越がどうしているか気になるのも事実だ。落ち込んではいないか、困ってはいないかと気にしてしまう。
別に俺が側にいたからって何ができるわけでもないのに。
その頃になると、藤越は良和ともう一人ゆっきーという奴と一緒に住んでいるのがわかった。
自分が一緒に住みたいとも思わないけれど、俺がいる必要なんてどこにもない。最初からなかったのだ。一緒に遊園地に行かなくたって、そいつらが慰めてくれただろうし、俺は何もしていない。ただ、気になって様子を見に行って、あいつから誘われただけなのだから。
自分から何をしたわけでもなかった。あいつがいじめられていた頃から俺は何もしていない。俺にもっと積極性があったら何か変わっていただろうか。あいつら、井口と山本を振り切れたら友達にでもなれていたんだろうか。
そんな風に思っていた矢先に、小学校以来会ってなかった井口から連絡があった。藤越に謝りたいとかいう話で、一体急に何があったのかと思った。
藤越の連絡先は知らない。中島あたりに聞けばわかったのかもしれないが、あいつに聞きたくなかった。そうなると家に直接行くしかない。気乗りがしなかった。でも、さすがに謝りたいと言っている奴を無下にはできない。
それに、井口が高校でもいじめをしていた話を前に山本から聞いていた。その時、もしかしたら俺が同じ高校に行ってれば止められたかもしれないと思った。閉失なんか受けずに、近くの公立高校を受けたら、きっと同じ学校になっただろう。
だから、高校卒業前に一度井口がいじめたという奴に会ってきた。俺が謝ることに意味があるとは思わなかったけど、止められなかったことを謝罪した。そしたら後で井口に電話で色々まくし立てられた。俺のせいなんかじゃないと。本当はただ藤越のことを止められなかった代わりに、何かできることはないかと思っただけなのだけど。
そういう経緯もあったために、できれば協力したいと思っていた。仕方ないので、会社が休みの日曜に井口を連れて藤越の家を訪ねることにした。
その日はちょうど藤越以外誰もいなくて、藤越にはしばらくぶりと言われた。最近は飲み会にも参加していない。
井口が顔を出すと、藤越はちょっと嫌な顔をした。さすがに俺の時とは違って覚えているようだった。
「それで何?」
藤越の聞き方がそっけない。
「小学校の時のことは本当に悪かった」
と井口は言った。
やっぱり俺が知っている井口とは違う気がした。こんな風に素直に謝るなんて思ってなかった。
「許してほしいの?」
と藤越は聞く。井口は別にそんなこと思ってないと答えた。意外だった。
そして、「俺を恨んでるなら、煮るなり焼くなり好きにすればいい」と言うのだ。
「じゃあ目をつぶって」
藤越がそう言いだしたので、俺は「ちょっ」と言って止めようとするも井口に制された。
藤越はピンっとデコピンをしただけだったので、俺は表紙抜けする。
「何だよそれ」
「別に恨んでなんかいないけど」
そういえば俺にもそんなことを言っていた。
「そんなんでお前の気が済むのかよ」
「いじめに対してどう感じるかなんて人それぞれじゃん。俺はたいしたことされたとは思ってない」
続けて藤越は言う。
「俺も最初態度悪かったと思うし」
あの時も、最初に再会した時も藤越はそう言ってた。
その後藤越は井口に何かを手伝わせていたけど、実際に恨んだり、根に持ったりはしていないようだった。
俺が小学校の時に話しかけたことが、良かったのか、悪かったのかもうわからなくなってくる。
それから井口は藤越と仲間が集まる飲み会に顔を出すようになったし、小学校の時のわだかまりなど何もないように見えた。結構さっぱりしているというか、藤越は元々人をいつまでも恨んだりするような性格はしていなのかもしれない。
もう、俺はその他大勢でもいいような気がしていた。会いたくないけど、会いたい。元気な姿を見ると安心する。わざわざ話したり関わったりしなくても、それだけで十分だと思った。
あいつを好きだと言う気持ちを抱えて生きていくしか俺に残された道はない。ただそれだけの話だった。
このままでいい。俺たちの関係が崩れるぐらいならこのままでいいと、そう思いながら気付いたら何年も経っていた。
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