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第12章 追いかけっこ
良和
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愛良ちゃんに遠慮してくすぶっていても仕方がないので、良和のところを訪ねることにした。といっても家は知らないので必然的に病院になるが。
つい二週間ほど前に行ったばかりの精神科の診療所に足を運ぶと、相変わらず繁盛していた。
俺は前回のように待っている気はなかったので、患者が出たタイミングで強引に診察室に入った。
「あいつ透馬ここに来なかったか?」
「おい、診療中」
「それどころじゃないんだよ」
「全くどいつもこいつも」
その言葉でやっぱり透馬も良和に会いに来たのだとわかった。
「透馬なんかおかしかったぜ。梨津のこととか、俺たちが出て行った時の話をして」
「どこに行くとか言ってなかったか? 手がかりがあれば何でもいい」
「特には何も」
「出て行った時の話って?」
一応何か参考になるかと思って聞くと、以前透馬のお母さんや愛良ちゃんと良和が暮らしていた時の話をしていたと言う。
途中で良和とゆっきーが透馬の家を出て別々に暮らすようになった時、「もし行かないでって言ったら、出て行かなかったのか」と聞かれたと。
透馬はどういうつもりだったんだろう。本当は二人に出て行ってほしくなかったのか。どんどん自分の側から人がいなくなっていく気がして寂しがっていた? 俺はそんなこと全く気付かなかった。
確かに愛良ちゃんを密かに想っている時に、母親と三人だけで暮らすのは精神的にきつかったかもしれないが、俺は何もしなかった。あいつに任せようと思っていた。それが悪かったのか、わけがわからなくなる。
「わかった。センキュー。邪魔して悪かった」
「何かあったのか? 何でそんなに必死になって」
「わかんねえ。だけど、絶対あいつを捕まえる」
良和は変な顔をしていたが、俺は気にせず病院を出た。
良和が言っていたことが引っかかる。浅木梨津の話もしていたという。
意味があるかはわからないが、浅木の墓にでも行ってみようかと思った。
といっても俺はその場所を知らない。
良和に聞いておけばよかったと後悔する。さすがに二度も邪魔するのは気が引ける。
その時、急に透馬から電話がかかってきて、俺は慌てて携帯を落としそうになった。まだガラケーだから多少落としたぐらいじゃ壊れないが、早く出ないと切られてしまうかもしれない。
「お前一体今どこに? どういうつもりで」
「ねえ、梨津と俺がいないとこで会った?」
「は?」
「自分でやれって言葉に心当たりない?」
自分でやれ? なんの話だかわからない。何でそこで浅木が出てくるんだ。
「お前何やってんだよ」
「いいから答えてよ」
一体何なんだ。浅木と最後にした会話を思い出す。確か腕がやけに細くて驚いた覚えがある。それから、確か俺は、透馬が泣いていたら慰めてやってとかそんなことを言ったような。だけどその後すぐに、浅木は亡くなって。まさか、そういう意味か?
「お前が泣いてたら、俺の代わりに慰めてやれとは言ったけど。それが何か」
「やっぱり」
「何がやっぱりなんだよ」
「もうちょっと自分で考えてね」
「おい、透馬」
切れた。ふざけるな。
そういえば俺は自分から一度も透馬に電話をかけていなかった。どうせ出ないと思ったから。でも、今度こそむかついて、自分からかけてみた。やっぱり俺の予想通り出ない。
あいつは何がしたいんだ。いい加減に人を振り回すのはやめてほしい。
今透馬とした会話に何かヒントがあるのだろうか。浅木と話したことを聞いて来て、あいつはやっぱりと言った。何がやっぱりなんだ。俺と浅木が話したことか? 俺が代わりに慰めてやれと言ったことか? 「自分でやれ」ってもしかして。
浅木は死ぬ間際に俺に伝言を残したということだろうか。どうしてそれを透馬が気にするんだ。
あの時一度会っただけで、浅木は何かわかったんだろうか。俺が今になってもこんなに馬鹿なことを繰り返しているほどに、あいつのことが好きでたまらなくて、離れられないことを。だったら最初から、浅木の言う通り、自分でやれば良かったのだ。良和とかゆっきーに任してないで。
俺はただ怖かった。透馬に拒絶されるのが。俺はあいつ以外いないのに、その唯一の存在に否定されるのがたまらなく怖かったのだ。だから想いを告げるのにもあんなに時間がかかった。実に浅木が死んでから十年ぐらい。馬鹿みたいだ。
今だって怖がっている。あいつの気持ちが別の方にいったりしないか、俺の側からいなくなるんじゃないかって。透馬はそれがわかっていたから離れたんだろうか。俺が馬鹿みたいに不安になるのに呆れていたんじゃないだろうか。
そこで良和から電話がかかってきた。さすがに今度は慌てずに出た。一体今度はなんだろう。
「最初の場所で待ってるとかなんとか、お前に伝えてって」
「最初の場所?」
「お前に言えばわかるって言ってたけど」
何であいつは直接言わないんだ。良和なんかに伝言を頼んで。
そうは思ったけど、俺は結局その言葉に従うしかない。
最初の場所とはいったいどこだと、考える前に俺は歩き出していた。
つい二週間ほど前に行ったばかりの精神科の診療所に足を運ぶと、相変わらず繁盛していた。
俺は前回のように待っている気はなかったので、患者が出たタイミングで強引に診察室に入った。
「あいつ透馬ここに来なかったか?」
「おい、診療中」
「それどころじゃないんだよ」
「全くどいつもこいつも」
その言葉でやっぱり透馬も良和に会いに来たのだとわかった。
「透馬なんかおかしかったぜ。梨津のこととか、俺たちが出て行った時の話をして」
「どこに行くとか言ってなかったか? 手がかりがあれば何でもいい」
「特には何も」
「出て行った時の話って?」
一応何か参考になるかと思って聞くと、以前透馬のお母さんや愛良ちゃんと良和が暮らしていた時の話をしていたと言う。
途中で良和とゆっきーが透馬の家を出て別々に暮らすようになった時、「もし行かないでって言ったら、出て行かなかったのか」と聞かれたと。
透馬はどういうつもりだったんだろう。本当は二人に出て行ってほしくなかったのか。どんどん自分の側から人がいなくなっていく気がして寂しがっていた? 俺はそんなこと全く気付かなかった。
確かに愛良ちゃんを密かに想っている時に、母親と三人だけで暮らすのは精神的にきつかったかもしれないが、俺は何もしなかった。あいつに任せようと思っていた。それが悪かったのか、わけがわからなくなる。
「わかった。センキュー。邪魔して悪かった」
「何かあったのか? 何でそんなに必死になって」
「わかんねえ。だけど、絶対あいつを捕まえる」
良和は変な顔をしていたが、俺は気にせず病院を出た。
良和が言っていたことが引っかかる。浅木梨津の話もしていたという。
意味があるかはわからないが、浅木の墓にでも行ってみようかと思った。
といっても俺はその場所を知らない。
良和に聞いておけばよかったと後悔する。さすがに二度も邪魔するのは気が引ける。
その時、急に透馬から電話がかかってきて、俺は慌てて携帯を落としそうになった。まだガラケーだから多少落としたぐらいじゃ壊れないが、早く出ないと切られてしまうかもしれない。
「お前一体今どこに? どういうつもりで」
「ねえ、梨津と俺がいないとこで会った?」
「は?」
「自分でやれって言葉に心当たりない?」
自分でやれ? なんの話だかわからない。何でそこで浅木が出てくるんだ。
「お前何やってんだよ」
「いいから答えてよ」
一体何なんだ。浅木と最後にした会話を思い出す。確か腕がやけに細くて驚いた覚えがある。それから、確か俺は、透馬が泣いていたら慰めてやってとかそんなことを言ったような。だけどその後すぐに、浅木は亡くなって。まさか、そういう意味か?
「お前が泣いてたら、俺の代わりに慰めてやれとは言ったけど。それが何か」
「やっぱり」
「何がやっぱりなんだよ」
「もうちょっと自分で考えてね」
「おい、透馬」
切れた。ふざけるな。
そういえば俺は自分から一度も透馬に電話をかけていなかった。どうせ出ないと思ったから。でも、今度こそむかついて、自分からかけてみた。やっぱり俺の予想通り出ない。
あいつは何がしたいんだ。いい加減に人を振り回すのはやめてほしい。
今透馬とした会話に何かヒントがあるのだろうか。浅木と話したことを聞いて来て、あいつはやっぱりと言った。何がやっぱりなんだ。俺と浅木が話したことか? 俺が代わりに慰めてやれと言ったことか? 「自分でやれ」ってもしかして。
浅木は死ぬ間際に俺に伝言を残したということだろうか。どうしてそれを透馬が気にするんだ。
あの時一度会っただけで、浅木は何かわかったんだろうか。俺が今になってもこんなに馬鹿なことを繰り返しているほどに、あいつのことが好きでたまらなくて、離れられないことを。だったら最初から、浅木の言う通り、自分でやれば良かったのだ。良和とかゆっきーに任してないで。
俺はただ怖かった。透馬に拒絶されるのが。俺はあいつ以外いないのに、その唯一の存在に否定されるのがたまらなく怖かったのだ。だから想いを告げるのにもあんなに時間がかかった。実に浅木が死んでから十年ぐらい。馬鹿みたいだ。
今だって怖がっている。あいつの気持ちが別の方にいったりしないか、俺の側からいなくなるんじゃないかって。透馬はそれがわかっていたから離れたんだろうか。俺が馬鹿みたいに不安になるのに呆れていたんじゃないだろうか。
そこで良和から電話がかかってきた。さすがに今度は慌てずに出た。一体今度はなんだろう。
「最初の場所で待ってるとかなんとか、お前に伝えてって」
「最初の場所?」
「お前に言えばわかるって言ってたけど」
何であいつは直接言わないんだ。良和なんかに伝言を頼んで。
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最初の場所とはいったいどこだと、考える前に俺は歩き出していた。
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