侯爵令嬢リリアンは(自称)悪役令嬢である事に気付いていないw

さこの

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フレデリック

水遊びをしよう


 暑い日々が続いていた。リリアンと出会って二年目の夏だった。

 パティオは風の通りが良いから、今日のお茶会に選んだ場所だったけれど、風が抜けても暑い風が通り抜けるだけだ。


 果実水のおかわりを頼む。フルーツも冷やされてはいるけれど、すぐに温くなる。食欲も無くなるような暑さだけど、リリアンは元気だった。

「ネコちゃんも暑いみたい。日陰で寝てますよ。リック、聞いてますか?」

 リリアンにリックと呼んでほしいと言うと、うん。と言ってそう呼び始めた。僕のことをリックと呼ぶのはリリアンだけだった。所謂愛称というものだ。僕もリリと呼んでいる。

 2年経った今でもリリアンは愛らしくて、婚約したいと願ったけれど、まだ早いわ。と母に言われた!

『それじゃ何のためのお茶会なんですか!』

 と言うと

『いろんな人に出会うために決まっているでしょう!』

 と言われた。何回お茶会をしてもこの子が良いと思える相手はリリアンしかないのに!

 聞けばリリアンの元にも求婚の手紙が届いていると言う。侯爵にお願いだから受けないで欲しいと何度もお願いした。



『何度も言いますがうちの娘はそそっかしくて落ち着きがなくて、恥ずかしくて王家に嫁がせることが出来るような娘ではないのですよ』

 と言った。それはただ嫁がせたくないだけの言い訳だと思う。リリアンを1番甘やかしているのは侯爵だろうに! 夫人に怒られている姿を見たことがある。


 王宮に連れて来るのも渋々といった感じだ。娘が王族に嫁ぐなんて家の繁栄を願うと普通? は嬉しいことなんじゃないのか?



 それにしても暑すぎる……


「水遊びでもしようか?」

 王宮には川から水を引いていて船に乗ることが出来る。水辺は風がふくと気温が低い為涼しく感じるし、リリアンと船に乗って遊ぶのは楽しいだろう。

「うん」


 執事にその旨を伝えると、準備をさせます。と言って指示していた。




「お待たせ致しました。準備ができました」


 船の準備が出来たようでメイドに声をかけられてリリアンと向かう。




「わぁぁ。船だ!」

 リリアンの瞳がキラキラと輝いていた。

「船に乗るのは初めて?」

「うん」

「泳げる?」

「ううん。泳いだことはないです」

 そうだよな。まず令嬢に泳げる? などとの質問はしないよな。くすくすと笑っていると

「でも泳いでみたいです!」


 やはりリリアンは楽しい子だ! 令息達と遊ぶ時とは違う。

 リリアンと遊ぶ日が決まったら勉強も捗るし、教師に褒められるからリリアンと早く婚約をしたいのに! 

 でもダメとは言われていないのに、中々話が進まないので母に八つ当たりをしたりもした。


  八つ当たりなどをしても仕方がないのだけれど、侯爵は相手にしてくれないしリリアンも普通に遊びに来ているだけのようだ……


 僕だけが焦っているのだろうか?





「船の上ではお静かになさってくださいね。急に立ち上がったりしたら転覆する可能性もありますからね!」



「はーーい!」

 リリアンは元気に答えた。


「きゃぁ! 動いた。リック見て見て凄いですね。川面がキラキラとしていて綺麗!」


 のんびりと動く船にはしゃぐリリアン。

「うん。綺麗だね! それに風も涼しくて気持ちいい。あ! リリ! 危ないよ。もっと船の中心にいなきゃ落ちちゃうよ!」


 体を傾け川に手をつけようとしていたところを注意した。


「……気持ちよさそうだから。つい」

「気持ちは分からないでもないけど、危ないからね」

「あ! 鯉だ!」


  ……聞けよ!


「たくさんいる……わぁ……」

  わぁ。なんて言いながら、苦笑いするリリアン。どんなリアクションか分からない。

「よろしかったらパンを与えてみますか?」

 執事に言われてパンをちぎり川面に投げると、われ先にと鯉達が口をぱくぱくさせてリリアンに向ける。



「怖いよぉ……」



 鯉を見るともっとくれもっとくれ! と口をパクパクさせていた。その数数十匹……

 確かに……見てくれのいいものではない。リリアンを見ると怯えて泣きそうな顔をしていた。

「リリおいで」

「ぐすっ。うん」


 リリアンの泣き顔が好きだなんて言ったら、変に思われるだろうか……この顔に弱いなんて言ったら変態扱いされるのではないか……

 執事に言ってパン屑を遠くに投げてもらって鯉を遠ざけた。


「ほら、もう鯉はあっちに移動したから大丈夫だよ」

「本当?」

 チラッと川面に目をやるリリアン。そして鯉がいないことを確認してホッとしていた。

 それからしばらく船に揺られていた。のんびりとした夏の午後だった。


「あの塔はなんですか?」


 リリの指差す方に古びた塔があった。昔王族で悪いことをしたら反省するために入れられていた。と聞いた。

 古くからあり建物自体も脆くなっているので解体をしようと話が出ていた。

 しかしいざ解体しようと思ったら、白い影を見た。だの夜に灯りが急に点った。だの幽霊が出るとの曰く付きの塔だった。

 そして本格的に解体が決まったのだが、工事の責任者が怪我をしたり邪魔が入ったりで結局そのままになっている。


「んーー。お化けが出るんだって」

 簡潔に答えるとリリアンは立ち上がって

「行きたい!」


 と答えた。普通は怖がるだろ……

「危ないからダメだよ、ほら座って。船が揺れるよ」

「どうしてもダメ?」

 僕に言ってもダメだと思ったのか同乗している執事に尋ねるリリアン

「なりません!」

 執事に言われて大人しくなるのかと思いきや頬をぷっくり膨らませて、座ろうとしたら揺れているせいか体制を崩した。


「きゃぁ」

「リリ!」「お嬢様!!」


 リリアンの腕を取ったが、そのまま2人で船から落ちてしまった。


 ざばぁぁーんと波が立った。


 すぐに救助されたし、暑い日だったから水に浸かっても問題はないと思われたが、僕は水を飲んでしまって体調を崩し熱が出た。


 リリアンは体調を崩すことなく、元気で見舞いに来てくれた。リリアンは見た目は儚げなのに健康で丈夫だ。こんな姿を見せてしまって情けない……


「ごめんなさい」

 僕の顔を見てぐずぐすと泣くリリアン。

「もう熱も下がったし、平気だから泣くな」

 リリアンの頭を撫でてやる。


「それよりお化けが出ると言ったのにどうしてあそこに行きたかったの?」



 普通は怖がるだろう? 子供が行きたがる場所ではない。


「もしお化けが出るなら、おばぁさまがいないかなと思ったの。お化けでもおばぁさまなら怖くないから。ぐすん。また会いたい……」


 病の末に亡くなったリリアンの祖母か。まだ僕と出会う前の事だから会ったことはない。 


「ここまで思われると言うことは優しい人だったんだろうね」



 慰める口調で答えたら、首を振って

「ううん。いつも怒られていたの。でも今思えばリリのために怒ってくれてたって分かったからありがとう。って言いたかったの。それでまた怒ってくれたらいいのに……」


 リリアンの事を思って心を鬼にして怒ってくれていたんだろう。

 そうに違いない。そんな事を言われると亡くなったおばぁ様も嬉しいだろう。と思いリリアンを見たらなんとなくだけど、背中に白いもやが……


 いや! き、気のせいだよな!




 






 それから私が留学して戻ってきてリリと再会した時に思い出が全く違っていたのは今では笑い話だ……


 

 






 








 


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