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おしゃれなお店ではない
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「おはようございます。それと昨日はありがとうございました」
きちんと姿勢を正し、粛々と頭を下げた。
「……なんだか調子が狂うな」
昨夜借りたままだったジャケットを差し出す。本当は洗って返したかったけれど、店も分からないし時間もなかった。
「洗ってお返ししなきゃいけないのに、すみません」
上質な生地で、触れるだけで高価だと分かった。
「そんなこと気にするな。行くぞ」
「はい。って、どこに?」
朝迎えに来ると言っていたけれど、まさか出かけるとは思っていなかった。
「行けば分かる。礼をしたいと言っていただろう。昼食をご馳走してくれ」
「あ、そういうことなら喜んで。今日は特に予定もありませんし」
宿の外れに止められていた馬車に乗り込む。ユーゴ様がカーテンを開けてくれて、移動中も街並みがよく見えた。天気もよく、絶好のお出かけ日和だ。
「昨日の盗人だが、警備に引き渡した後、罪を認めた。余罪もあるらしい。当分は牢だな」
淡々とした口調で続ける。
「観光客を狙う連中だ。アンティーク市は人が集まるからな。お前、鈍そうな顔をしているから狙われたんだろうよ」
カバンには銀行の証書が入っていた。あれが盗まれていたらと思うと背筋が冷える。失礼な言葉が聞こえたけれど、側から見ればそうなのかもしれない。
「悪い人がいるから、初対面の私にあんな失礼なことを言ったのですね」
「……悪かった。見たことのない顔だったし、怪しいと思ったのは事実だ。すまない」
窓の外を見たままの謝罪だったけれど、小さく頷いた。訳あってのことなら仕方がないと思った。
街を抜けると、のどかな景色が広がる。畑仕事をしている人、道端で休む人々。ユーゴ様の馬車だと分かると、皆が笑顔で手を振ってくる。
「皆さん、楽しそうですね」
「ああ。そうだな」
「ところで、どこへ向かっているのですか?」
「昼食だと言っただろう」
「聞きましたけど、場所を」
「行けば分かる」
説明が足りない人だと思いながらも、黙って景色を眺めた。そして馬車が止まる。
「降りるぞ。ここから歩く」
馬車から飛び降りた先には、大きな池があった。
「わあ……お魚が泳いでます!」
「鯉くらい知ってるだろ?」
「これが鯉! 初めて見ました。色とりどりなんですね」
ユーゴ様がポケットから出した餌を投げると、鯉が一斉に寄ってくる。思わず後ずさった。
「鯉は悪食だ。なんでも食うぞ」
「なんでも……」
ぎゅっと自分の身体を抱きしめる。
「試してみるか?」
「って、なにをですか!」
「冗談だ。お前、顔に出るな」
そのまま歩き出すユーゴ様のうしろに、慌ててついていく。やがて小さな建物が見えてきた。
「ここだ」
貴族の行くような店ではない。けれど、温かい雰囲気がある。
「ハンス、いるか」
奥から大柄な男の人が出てきた。
「ユーゴ様! お待ちしてましたよ。お連れ様もどうぞ」
案内された席に座ると、まずグラスが置かれる。濃い紫の液体が注がれた。
「怪しい飲み物じゃない。ジュースだ」
「ぶどうジュースです。自家製ですよ」
恐る恐る口に運び、一口飲んで、目を見開く。
「濃くて……すごく美味しいです!」
食事も驚くほど美味しかった。サラダも鶏肉もパンも、すべてが新鮮で丁寧で、最後のデザートとお茶まで夢中で平らげた。
「ごちそうさまでした」
大満足だ! 美味しかった~!
「気に入ったなら良かった」
きちんと姿勢を正し、粛々と頭を下げた。
「……なんだか調子が狂うな」
昨夜借りたままだったジャケットを差し出す。本当は洗って返したかったけれど、店も分からないし時間もなかった。
「洗ってお返ししなきゃいけないのに、すみません」
上質な生地で、触れるだけで高価だと分かった。
「そんなこと気にするな。行くぞ」
「はい。って、どこに?」
朝迎えに来ると言っていたけれど、まさか出かけるとは思っていなかった。
「行けば分かる。礼をしたいと言っていただろう。昼食をご馳走してくれ」
「あ、そういうことなら喜んで。今日は特に予定もありませんし」
宿の外れに止められていた馬車に乗り込む。ユーゴ様がカーテンを開けてくれて、移動中も街並みがよく見えた。天気もよく、絶好のお出かけ日和だ。
「昨日の盗人だが、警備に引き渡した後、罪を認めた。余罪もあるらしい。当分は牢だな」
淡々とした口調で続ける。
「観光客を狙う連中だ。アンティーク市は人が集まるからな。お前、鈍そうな顔をしているから狙われたんだろうよ」
カバンには銀行の証書が入っていた。あれが盗まれていたらと思うと背筋が冷える。失礼な言葉が聞こえたけれど、側から見ればそうなのかもしれない。
「悪い人がいるから、初対面の私にあんな失礼なことを言ったのですね」
「……悪かった。見たことのない顔だったし、怪しいと思ったのは事実だ。すまない」
窓の外を見たままの謝罪だったけれど、小さく頷いた。訳あってのことなら仕方がないと思った。
街を抜けると、のどかな景色が広がる。畑仕事をしている人、道端で休む人々。ユーゴ様の馬車だと分かると、皆が笑顔で手を振ってくる。
「皆さん、楽しそうですね」
「ああ。そうだな」
「ところで、どこへ向かっているのですか?」
「昼食だと言っただろう」
「聞きましたけど、場所を」
「行けば分かる」
説明が足りない人だと思いながらも、黙って景色を眺めた。そして馬車が止まる。
「降りるぞ。ここから歩く」
馬車から飛び降りた先には、大きな池があった。
「わあ……お魚が泳いでます!」
「鯉くらい知ってるだろ?」
「これが鯉! 初めて見ました。色とりどりなんですね」
ユーゴ様がポケットから出した餌を投げると、鯉が一斉に寄ってくる。思わず後ずさった。
「鯉は悪食だ。なんでも食うぞ」
「なんでも……」
ぎゅっと自分の身体を抱きしめる。
「試してみるか?」
「って、なにをですか!」
「冗談だ。お前、顔に出るな」
そのまま歩き出すユーゴ様のうしろに、慌ててついていく。やがて小さな建物が見えてきた。
「ここだ」
貴族の行くような店ではない。けれど、温かい雰囲気がある。
「ハンス、いるか」
奥から大柄な男の人が出てきた。
「ユーゴ様! お待ちしてましたよ。お連れ様もどうぞ」
案内された席に座ると、まずグラスが置かれる。濃い紫の液体が注がれた。
「怪しい飲み物じゃない。ジュースだ」
「ぶどうジュースです。自家製ですよ」
恐る恐る口に運び、一口飲んで、目を見開く。
「濃くて……すごく美味しいです!」
食事も驚くほど美味しかった。サラダも鶏肉もパンも、すべてが新鮮で丁寧で、最後のデザートとお茶まで夢中で平らげた。
「ごちそうさまでした」
大満足だ! 美味しかった~!
「気に入ったなら良かった」
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