16 / 18
まさか迎えにくるとは!
しおりを挟む
「あれ、そういえばどうやって部屋に入ってきたんですか?!」
不法侵入だ。
「ここは貴族も利用するホテルだ。従者も連れずに泊まる方が不自然だろ。お前、一応貴族だしな」
むっ。
「失礼な人は警察を呼びますからね」
「“従者が遅れて到着した”と言ったら、すんなり通されたぞ。怪しまれてたのはお前だ」
マリオさんの紹介なのに……?
「準備出来たか」
「はいはい、お待たせしました」
昨日買ったワンピース。サーラさんに爽やかなポニーテールを作ってもらった。
「どうですか?」
くるり、と回る。
ユーゴ様が一瞬、言葉を止めた。
「……悪くない」
褒めるのが下手すぎる。
⸻
「買い物に付き合え。新婚夫婦への贈り物だ」
「私センスないですよ?」
「なくていい。傍にいろ」
なんだそれ。
宝石店は桁が違いすぎて目が回る。二軒目、家具も扱う店へ。
「時計はどうだ」
「いいですよね。昔、玄関に大きな柱時計があって……時を刻む音が好きでした」
「昔?」
しまった。
「両親が亡くなる前に家を出たので。……はい、この話は終わりです! 前進あるのみですから!」
ユーゴ様が少しだけ目を細めた。
「時を進める、か。じゃあ時計にするか」
四種類並ぶ。
「どれがいい? 悩むな」
「せーので指さしません?」
「いいな」
「「せーの」」
同じものを指した。思わず、二人で笑ってしまう。
「決まりだな」
「うん、これがいい」
店員がにこにこしている。
「お二人の新居に置かれるのですか?」
「ははは。だってさ、ブランシュ」
「まぁ、そう見えたなら嬉しいですね」
ふふ、と笑い返す。
外に出た瞬間、ユーゴ様の顔が戻る。
「助かった。この調子で頼むぞ」
「さっきの顔どこ行ったんですか?」
二重人格者なのか?
⸻
「腹減った。軽く食うぞ」
連れて行かれたのは、気取らない店。
これがまたビーフシチューが、びっくりするほど美味しい。
「うまいか?」
「うん。大好きこういうの」
「学生の頃よく来てた」
そこへ女将さんが出てきた。
「あんた、ユーゴ君かい!」
「久しぶりだな」
「彼女かい? 奥さんかい?」
「内緒だ」
「キレイな彼女だね? どうだい? おいしいかい?」
違う、と言うのも違う気がして黙る。さっきの調子が好ましいようだから。
「すごく美味しいです! お鍋いっぱい食べたいくらいです!」
女将さんは嬉しそうに笑って奥へ引っ込んだ。
「デザートを持ってくるぞ」
「え?」
「お待たせ、ブレッドプディングだよ!」
わぁっ、と声が出た。
残ったシチューにパンをつけ、残さず食べた。この後、デザートが待っている!
「それ、俺もやってた」
自然に笑ってしまう。さっきまで怒っていた人と、同じテーブルで、同じ食べ方をして笑っている。なんだか、不思議だった。
「ブレッドプディング?」
「食べてみな」
「いただきます。……わぁ。ふわっとして、とろっとして、甘くておいしい!」
「ははっ。いい食べっぷりだね。ユーゴ君、彼女いい子だね」
「……まぁ、そうですね。よく食べて、よく寝るところは」
それ、子どもを褒める時の言い方では?
まぁ、いいか。ココアもおいしい。
「軽食のつもりだったが、結構食べたな」
「どんとこいです。ごちそうさまでした」
いつの間にか、支払いは済んでいた。
⸻
「歩いて行くぞ」
「どこに?」
「美術館だ。……例のカメオは?」
「銀行に預けました!」
「ほぅ。考えたな」
「マリオさんに今すぐ行けって言われて」
「……あの男も見たのか」
声が少し低くなる。
「うん。アンティークに造詣がある人だから」
「その話はあまりするな。狙われる可能性がある」
真面目なトーンで話をするから、緊張して人を避けた拍子に、体が車道側へ傾いた。
「危ない」
すっと腕が差し出される。
「組め。危なっかしい」
戸惑っていると、手を取られて形を作られた。
「照れてるのか? 誰も見てない。ほら、周りを見ろ」
「……ほんとだ」
「俺の腕は杖だと思え」
杖。そう思うと、不思議と楽だった。
⸻
美術館は、元王族の別荘だったらしい。
絵画のブロックに入った途端、言葉を失う。
「絵が好きなのか?」
「いえ、全然。ただ、きれいだなって。絵を見ると時代が分かる気がして」
「それも立派な見方だ」
意外だった。否定しない。
⸻
宝飾品のブロック。
ティアラ、王冠、首飾り。
目が追いつかない。
「あ、カメオ」
思わず声が出る。
でも、自分の持つ時代のものはなかった。
(ここに並ぶ日が来るのかな……)
「満足したか?」
すぐ後ろから声がして、思わず跳ねる。
「ぎゃっ」
「失礼な奴だな」
⸻
庭園へ出ると、風が柔らかい。
「バラの香りがします」
「あっちにバラ園がある。行くか?」
「うん」
色とりどりのバラに、思わず足が止まる。
こんなにたくさんのバラを見たのは初めてだった。
ただ、きれいで。
ただ、うれしくて。
しばらく、何も考えずに眺めていた。
不法侵入だ。
「ここは貴族も利用するホテルだ。従者も連れずに泊まる方が不自然だろ。お前、一応貴族だしな」
むっ。
「失礼な人は警察を呼びますからね」
「“従者が遅れて到着した”と言ったら、すんなり通されたぞ。怪しまれてたのはお前だ」
マリオさんの紹介なのに……?
「準備出来たか」
「はいはい、お待たせしました」
昨日買ったワンピース。サーラさんに爽やかなポニーテールを作ってもらった。
「どうですか?」
くるり、と回る。
ユーゴ様が一瞬、言葉を止めた。
「……悪くない」
褒めるのが下手すぎる。
⸻
「買い物に付き合え。新婚夫婦への贈り物だ」
「私センスないですよ?」
「なくていい。傍にいろ」
なんだそれ。
宝石店は桁が違いすぎて目が回る。二軒目、家具も扱う店へ。
「時計はどうだ」
「いいですよね。昔、玄関に大きな柱時計があって……時を刻む音が好きでした」
「昔?」
しまった。
「両親が亡くなる前に家を出たので。……はい、この話は終わりです! 前進あるのみですから!」
ユーゴ様が少しだけ目を細めた。
「時を進める、か。じゃあ時計にするか」
四種類並ぶ。
「どれがいい? 悩むな」
「せーので指さしません?」
「いいな」
「「せーの」」
同じものを指した。思わず、二人で笑ってしまう。
「決まりだな」
「うん、これがいい」
店員がにこにこしている。
「お二人の新居に置かれるのですか?」
「ははは。だってさ、ブランシュ」
「まぁ、そう見えたなら嬉しいですね」
ふふ、と笑い返す。
外に出た瞬間、ユーゴ様の顔が戻る。
「助かった。この調子で頼むぞ」
「さっきの顔どこ行ったんですか?」
二重人格者なのか?
⸻
「腹減った。軽く食うぞ」
連れて行かれたのは、気取らない店。
これがまたビーフシチューが、びっくりするほど美味しい。
「うまいか?」
「うん。大好きこういうの」
「学生の頃よく来てた」
そこへ女将さんが出てきた。
「あんた、ユーゴ君かい!」
「久しぶりだな」
「彼女かい? 奥さんかい?」
「内緒だ」
「キレイな彼女だね? どうだい? おいしいかい?」
違う、と言うのも違う気がして黙る。さっきの調子が好ましいようだから。
「すごく美味しいです! お鍋いっぱい食べたいくらいです!」
女将さんは嬉しそうに笑って奥へ引っ込んだ。
「デザートを持ってくるぞ」
「え?」
「お待たせ、ブレッドプディングだよ!」
わぁっ、と声が出た。
残ったシチューにパンをつけ、残さず食べた。この後、デザートが待っている!
「それ、俺もやってた」
自然に笑ってしまう。さっきまで怒っていた人と、同じテーブルで、同じ食べ方をして笑っている。なんだか、不思議だった。
「ブレッドプディング?」
「食べてみな」
「いただきます。……わぁ。ふわっとして、とろっとして、甘くておいしい!」
「ははっ。いい食べっぷりだね。ユーゴ君、彼女いい子だね」
「……まぁ、そうですね。よく食べて、よく寝るところは」
それ、子どもを褒める時の言い方では?
まぁ、いいか。ココアもおいしい。
「軽食のつもりだったが、結構食べたな」
「どんとこいです。ごちそうさまでした」
いつの間にか、支払いは済んでいた。
⸻
「歩いて行くぞ」
「どこに?」
「美術館だ。……例のカメオは?」
「銀行に預けました!」
「ほぅ。考えたな」
「マリオさんに今すぐ行けって言われて」
「……あの男も見たのか」
声が少し低くなる。
「うん。アンティークに造詣がある人だから」
「その話はあまりするな。狙われる可能性がある」
真面目なトーンで話をするから、緊張して人を避けた拍子に、体が車道側へ傾いた。
「危ない」
すっと腕が差し出される。
「組め。危なっかしい」
戸惑っていると、手を取られて形を作られた。
「照れてるのか? 誰も見てない。ほら、周りを見ろ」
「……ほんとだ」
「俺の腕は杖だと思え」
杖。そう思うと、不思議と楽だった。
⸻
美術館は、元王族の別荘だったらしい。
絵画のブロックに入った途端、言葉を失う。
「絵が好きなのか?」
「いえ、全然。ただ、きれいだなって。絵を見ると時代が分かる気がして」
「それも立派な見方だ」
意外だった。否定しない。
⸻
宝飾品のブロック。
ティアラ、王冠、首飾り。
目が追いつかない。
「あ、カメオ」
思わず声が出る。
でも、自分の持つ時代のものはなかった。
(ここに並ぶ日が来るのかな……)
「満足したか?」
すぐ後ろから声がして、思わず跳ねる。
「ぎゃっ」
「失礼な奴だな」
⸻
庭園へ出ると、風が柔らかい。
「バラの香りがします」
「あっちにバラ園がある。行くか?」
「うん」
色とりどりのバラに、思わず足が止まる。
こんなにたくさんのバラを見たのは初めてだった。
ただ、きれいで。
ただ、うれしくて。
しばらく、何も考えずに眺めていた。
93
あなたにおすすめの小説
出て行けと言ったものの、本当に出て行かれるとは思っていなかった旦那様
睡蓮
恋愛
ジーク伯爵は、溺愛する自身の妹レイアと共謀する形で、婚約者であるユフィーナの事を追放することを決めた。ただその理由は、ユフィーナが婚約破棄を素直に受け入れることはないであろうと油断していたためだった。しかしユフィーナは二人の予想を裏切り、婚約破棄を受け入れるそぶりを見せる。予想外の行動をとられたことで焦りの色を隠せない二人は、ユフィーナを呼び戻すべく様々な手段を講じるのであったが…。
【完結】仕事のための結婚だと聞きましたが?~貧乏令嬢は次期宰相候補に求められる
仙冬可律
恋愛
「もったいないわね……」それがフローラ・ホトレイク伯爵令嬢の口癖だった。社交界では皆が華やかさを競うなかで、彼女の考え方は異端だった。嘲笑されることも多い。
清貧、質素、堅実なんていうのはまだ良いほうで、陰では貧乏くさい、地味だと言われていることもある。
でも、違う見方をすれば合理的で革新的。
彼女の経済観念に興味を示したのは次期宰相候補として名高いラルフ・バリーヤ侯爵令息。王太子の側近でもある。
「まるで雷に打たれたような」と彼は後に語る。
「フローラ嬢と話すとグラッ(価値観)ときてビーン!ときて(閃き)ゾクゾク湧くんです(政策が)」
「当代随一の頭脳を誇るラルフ様、どうなさったのですか(語彙力どうされたのかしら)もったいない……」
仕事のことしか頭にない冷徹眼鏡と無駄使いをすると体調が悪くなる病気(メイド談)にかかった令嬢の話。
白い結婚なので無効にします。持参金は全額回収いたします
鷹 綾
恋愛
「白い結婚」であることを理由に、夫から離縁を突きつけられた公爵夫人エリシア。
だが彼女は泣かなかった。
なぜなら――その結婚は、最初から“成立していなかった”から。
教会法に基づき婚姻無効を申請。持参金を全額回収し、彼女が選んだ新たな居場所は修道院だった。
それは逃避ではない。
男の支配から離れ、国家の外側に立つという戦略的選択。
やがて彼女は修道院長として、教育制度の整備、女性領主の育成、商業と医療の再編に関わり、王と王妃を外から支える存在となる。
王冠を欲さず、しかし王冠に影響を与える――白の領域。
一方、かつての夫は地位を失い、制度の中で静かに贖罪の道を歩む。
これは、愛を巡る物語ではない。
「選ばなかった未来」を守り続けた一人の女性の物語。
白は弱さではない。
白は、均衡を保つ力。
白い結婚から始まる、静かなリーガル・リベンジと国家再編の物語。
【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。
『悪役令嬢』は始めません!
月親
恋愛
侯爵令嬢アデリシアは、日本から異世界転生を果たして十八年目になる。そんな折、ここ数年ほど抱いてきた自身への『悪役令嬢疑惑』が遂に確信に変わる出来事と遭遇した。
突き付けられた婚約破棄、別の女性と愛を語る元婚約者……前世で見かけたベタ過ぎる展開。それを前にアデリシアは、「これは悪役令嬢な自分が逆ざまぁする方の物語では」と判断。
と、そこでアデリシアはハッとする。今なら自分はフリー。よって、今まで想いを秘めてきた片想いの相手に告白できると。
アデリシアが想いを寄せているレンは平民だった。それも二十も年上で子持ちの元既婚者という、これから始まると思われる『悪役令嬢物語』の男主人公にはおよそ当て嵌まらないだろう人。だからレンに告白したアデリシアに在ったのは、ただ彼に気持ちを伝えたいという思いだけだった。
ところがレンから来た返事は、「今日から一ヶ月、僕と秘密の恋人になろう」というものだった。
そこでアデリシアは何故『一ヶ月』なのかに思い至る。アデリシアが暮らすローク王国は、婚約破棄をした者は一ヶ月、新たな婚約を結べない。それを逆手に取れば、確かにその間だけであるならレンと恋人になることが可能だと。
アデリシアはレンの提案に飛び付いた。
そして、こうなってしまったからには悪役令嬢の物語は始めないようにすると誓った。だってレンは男主人公ではないのだから。
そんなわけで、自分一人で立派にざまぁしてみせると決意したアデリシアだったのだが――
※この作品は、『小説家になろう』様でも公開しています。
将来の嫁ぎ先は確保済みです……が?!
翠月 瑠々奈
恋愛
ある日階段から落ちて、とある物語を思い出した。
侯爵令息と男爵令嬢の秘密の恋…みたいな。
そしてここが、その話を基にした世界に酷似していることに気づく。
私は主人公の婚約者。話の流れからすれば破棄されることになる。
この歳で婚約破棄なんてされたら、名に傷が付く。
それでは次の結婚は望めない。
その前に、同じ前世の記憶がある男性との婚姻話を水面下で進めましょうか。
【完結】婚約破棄はいいのですが、平凡(?)な私を巻き込まないでください!
白キツネ
恋愛
実力主義であるクリスティア王国で、学園の卒業パーティーに中、突然第一王子である、アレン・クリスティアから婚約破棄を言い渡される。
婚約者ではないのに、です。
それに、いじめた記憶も一切ありません。
私にはちゃんと婚約者がいるんです。巻き込まないでください。
第一王子に何故か振られた女が、本来の婚約者と幸せになるお話。
カクヨムにも掲載しております。
社畜の私は異世界でも社畜精神が残ったままだった
木嶋うめ香
恋愛
貴族学園の小さな部屋で、私は一人書類仕事に追われていた。
今日も寮には帰れそうにない、机の上には大量の未処理の書類。
せめて空腹を紛らわそうと、ビスケットを鞄から取り出し水を汲んでこようとして立ち上がった途端、視界が暗くなり倒れた。
床に倒れた反動で、頭を床にぶつける。
その衝撃で思い出した、私は前世ブラック企業に勤めていた社畜で、二十三連勤サービス残業付きの末、体調を崩し亡くなったアラサー営業職だった。
他サイトでもアップしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる