旅は道連れ、世は情け?と言われて訳あり伯爵家の子息のパートナーになりました

さこの

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美術館

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美術館は想像以上だった。

扉をくぐった瞬間、空気が変わる。ひんやりと静まり返っていて、時間そのものがゆっくり流れているみたいだ。

「……別世界みたい」

思わず呟くと、ユーゴ様が答える。

「元は王族の離宮だからな」

思わず天井を見上げた。装飾、柱、窓枠の意匠、どこを見ても豪奢なのに嫌味がなくて、ただただ美しい。木々も青々としていて庭園も素晴らしい。

ブロックに分かれていてここは絵画が飾られている。国内問わず有名な絵が所狭しと並んでいる様は圧倒された。色使い、タッチ、感動の連続だ!
絵画のブロックを抜け、宝飾品の展示室に入った瞬間、足が止まった。

「お前、もしかして絵画に造詣があるのか?」
「いえ、まったく……ただ凄いなーきれいだなーって。でも絵を見たら時代背景とかが分かるから……」
「いろんな見方があるからそれも正解なんだろうな。少し齧った知識を偉そうに語るよりかはいい」

肯定するんだ、驚き。ユーゴ様は少し? 齧った知識よりももっと勉強してそうだよね。カメオを見せたときにパッと答えてくれたもの。

「次のブロックはおまちかねの宝飾エリアだ。王族の秘蔵品も展示されている」

きらり、と光が反射する。

「……わぁ……」

そこは、まるで宝石箱の中だった。

ティアラ、王冠、首飾り、耳飾り。どれも歴代の王族が実際に身につけてきた本物だという。

「戴冠式で使われる最古の王冠も保管されている」

ガラス越しに王冠を覗き込む。

ルビー、サファイア、エメラルド、アレキサンドライト。信じられないほど大きな宝石が埋め込まれている。

「……これ、いくらするんでしょう」
「考えるな。頭が痛くなる」
「ですよね……」
「ここは昔の建物で段差が多い。気をつけろよ」
「うん、思っているよりユーゴ様優しいの?」
「はははっ。お前が転んだら連れの俺が恥をかくじゃないか。自惚れるなよ」
「……あ、そうですか」

次のティアラへ視線が移る。このティアラのダイヤモンド……凄い。何億リーズするんだろう……? 天文学的な金額だろう。

「国王や王妃が代替わりするたびに新しく作られるんですよね?」
「よく知ってるな」
「説明書きにありました」

くすり、とユーゴ様が笑った。

顔を近づけて細工を見る。

「この透かし彫り……全部手作業ですよね? 気が遠くなりそう」
「宝石より細工を見る令嬢は珍しいな」
「だってこっちの方がすごいんです!」

夢中になって見ていると、隣の展示に目が止まった。

「あ、オパールの首飾り」

ガラスに張り付くように覗き込む。

「見てください、色が変わるんです。青になったり、緑になったり……光でこんなに違うなんて」

角度を変えながら、いつまでも見てしまう。

「この銀細工も細かい……芸術って奥が深いですねぇ」

さらに奥には大ぶりの首飾りや耳飾り。

「これ重たそう……首こりそうですよね。耳なんてビヨーンって伸びません?」
「……」
「オシャレって大変だなぁ」

小さく笑う気配がした。

そのとき、視界の端に並んだものが目に入る。

「あ、カメオだ」

エメラルドカメオ、ラピスラズリカメオ、オニキスカメオ、シェルカメオ、サンゴカメオ。

足が止まる。

でも、私の持っている時代のものはなかった。

「どうした」
「……もし認められたら、ここに並ぶのかなって」

ユーゴ様が、迷いなく言う。

「並ぶさ」

静かだけど、断言する声だった。

「お前の目は本物だ。俺が保証する」

胸の奥が、じんわりと熱くなる。

ここは王族の世界。遠い存在の世界。

なのに、今、私はそこに立っている。

不思議で、少しだけ、誇らしかった。

「満足したか?」

すぐ後ろから声がして、思わず肩が跳ねる。

「ぎゃっ」

「相変わらず失礼な奴だな」

振り返ると、ユーゴ様がすぐ近くに立っていた。

「暗くなる前に庭園も見ていくか。全部は見られないから、また来よう」
「うん!」

時間が経つのがあっという間だった。

庭園に出ると、手入れの行き届いた花々が広がっている。

「いい香り……どこからだろう」
「あっちにバラ園がある。今は見頃だ」

色とりどりのバラが咲き誇り、甘い香りが風に乗る。

「こんなにたくさんのバラ、初めて見ました……眼福です」

気づけば、ずっと笑っていた。

さっきまで感じていた緊張も、不安も、いつの間にか消えている。

ここは別世界のはずなのに。

なぜか、安心している自分がいた。
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