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市場にて

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「街は更に活気であふれていますね」
エドヴァルドの隣でシルヴィアが笑う

「王都に活気がないと国全体が潤わないからね、良いことだ」
シルヴィアの隣でエドヴァルドが笑う

エドヴァルドが品種改良に携わった小麦や大麦は加工され、麦酒やパンにして販売されている。
特に麦酒は評判が良い様だ。

 エドヴァルドが品種改良した大麦のビールに合うようにとビアグラスを考案して職人に作らせたシルヴィア、持ち手に工夫をしてジョッキタイプは男性に受け、ビアグラスは女性に受けた。
 それもあり男女共に親しまれ、労働の後に一杯と言うスタイルが定着したようだ


「あら…お昼から麦酒飲まれている方が居ますわね…」






「うちのカミさんは世界一おっかねぇんだよ」
「いやいや、うちだろう…おっかねーのなんなってよ」
「うちは人遣いが荒いわ、雑だわ…」

「何言ってんだ!ラウロさんの家は金銭的にも余裕があるんだ、羨ましいよ」
「あれでか…?私には慣れない世界だ。使用人も通いの数人しか居ないし、家も狭い」
「あぁ…あんたお貴族様だもんな」
「品があるもんな、俺らと違ってよ。なんでまた庶民になっちまったんだ?犯罪でも犯したのか?」


 煩い煩い…うるさいっ!私だってなりたくて庶民になんてになったわけではない!
 本当ならこんな奴らと酒を酌み交わすことなんて無かった!こんな安い麦酒を煽るように飲んで…。 

 私の口にはワインが合うんだよ!あぁ血の滴る柔らかいステーキにワインのマリアージュが恋しい、フレッシュなチーズに白ワインのマリアージュが恋しい。
 

「ビルト伯爵様がこの前店に来てよー、うちで麦酒を一杯飲んで行ったよ、この大麦は伯爵の息子が品種改良したらしくて、王宮でも麦酒が出されているらしいぞ」
「おぉ、あのイケメンの息子か!」

 ちっ!ここまで来てまたエドヴァルドの話かよ…
「…もう一杯くれ」 

「あいよっ」
ドンっとテーブルに置かれたグラス麦酒

「なんでグラスなんだよっ!ジョッキでくれよ」

「カミラさんから言われてるんだよ、悪りぃな。あんまり飲ませると、おっかなくてな…」
「なんだよ、全く!酒くらい好きに飲ませろよ…ったく」
 少しイラつき頭を掻きむしる

 ふと路地に目を向けると明らかに裕福そうな二人のカップルが歩いていた
 シルヴィアとエドヴァルドだ…
仲良さそうに寄り添い歩いていた

「おっ。噂をすればイケメンの息子さんじゃないか」
「イケメンで頭も良くて、俺らにも気さくに声かけてくださるなんて伯爵様も自慢だろうな」

「…義理の息子だろうが…!血は繋がってないだろっ」
 ついイラついて毒を吐いてしまった


「隣の美人が婚約者さんか?…ってあれは伯爵の娘さんじゃないか」

「あの方も気さくだよな…伯爵家のお姫様なのによぉ。教会のバザーで菓子を売っていたから買った事があるが、ご自分で作られたそうだ。その後にも着なくなったドレスを売って寄付していた」

「衣装持ちだからな…あいつは」
 嫌なことを思い出してしまったじゃないか!

「売り上げは修道院にも寄付されて、北の厳しい修道院あたりにも毛布が…東の孤児院なんかにも清潔な服が配られたそうだ」


「…そうなの、か?」
 ライラの顔が頭に浮かんだ…元気だろうか、あれからライラとは連絡を取っていない。北の修道院の話を聞くと、大罪を犯したようなものもいると聞く。極寒の地で寒さに震えているのだろうか…
 出てくる事はままならない厳しい場所だと聞いた。
 性格は矯正され、毎朝毎晩祈るのだと言う。そして己と向き合い罪を償うのだそうだ

 東といえば元うちの領地…北東の地は寒さも厳しい場所だ


「寒い場所でも品種改良した麦を作ることができるらしいから、食生活は劇的に良くなったと聞いた。貧しい所には作り方や苗も無償で渡しているんだとさ、伯爵様は凄い方だ」

「金だけ渡すと、必ずちょろまかす奴が出てくるから、現品の方が現場では役立つだろうしな」

「はっ?慈善じゃないか。恵まれないものに施しをってか?」
 シルヴィアの顔を思い出す。自分は裕福だからと下に見ているじゃないか!


「当たり前にできることが、すごい所なんだ。他のお貴族サマは何もしてこなかった。うちのジィさんは東のビルト伯爵領で、畑や田んぼが水害でダメになって、その後の日照りで食えなくなって死んだ。村では毎日毎日誰かが、死んだ…
 その時のビルト伯爵当主は何もしてくれなかった。その後に前ベック伯爵が手助けをしてくれて、畑や田んぼが出来るようになったんだ、感謝しかない…
 いま俺は出稼ぎの身だ、王家管轄の土地となったが、ベック伯爵が管理をしている。川の工事を…水路を…みんな喜んで手伝ったよ。領民は皆ベック伯爵に恩があるものばかりだ」



 そこまでとは…知らなかった
領民の命を祖父は…見殺しにして
…父はどんな思いで伯爵領を守っていたのか
…こんな私に領民の命を守る事が出来たのだろうか
…知らないとは…無知とは恐ろしい
 領地へ足を運んだのはいつだ?覚えていない。領地の邸の周りは被害はなかったのだろう。整備されていた


 シルヴィアはそれも知っていて、うちに嫁いでくる筈だったのか?知っていて家族になるのだからと、優しく接してくれていたのか?


 何が歴史あるビルト伯爵家だ、由緒正しい?そんなもの犬にでも食わしておけばよかった

 今更後悔しても遅いのだ




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