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好きにしても良い

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「お見合いですか?」

 釣書きが送られてきているのは知っているけれど、実際話があったのは初めてだった。(お兄様に見せられたことはあったけど)

「知っていると思うが、かなりの釣り書きが送られてきている。見合いをしたいと言う家もいるが、ルーナはどうしたい? 離縁したばかりだから私は早急に考える必要はないと思っているし、無理をさせたくはない」

 お父様はそう言いながら釣り書きを机のうえにドン! と積み重ねてみせた。チラッとそれを見るが手に取る気にはなれない。

「それでしたらお言葉に甘えて、お断りしてもよろしいですか?」

「もちろん構わない。ルーナの好きにしたら良い。家にいたければずっといても良い」

 家にずっといると言うことは、いつかお兄様が当主になった時も世話になると言うことよね。お兄様の奥さんにしてみればこんな小姑邪魔なだけ。いつかは家を出なくては行けないけれど今は甘えよう。

「まだ離縁して間もないのに婚約したいだなんて変わった人達が多いのですね。わざわざこんな面倒な私とじゃなくても良さそうなのに」

 私は十六歳。白い結婚故、結婚自体はなかった事になるけれど出戻りだ……。十六での結婚は早かったしまだ学びたいことも多い。店は順調に経営をしている。その為忙しくなっているが、大量生産はしたくないのでカフェの方は完全予約。お菓子は完売御免にした。

 お茶会って事前に決まっているんだから、職人やスタッフの手を煩わせないようにした。その方がより希少価値が出るもの。


「そう言うと思っていたよ」

 お父様はくすくすと笑いながら言った。お兄様も無理に結婚させるつもりはないっていっていたものね。

「まだまだ学びたいことが沢山ありますから、優先したいんです」


「学びたいか……」


「? えぇ。経営を学ぶことで知らないことをもっと知れたらと思っています」

「この前パドルに会ってルーナの店の話をしたんだよ」

 パドルさん! フェルナンドのお父様で隣国ではデュポン伯爵。商人をしていてパドルさんと呼んでいた。最近会っていないなぁ……

「パドルさんには小さな頃から良く隣国のお話を聞かせてもらっていましたね。お元気でしたか?」

「相変わらず精力的に活動をしているよ。それでルーナさえ良ければ隣国の学園で経営を学んだらどうかと提案された。鉄道も開通するから直ぐに帰ってこられるようになるから悪くない話だと思った。ただ店の経営も気になるところだよな」

 留学。考えてもいなかった事だった。それも経営を学べるなんて……

「お店のことは気になりますが小さな頃から良く聞いていた外国に触れることが出来るのは嬉しいです。少し考える時間を貰えますか?」

「もちろん。急がないからゆっくり考えてご覧」

「はい」


 話は終わったのでお父様の執務室を出て庭を散歩しながら考えようと思った。

 この小道がお気に入り。花が近くで植えられていて一気に花に囲まれる感覚。はぁ。良い香りー



「わっ!!」

 っと急に声をかけられて

「きゃぁぁっ!」

 驚いて悲鳴をあげてしまった。



「ははっ、驚いたか!」


 ドッキリ成功! と言った感じで笑うアルベーヌ。


「お、お兄様! 子供じみたマネはやめて下さいな! 心臓が止まるかと思いましたよ」

「大袈裟なやつだな」


「難しい顔をしていたから、その顔を崩してやろうとしただけだ。どうした? 考え事か?」

 お見合いの話と、留学の話をされた事をそのまま伝えた。そしてお店のことも。


「あぁ、なるほど。留学はしたいけど店が気になるってことだな。そりゃ気になるだろう。誰か信頼のおけるものに頼むしかないだろうな」



「……スージー?」
「そりゃ侍女だろうが。留学先について行くだろうな」

「……フェルナンド?」
「悪くないが、あいつも忙しい」

「……難しいわ。やっぱり留学は、」
「おい、大事な存在を忘れてねぇか?」

「お兄様? 誰のこと」
「そのお兄サマだよ。お前が留学に行っている間は代わりに見てやるよ」


「お兄様が? 嘘でしょう?」
「しばらく働かなくても俺は株で儲けている。しばらくのんびりと王都で過ごす事にした。王太子も煩いからたまには顔を見せに行くと約束しちまったからな」


「良いの?」
「そこは良いの? じゃなくて出来るのか? って聞くところじゃないのか?」

 やれやれと言った感じでお兄様は自分の腰に手を当て、私の頭をぐしゃっと撫でた。



「もうっ。お兄様は出来ると思うもの。帳簿も一目見ただけで指摘出来るくらいだから」

「数字は得意だからな。ただ菓子店の経営となると話は別だ。お前のこだわりと店のコンセプトや今後の展開など事業計画を纏めてくれ。それに応じて動く事にする。任せてみる気はないか?」

 ニヤリと笑うアルベーヌ。


 お兄様だったら任せても良いのかもしれない。知らない人よりマシよね。

「なんだその胡散臭い顔は? お前は経営をするにあたってまだ半人前なんだから学んでこい! それと外の空気でも吸って年頃の娘らしく学生生活を楽しんでこい。期間は一年、行ってこい!」


 ぶっきらぼうな言い方だけど、優しいのね、お兄様。お父様とお母様の経営を昔から手伝っているものね。経営者代理ができるなんて凄い。


「ふふっ、お言葉に甘えますわ。お店をつぶしたらお兄様のこと許しませんよ!」


「言うじゃねぇか、任せておけ」

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