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緊張します

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「グレイソン様、お嬢様おかえりなさいませ」

「あぁ、ただいま」
「お世話になります」


「お食事になさいますか?」

 メイド長ハンナさんが笑顔で出迎えてくれました。

「そうだな。軽食を頼む。リュシエンヌもそれで良いか?」

「はい。遅い時間に申し訳ありません」

 そう言えばお昼も食べていませんものね。レイ様のお部屋に運んでもらう事になりました。

「ハンナはリュシエンヌの身支度を手伝ってやってくれ」

「はい、喜んで。お嬢様こちらへどうぞ」


 急に泊まる事になったのにレイ様の屋敷の使用人達はみんな嫌な顔をせずに出迎えてくれました。着替えなども用意されていて、なんの心配もいりませんよ。とハンナさんが言ってくれました。ワンピースに着替えてレイ様の部屋へ向かいました。

「食事を用意させよう、リュシエンヌこっちへ」

 レイ様の隣へ座りました。いつ来てもレイ様のお部屋は綺麗に片付いています。

「少しは……落ち着いたか?」

「こうやってレイ様と一緒にいられて嬉しいです」


 夜も深まってきたので具沢山のスープとサラダ、サンドイッチが用意されていました。

「本当にすまなかった」

 レイ様は元気がありません。そんな姿を見たいわけではありません。


「レイ様、あーんってしてください」

 トマトをレイ様の口の前に持ってきた。

「な、何を」

「あーん。です」

 照れながらも口を開けてくれましたのでトマトを口に入れます。レイ様はトマトがあまり好きではないのです。

「レイ様の嫌いなトマトを食べさせてみました。私も嫌な事がありましたが乗り越えました。レイ様もトマトが嫌なのに乗り越えましたね。これでおあいこにしましょう」

「……まったく意味が分からないぞ」


「それならば、もっとレイ様が嫌がることをしますよ?」
 
 脇腹をこちょこちょ……と、くすぐりました。

「こら、食事中だぞ、やめろって」

 悶絶しはじめましたわ。大きな体のレイ様にも弱点はあるのですね。

「やっと笑いましたわ。私はレイ様の笑ったお顔が好きです。レイ様はこれから今日のことも含めて忙しくなりますよね? でも私といる時はリラックスしていて欲しいのです。私はレイ様のおかえりを待っています。どこにも行きませんよ?」

 レイ様が真顔で私を見てきました。ふぅっとレイ様は一呼吸してから言いました。

「……リュシエンヌの姿が見当たらなくて、焦っている自分と……冷静な自分がいたんだ。内部に犯人がいると思った時、あり得ないと自分の考えを打ち消そうともした。リュシエンヌが大事なのに隊のメンツも考えてしまった……こんなことを言って嫌われても仕方がないと思う。騎士団の本部に異動する事は光栄な話で……今回の事で本部への異動はなかった事になるかもしれないとも思った。結果減俸となったが……仕事の事を考えてしまったんだ、最低だ」


「……なんだ、そんな事ですの?」

 レイ様は真面目な方です。そしてご自分の仕事に誇りを持っているのですからそれは当然ですわね。


「そんな事って、」
「レイ様は責任感が強いのですわ。とっても尊敬します。レイ様、私に言いましたよね? 結婚後は生活に困らせる事はしないって。レイ様は頑張ってお仕事をして、いずれは騎士団長になってくださいね? 私は騎士団長の妻ですの。と自慢します! それにまだまだレイ様に買ってもらいたい物も、してもらいたい事もたーくさんありますからレイ様は、私の物欲を満たす為にも今まで以上に働いてもらわないと困りますのよ? お家に帰ってきたらお疲れ様でした。と毎日褒めてあげますから、疲れても帰ってきてくださいね?」

「……リュシエンヌ」

「わかりましたか?」


 レイ様は無言でした。レイ様? もう一度声を掛けてみました。


「──良い女を嫁にできるんだと幸せを噛み締めている」


「あら? 恐妻家というのも悪くありませんわね。レイ様は強面と言われているのでしょう?? 強面騎士も恐る妻というのは最強な気がしませんか?」

 ……最強? 最恐? 悪くありませんわね。

「リュシエンヌがそう言ってくれるだけで最強の夫婦になれそうだな。可愛いくて優しくて気遣いの出来る最強の妻だ」


「強面の旦那様の苦手なピーマンも食べさせてみましょう。はい、あーんしてください」

 恐る恐るピーマンを口にするレイ様。

「苦いな。やはり嫌いだ」

「ふふっ。この苦さが体に良いのですよ? まだまだお子様ですね」

「あぁ。お子様だから一人で寝られないかもしれない。一緒に寝てくれるか?」

 レイ様がニヤリと笑ってきましたわ。これは揶揄われていますわ!


「それでは子守唄を歌ってあげますね」
 
 




 
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