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グレイソン
雨の日の事
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「レイ様、あの時、わたくしじゃなくても声を掛けて助けていましたか?」
藪から棒にどうしたというのだ? 妊娠中の妻に逆らってはいけない! と上司に教えてもらった。逆らう気などは無い。
あの時、あの時、あの時……考えろ。あの時、声を掛けて……ってあぁ。あの時な!
「掛けてないだろうな」
「嘘ですわ。だってレイ様人助けは、」
「一度詰所に戻って別の騎士を行かせただろうな」
ジロリとリュシエンヌは私を見てくる。何だその顔。睨んだところで可愛いだけだ。
「……いや。本当だって、嘘はつかない」
「レイ様は優しいですから困っている人を見たらきっと助けますわ!」
いや、だからリュシエンヌが困っていれば助けるだろうが……こんな威圧感しか無い私が令嬢に言葉をかけたところで、怖がられるだけなんだ。
「リュシエンヌだけだよ。私を見て怖がらなかった令嬢は……」
「怖いだなんて。わたくしがどれだけ嬉しかったかご存知ないのですか? その後、声を掛けてもお話ししてくれて、レイ様の存在がどんどん大きくなっていたのですわ」
それが恋だとお互いに気が付かなかったんだよな。今考えたら傷つきたくないから否定していた。リュシエンヌも同じで鈍感だし。
「リュシエンヌに言ってない事があるんだが……」
「……なんですの?」
捉えようによっては嫌な思いをするかもしれない。リュシエンヌの手を包み込む。
「……実はリュシエンヌの事を以前から知っていたんだ」
「え? 私の事をですか? もしかして、婚約破棄、」
「違う違う! そうじゃない」
婚約破棄をされた令嬢として有名だったからと言いかねない。そんなの私にとってはどうでも良いし、その経験があったからこそリュシエンヌと結婚出来たわけだし、三ヶ月間だけだったという婚約者の男に感謝すらしている。
その後その男が王都の社交界に出ることは無いと言うこと、リュシエンヌに近寄らない事を約束させ(書類にした)コリンズ伯爵家がこれ以上社交界で悪く言われないように裏から手を貸した(リュシエンヌがコリンズ伯爵夫妻と妹達の事を気にしていたから)
コリンズ伯爵家の長女も婚約者が決まったそうだし、伯爵も話がわかる人だからこの先なんとかするだろう。
「リュシエンヌを図書館で見たことがあったんだ。若い令嬢が古書のコーナーにいるなんて事はなかったから、覚えていたんだ」
「そうでしたの? レイ様のお姿を見かけた事ありませんわよ?」
「私みたいな怖い顔の男がいたら驚くかと思って、リュシエンヌが来たら隠れたり帰ったりしていた」
静かな図書館で悲鳴でもあげられたら、流石に傷つくからな。声が響くし驚いただけではなく無体なことでもしたかのように思われるのもちょっと……
「そうでしたの? 知りませんでしたわ」
「リュシエンヌが鼻歌を歌っていて、咳払いをした事も、」
「え?! あれはレイ様でしたの? 恥ずかしいですわ」
そういってリュシエンヌは少女のように顔を赤く染めた。くそ、可愛いな。お腹が大きくなって母になろうというのに更に可愛くなるなんて……
リュシエンヌを膝の上に乗せて話の続きをする。
「その時に可愛いと思った。それからもリュシエンヌを見かけた。姿を見るたびに嬉しくてさ。その時は既に恋していたんだろうな」
あの時は姿を見るだけで満足だった。
「声を掛けてくだされば良かったのに……」
「リュシエンヌは眩しいほどに可愛くて、見惚れたんだ。なのにあそこにはソファすらないなんてな!」
「あれはもしかしてレイ様が?」
「可愛いリュシエンヌが立って本を読んでいたんだ。司書に言って用意された」
「レイ様のおかげでしたのね!」
「司書と陛下が用意したんだ。リュシエンヌが白い手袋をつけて古書を触る仕草が大好きで感動した。世の中にこんな気遣いのできる令嬢がいるんだと……まさか結婚してくれるとは夢にも思わなかった」
「わたくしが知らないだけでレイ様は知っていたと言う事ですのね?」
リュシエンヌを優しく抱きしめた。気持ち悪いだろうか……そう思うよな。こっそり眺めていたんだから。
「その頃には既にリュシエンヌの虜になっていたんだ。気持ち悪いだろう。嫌いになったか?」
「うーん。白い手袋は学園の図書館で司書さんがそうしていたからですし……持ち上げすぎですわね」
「それを良いこととして実行する事が出来るリュシエンヌに目を奪われたんだ。そしてあの雨の日に繋がる。だから私はリュシエンヌに声を掛けた。私の姿を見ても驚かなくて普通に話をしてくれた、嬉しくて……更に好感度が増してしまったよ。って言うと引くか?」
「いいえ。嬉しいですわ」
「傘を返しに来てくれたよな? あの時に声をかけられて振り向いたとき、時が止まったかと思った。それくらいに嬉しかったよ。あの時に勇気を出して傘を貸して良かった」
ぎゅっと首元にしがみつくリュシエンヌ。なんて可愛いんだ! もちろん私もリュシエンヌを抱きしめ返した。メイドが部屋から出て行った。
パタン……
このままリュシエンヌの温もりを感じていたい。明日は早いのだが泊まっていこう。無理はさせないでおこうと思いキスをした。
「ん、レイ様っ、」
「リュシエンヌ……良い?」
「明日は早いのに?」
「リュシエンヌが可愛すぎて我慢が出来なくなった」
そのまま抱えてベッドに連れ込んだ。するとリュシエンヌからキスをしてきた。
その瞬間私の中にいた我慢という名のものが逃げて行った。
藪から棒にどうしたというのだ? 妊娠中の妻に逆らってはいけない! と上司に教えてもらった。逆らう気などは無い。
あの時、あの時、あの時……考えろ。あの時、声を掛けて……ってあぁ。あの時な!
「掛けてないだろうな」
「嘘ですわ。だってレイ様人助けは、」
「一度詰所に戻って別の騎士を行かせただろうな」
ジロリとリュシエンヌは私を見てくる。何だその顔。睨んだところで可愛いだけだ。
「……いや。本当だって、嘘はつかない」
「レイ様は優しいですから困っている人を見たらきっと助けますわ!」
いや、だからリュシエンヌが困っていれば助けるだろうが……こんな威圧感しか無い私が令嬢に言葉をかけたところで、怖がられるだけなんだ。
「リュシエンヌだけだよ。私を見て怖がらなかった令嬢は……」
「怖いだなんて。わたくしがどれだけ嬉しかったかご存知ないのですか? その後、声を掛けてもお話ししてくれて、レイ様の存在がどんどん大きくなっていたのですわ」
それが恋だとお互いに気が付かなかったんだよな。今考えたら傷つきたくないから否定していた。リュシエンヌも同じで鈍感だし。
「リュシエンヌに言ってない事があるんだが……」
「……なんですの?」
捉えようによっては嫌な思いをするかもしれない。リュシエンヌの手を包み込む。
「……実はリュシエンヌの事を以前から知っていたんだ」
「え? 私の事をですか? もしかして、婚約破棄、」
「違う違う! そうじゃない」
婚約破棄をされた令嬢として有名だったからと言いかねない。そんなの私にとってはどうでも良いし、その経験があったからこそリュシエンヌと結婚出来たわけだし、三ヶ月間だけだったという婚約者の男に感謝すらしている。
その後その男が王都の社交界に出ることは無いと言うこと、リュシエンヌに近寄らない事を約束させ(書類にした)コリンズ伯爵家がこれ以上社交界で悪く言われないように裏から手を貸した(リュシエンヌがコリンズ伯爵夫妻と妹達の事を気にしていたから)
コリンズ伯爵家の長女も婚約者が決まったそうだし、伯爵も話がわかる人だからこの先なんとかするだろう。
「リュシエンヌを図書館で見たことがあったんだ。若い令嬢が古書のコーナーにいるなんて事はなかったから、覚えていたんだ」
「そうでしたの? レイ様のお姿を見かけた事ありませんわよ?」
「私みたいな怖い顔の男がいたら驚くかと思って、リュシエンヌが来たら隠れたり帰ったりしていた」
静かな図書館で悲鳴でもあげられたら、流石に傷つくからな。声が響くし驚いただけではなく無体なことでもしたかのように思われるのもちょっと……
「そうでしたの? 知りませんでしたわ」
「リュシエンヌが鼻歌を歌っていて、咳払いをした事も、」
「え?! あれはレイ様でしたの? 恥ずかしいですわ」
そういってリュシエンヌは少女のように顔を赤く染めた。くそ、可愛いな。お腹が大きくなって母になろうというのに更に可愛くなるなんて……
リュシエンヌを膝の上に乗せて話の続きをする。
「その時に可愛いと思った。それからもリュシエンヌを見かけた。姿を見るたびに嬉しくてさ。その時は既に恋していたんだろうな」
あの時は姿を見るだけで満足だった。
「声を掛けてくだされば良かったのに……」
「リュシエンヌは眩しいほどに可愛くて、見惚れたんだ。なのにあそこにはソファすらないなんてな!」
「あれはもしかしてレイ様が?」
「可愛いリュシエンヌが立って本を読んでいたんだ。司書に言って用意された」
「レイ様のおかげでしたのね!」
「司書と陛下が用意したんだ。リュシエンヌが白い手袋をつけて古書を触る仕草が大好きで感動した。世の中にこんな気遣いのできる令嬢がいるんだと……まさか結婚してくれるとは夢にも思わなかった」
「わたくしが知らないだけでレイ様は知っていたと言う事ですのね?」
リュシエンヌを優しく抱きしめた。気持ち悪いだろうか……そう思うよな。こっそり眺めていたんだから。
「その頃には既にリュシエンヌの虜になっていたんだ。気持ち悪いだろう。嫌いになったか?」
「うーん。白い手袋は学園の図書館で司書さんがそうしていたからですし……持ち上げすぎですわね」
「それを良いこととして実行する事が出来るリュシエンヌに目を奪われたんだ。そしてあの雨の日に繋がる。だから私はリュシエンヌに声を掛けた。私の姿を見ても驚かなくて普通に話をしてくれた、嬉しくて……更に好感度が増してしまったよ。って言うと引くか?」
「いいえ。嬉しいですわ」
「傘を返しに来てくれたよな? あの時に声をかけられて振り向いたとき、時が止まったかと思った。それくらいに嬉しかったよ。あの時に勇気を出して傘を貸して良かった」
ぎゅっと首元にしがみつくリュシエンヌ。なんて可愛いんだ! もちろん私もリュシエンヌを抱きしめ返した。メイドが部屋から出て行った。
パタン……
このままリュシエンヌの温もりを感じていたい。明日は早いのだが泊まっていこう。無理はさせないでおこうと思いキスをした。
「ん、レイ様っ、」
「リュシエンヌ……良い?」
「明日は早いのに?」
「リュシエンヌが可愛すぎて我慢が出来なくなった」
そのまま抱えてベッドに連れ込んだ。するとリュシエンヌからキスをしてきた。
その瞬間私の中にいた我慢という名のものが逃げて行った。
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