11 / 193
11. 夢の氷結石
しおりを挟む
「もしかして……俺、世界最強になっちゃうかも?」
ズキズキと痛む脇腹の傷さえ気にならないほど、高揚感が全身を駆け巡る。
そんな思考に耽っていると、男性が戻ってきた。
「よく頑張ったな、小さな冒険者くん」
男性は優しく微笑みながら、手を差し伸べた。
「僕、ユータっていいます。ありがとうございました」
「俺はエドガー。冒険者だ」
にこやかに救いの手を差し伸べてくれたのは三十五歳の中堅の剣士だった。彼の温かな笑顔に、ユータも笑顔で応じる。
「間一髪だったな。間に合ってよかった……。どれ、傷口を見せて見ろ……あぁ、これは痛いだろう。これを飲め」
エドガーが差し出したポーションのおかげで、ユータの傷はみるみる癒えていった。
◇
街への道すがら、エドガーは自身の冒険譚を語り始めた。
「ダンジョンボスのガーゴイル相手に、パーティー全滅寸前だったんだ。もうみんな諦めの目をしちゃってる訳! でも俺だけは勝つって気合いだけで突っ込んで行ったのさ」
「す、すごいですね」
「ふふっ。奴は魔法を撃つ時一瞬動きを止めるんだよね。その瞬間を待ってさっきみたいに短剣でシュッとね。たまたま目に当たって落ちて来たところをザクっと。もう英雄扱いさ」
得意満面のエドガー。
俺は目を輝かせて聞き入った。エドガーの言葉一つ一つが、未知の世界への扉を開いていく。孤児院の中では知り得ないリアルな魔物の話に俺は夢中になった。
「スライムの群れに襲われたこともあってね。百匹近くが崖の上から滝のように降ってきて、危うく命を落とすところだったよ」
エドガーは楽しそうに笑う。そんなエドガーを見ながら、自分も商人ながらそんな冒険をしてみたいなんて思ってしまった。
エドガーの剣を見せてもらうと、レア度は★1。あちこちに刃こぼれが目立つ。
「そろそろ買い替えたいんだが、なかなかいい剣に巡り合えなくてね」
エドガーの言葉に、ユータの脳裏に閃きが走った。これは、自分の仮説を検証するチャンスかもしれない。
「エドガーさん、僕に代わりの剣を用意させていただけませんか?」
驚きの表情を浮かべるエドガー。しかし、ユータが「商人を目指していて、その試作品を試してほしい」と説明すると、彼は優しく微笑んだ。
「そうか、君には夢があるんだね。よし、協力させてもらおう。でも、この剣以上の物にしてくれよ?」
「それは任せてください。驚くような剣を持ってきます!」
俺は両手のこぶしをグッと握って力説した。
エドガーは嬉しそうにうなずいた。
◇
街に到着し、エドガーと別れた俺は、早速『魔道具屋』へと足を向けた。メインストリートから少し外れた薄暗い路地に、小さな看板を掲げた店がひっそりと佇んでいる。
ギギギ――――ッ
重たい扉を開けると、カビ臭い空気が鼻をくすぐり、俺は顔をしかめた。薄暗い店内には、得体の知れない品々が所狭しと並んでいる。動物の骨、きらめく宝石、不思議な形をした瓶。まるで魔法使いの隠れ家のようだ。
カウンターには、釣り目のおばあさんが暇そうに本を読んでいる。
「あのぉ……すみません」
声をかけると、彼女は面倒くさそうに顔を上げた。
「坊や、何か用かい?」
「あの、水を凍らせる魔法の石はありませんか?」
「氷結石のことかい?」
おばあさんの言葉に、ユータの心臓が高鳴る。
「その石の中に水を入れていたら、ずっと凍っているんですか?」
「変わった質問をする子だね?」
おばあさんは不思議そうに眉をひそめた。
「魔力が続く限り、氷結石の周囲は凍ったままさ」
ユータの目が輝く。
(よし、これで行ける!)
この氷結石を使えば、自分の仮説が証明できるかもしれない。そして、それは予想通りなら人生を大きく変える一歩となるはずだった。
俺は心の中でガッツポーズを決めながら言った。
「その氷結石、一つください!」
ユータの声に力がこもる。
おばあさんは少し驚いたような表情を浮かべたが、やがてにやりと笑った。
「一個金貨一枚だよ。坊や、買えるのかい?」
俺は胸を張って答えた。
「大丈夫です!」
そう言いながら、ポケットから金貨を一枚取り出した。
おばあさんの目が驚きで丸くなる。
「あら、驚いた……お金持ちね……」
俺は少しだけドヤ顔でおばあさんを見た。
おばあさんはすでに立ち上がると、奥から小物ケースを取り出してきた。
木製のケースの中には、水色にキラキラと輝く石が整然と並んでいる。まるで小さな宝石箱のようだ。
ズキズキと痛む脇腹の傷さえ気にならないほど、高揚感が全身を駆け巡る。
そんな思考に耽っていると、男性が戻ってきた。
「よく頑張ったな、小さな冒険者くん」
男性は優しく微笑みながら、手を差し伸べた。
「僕、ユータっていいます。ありがとうございました」
「俺はエドガー。冒険者だ」
にこやかに救いの手を差し伸べてくれたのは三十五歳の中堅の剣士だった。彼の温かな笑顔に、ユータも笑顔で応じる。
「間一髪だったな。間に合ってよかった……。どれ、傷口を見せて見ろ……あぁ、これは痛いだろう。これを飲め」
エドガーが差し出したポーションのおかげで、ユータの傷はみるみる癒えていった。
◇
街への道すがら、エドガーは自身の冒険譚を語り始めた。
「ダンジョンボスのガーゴイル相手に、パーティー全滅寸前だったんだ。もうみんな諦めの目をしちゃってる訳! でも俺だけは勝つって気合いだけで突っ込んで行ったのさ」
「す、すごいですね」
「ふふっ。奴は魔法を撃つ時一瞬動きを止めるんだよね。その瞬間を待ってさっきみたいに短剣でシュッとね。たまたま目に当たって落ちて来たところをザクっと。もう英雄扱いさ」
得意満面のエドガー。
俺は目を輝かせて聞き入った。エドガーの言葉一つ一つが、未知の世界への扉を開いていく。孤児院の中では知り得ないリアルな魔物の話に俺は夢中になった。
「スライムの群れに襲われたこともあってね。百匹近くが崖の上から滝のように降ってきて、危うく命を落とすところだったよ」
エドガーは楽しそうに笑う。そんなエドガーを見ながら、自分も商人ながらそんな冒険をしてみたいなんて思ってしまった。
エドガーの剣を見せてもらうと、レア度は★1。あちこちに刃こぼれが目立つ。
「そろそろ買い替えたいんだが、なかなかいい剣に巡り合えなくてね」
エドガーの言葉に、ユータの脳裏に閃きが走った。これは、自分の仮説を検証するチャンスかもしれない。
「エドガーさん、僕に代わりの剣を用意させていただけませんか?」
驚きの表情を浮かべるエドガー。しかし、ユータが「商人を目指していて、その試作品を試してほしい」と説明すると、彼は優しく微笑んだ。
「そうか、君には夢があるんだね。よし、協力させてもらおう。でも、この剣以上の物にしてくれよ?」
「それは任せてください。驚くような剣を持ってきます!」
俺は両手のこぶしをグッと握って力説した。
エドガーは嬉しそうにうなずいた。
◇
街に到着し、エドガーと別れた俺は、早速『魔道具屋』へと足を向けた。メインストリートから少し外れた薄暗い路地に、小さな看板を掲げた店がひっそりと佇んでいる。
ギギギ――――ッ
重たい扉を開けると、カビ臭い空気が鼻をくすぐり、俺は顔をしかめた。薄暗い店内には、得体の知れない品々が所狭しと並んでいる。動物の骨、きらめく宝石、不思議な形をした瓶。まるで魔法使いの隠れ家のようだ。
カウンターには、釣り目のおばあさんが暇そうに本を読んでいる。
「あのぉ……すみません」
声をかけると、彼女は面倒くさそうに顔を上げた。
「坊や、何か用かい?」
「あの、水を凍らせる魔法の石はありませんか?」
「氷結石のことかい?」
おばあさんの言葉に、ユータの心臓が高鳴る。
「その石の中に水を入れていたら、ずっと凍っているんですか?」
「変わった質問をする子だね?」
おばあさんは不思議そうに眉をひそめた。
「魔力が続く限り、氷結石の周囲は凍ったままさ」
ユータの目が輝く。
(よし、これで行ける!)
この氷結石を使えば、自分の仮説が証明できるかもしれない。そして、それは予想通りなら人生を大きく変える一歩となるはずだった。
俺は心の中でガッツポーズを決めながら言った。
「その氷結石、一つください!」
ユータの声に力がこもる。
おばあさんは少し驚いたような表情を浮かべたが、やがてにやりと笑った。
「一個金貨一枚だよ。坊や、買えるのかい?」
俺は胸を張って答えた。
「大丈夫です!」
そう言いながら、ポケットから金貨を一枚取り出した。
おばあさんの目が驚きで丸くなる。
「あら、驚いた……お金持ちね……」
俺は少しだけドヤ顔でおばあさんを見た。
おばあさんはすでに立ち上がると、奥から小物ケースを取り出してきた。
木製のケースの中には、水色にキラキラと輝く石が整然と並んでいる。まるで小さな宝石箱のようだ。
158
あなたにおすすめの小説
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~
北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。
実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。
そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。
グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・
しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。
これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる