「ちょ、俺が救世主!?」~転生商人のおかしな快進撃~

月城 友麻

文字の大きさ
12 / 193

12. 世界最強化計画

しおりを挟む
 うわぁ……。

「どれがいいんだい?」

「どれも値段は一緒ですか?」

 おばあさんは少し考え込むような仕草をした。

「うーん、この小さいのなら銀貨七枚でもいいよ」

 ユータの目が輝いた。

「じゃあ、これください!」

 興奮のあまり手を伸ばそうとしたが、おばあさんの素早い動きに阻止される。

「ダメダメ! 触ったら凍傷になるよ!」

 おばあさんは慌ててユータの手を掴み、軽く叱りつけた。その仕草には、孫を気遣うような優しさが感じられる。

 手袋をはめたおばあさんが、慎重に氷結石アイシクルジェムを取り出す。そして柔らかな布でキュッキュと丁寧に拭うと、急に氷結石アイシクルジェムは濃い青色で鮮やかな輝きを放ち始めた。

「うわぁ~!」

 俺は息を呑んだ。深い海の底から引き上げられたかのような、神秘的なあおい輝き。俺はその輝きにくぎ付けになってしまう。

「霜が付いてるから、そのままじゃ鈍い水色にしか見えないんだよ」

 おばあさんが優しく説明する。

「拭くと、本来の美しさが現れるのさ。どうだい、綺麗だろ?」

 俺は感動に震えていた。この小さな石に、まるで異世界の奥深さが凝縮されているかのようだった。

 おばあさんはユータの反応を見て、にっこりと微笑む。そして小さな箱に石を入れ、「はい、どうぞ」と差し出した。

「ありがとうございます!」

 俺は満面の笑みで小箱を受け取り、慎重にポケットに押し込んだ。


         ◇


 俺の仮説はこうである。

 ゴブリンを倒したのは俺の血がついた槍、つまり、俺の血がついた武器で魔物を倒せば、俺がどこで何してても経験値は配分されるのだ。ただ、血が乾いてカピカピになってもこの効果があるかといえば、ないだろう。そんな効果があったらどんな武器にだって血痕は微量についている訳だからシステム的に破綻してしまうはずだ。だから、まだ生きた細胞が残っている血液が付いていることが条件になるだろう。しかし、血液なんてすぐに乾いてしまう。そこで氷結石アイシクルジェムの出番なのだ。この石を砕いてビーズみたいにして、中にごく微量、俺の血を入れて凍らせる。そしてそれを武器の中に仕込むのだ。これを冒険者のみんなに使ってもらえば俺は寝てるだけで経験値は爆上がり、世界最強の力を得られるに違いない。

 もちろん、それだけだと他人の経験値を奪うだけの泥棒になってしまう。やはり喜ばれることをやりたい。と、なると、特殊なレア武器を提供して、すごく強くなる代わりに経験値を分けてもらうという形がいいだろう。

 俺はウキウキしながら孤児院に戻り、みんなに見つからないようにそっと倉庫のすみに作業場を確保した。

 果たして仮説通りに上手くいきますかどうか……。

 ヨシッ!

 俺はパンパンと頬を張って気合を入れると、氷結石アイシクルジェムの加工作業に入った。


       ◇


 週末の朝、澄み切った空の下、街の広場は活気に満ちていた。『のみの市』の開催日。ユータは胸を躍らせながら、こっそりと貯めたお金を握りしめ、人々の波に身を投じた。

 広場には色とりどりの品々が所狭しと並べられ、それぞれが物語を秘めているかのようだった。ハンドメイドの雑貨や、長年眠っていたお宝たち。ユータの目は、その中でも特に武器に釘付けになる。

「さあ、レア武器を見つけるぞ!」

 俺は気合を入れると鑑定スキルを駆使しながら、端から武器を見て回った。

グレートソード レア度:★
大剣 攻撃力:+10

スピア レア度:★
槍 攻撃力:+8

 しかし、小一時間が経過しても、目当てのレア武器は見つからない。鑑定を使い過ぎて、目はシバシバしてきてしまった。

「うーん、フリマだから仕方ないのかな……」

 少し落胆しながらも、ユータは諦めなかった。★1の武器に氷結石アイシクルジェムを仕込むのは、使う人に損をさせてしまう。それは絶対に避けたかった。

 すごく強くなれるけど、経験値が少し減る。そんな武器を作りたかったのだ。

 疲れた足を休めるため、ユータは噴水の石垣に腰を下ろした。気の良さそうなおばちゃんから買った手作りクッキーを頬張りながら、ユータは快晴の空を見上げた。

 どこまでも広がる青空、賑やかな声が響く広場。そして美味しいクッキー――――。

 つい頬に、自然と笑みが浮かんでしまう。

「ここは、本当に素晴らしい場所だな」

 かつての暗い部屋でゲームばかりしていた日々を思い出し、俺は首を振ると大きく息をついた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

処理中です...